パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6 ⑥

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 ふっと四谷が諦めたように笑った。

「榛名って、あまいって言われるでしょ」
「言われたことないと思うけど……、でも、そうだな。身内にはあまいのかも。敵だって思ったら、すぐ言い返したくなるけど」

 高藤に何度苦言を呈されても、すぐに頭に血が上って言い返してしまいたくなるし、間違いなく自分は気が短いのだと思う。でも、そうじゃない場合もある。不審そうに四谷は問い返した。

「身内?」
「四谷は嫌かもしれないけど、俺は四谷のこと友達だって思ってて。だから、もし困ってることがあったら、役不足かもしれないけど、力になりたいし、嫌になったりしない」
「榛名って、そんなんだったっけ?」

 なんか、もう馬鹿馬鹿しいんだけど、と。呆れたようでいて心なしかほっとしたように苦笑するので、変わったんだと思う、と行人も笑った。
 中等部にいたころの自分は、ほとんど誰も信用できず、硬い殻に籠っていたころの自分であったら、きっとたしかに言わなかっただろう。

「四谷たちが仲良くしてくれるようになって、変われたんだと思う」
「高藤がいたからでしょ」
「うん。でも、四谷のおかげも絶対ある」
「……」
「あと、荻原とか、岡とか。成瀬さんたちはもちろんだけど、交流が増えて、たぶん、視野も広がったんだと思う」

 だから、ありがとう、と行人は言った。

「そういう意味で、身内にあまいっていうのは、お返しみたいなものかもしれない。今、思っただけだけど」
「そっか」

 なんか、本当に馬鹿みたいだな、と四谷が小さく小さく呟く。なにひとつ馬鹿みたいだとは思わなかったけれど、いつか、本心で「馬鹿みたいだったな」と呆れたように笑ってくれるようになったらいいと思った。


 ふたり揃って教室に戻るのもいいかもしれないけど、もう明日でいいんじゃないか、なんて。勝手に決めて寮に帰ることにした。明日は必ず授業に出ると約束をした四谷に、保険医は苦笑ひとつで許可証をくれた。おこぼれ的に行人ももらってしまったので、今日のこれはさぼりではなく病欠になるようである。
 寮に戻る道すがら、よかった、と胸を撫で下ろした行人に、四谷は首を傾げた。

「なに? 榛名の家って、そんなに厳しいの? ああ、でも、そういや、榛名、昔からわりと授業は真面目に出たよね」

 まだ少しぎこちなくはあるものの、世間話という調子だった。

「いや、家はべつに。……まぁ、ちょっと心配性なところがあるから、あんまり伝わってほしくはないんだけど。でも、そうじゃなくて、ほら、その、茅野さん」

 サボると声かけてくれるって知らなかったから、とぽそぽそと打ち明ける。以前に一度サボったときは、図書室で言っていたとおり、成瀬が言葉添えをしてくれていたのか、怒られたわけではなかったのだけれど。それが逆に少し居た堪れなかったというか、なんというか。
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