パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・ゼロⅤ ①

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[卒業編]


 恋愛って、笑える。

 自分がうまくやるために、相手が勝手に抱く好意を利用することは、水城の常とう手段だ。
 ある程度の好意が離れていかないように、適当に愛想も振るし、ある程度以上の相手なら、きちんとご褒美も与えて、それなりに良好な関係を築くこともある。
 そうすることが、自分にとって「いいこと」だからだ。
 だから、なんの変哲もない、――本来だったら、興味を持って話しかけるような相手ではないベータに、自分の大事な時間を割いているのだ。
 その事実をもっとありがたく感じてくれたらいいのになぁ、なんて。とりとめもないことを考えながら、話の最後に、水城はもう一度ほほえんだ。

「それって、脅してるつもり?」
「まさか」

 精いっぱいというふうの虚勢を、さらりと笑い飛ばす。そもそも、脅すなどという低俗な真似なことをしたことは、一度もないつもりだ。
 自分はいつもお願いをしているだけ。今日、彼を裏庭に呼び出したこともそうだ。本当に脅すつもりだったら、もっとわかりやすく何人も取り巻きを連れてきている。それだけの駒を自分は持っているのだから。

「絶対に僕はそんなことはしないけど、もし、そんなことをするつもりがあったら、ひとりでなんてやってこないよ」

 そう思わない、と笑って問いかける。警戒心をあらわにする瞳をじっと見つめたまま。

「ねぇ、四谷くん」

 そもそも、こんなふうに話をすること自体、今日がはじめてというわけでもないのに。あいかわらずの被害者根性だ。
 まぁ、そういうところが、利用しやすいのだけれど。オメガになってアルファに選ばれることもできない、なにものにも一生なることのできない、ただのベータ。
 かわいそうだな、と思う。

「それに、僕は、ただ、僕の目に映るそのままを話しただけのつもりだったんだ。けど、それが、四谷くんを傷つけたのなら、ごめんね。謝るよ」

 でも、と沈黙を続ける相手に、水城は続ける。

「だって、高藤くんも、荻原くんも、榛名くんのことが好きじゃない?」

 アルファがオメガに惹かれることは、ごく自然なことだ。ただのベータがひっくり返すことができるわけもない。けれど、その事実を率直に伝えるほど、水城は無邪気ではないつもりだ。
 そう。だから、これは、「心配」だ。

「それで、榛名くんのことを、すごく大事にしてるでしょ。あんなことがあったから、余計に。……それで、これはすごく悲しいことなんだけど、ふたりとも僕のことをよく思ってないから。だから、四谷くんが、実はずっと僕と仲良しだったって知ったら、余計なことを考えちゃうんじゃないかなって」
「仲良し?」
「ひどいなぁ。そんな顔されたら、傷ついちゃうよ」

 嫌そうに眇められた顔をにこにこと見つめて、ほほえむ。
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