パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16 ⑤

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「うん。だから、……俺のせいで、参加できなくなってるんだったら悪いなって。ちょっと」

 もごもごと告白した行人を見下ろしていた荻原が、ふっとほほえんだ。

「じゃあ、行ってみようか」
「え」
「嫌がられるかもしれないけど、今だったら、まだ少しは参加できるし」
「でも……」

 それこそ、本当に嫌がられるだけではないのだろうか。尻込みをした行人に、ほら、と荻原が朝比奈のほうを見やる。

「ひなちゃんも、説得すること自体を止めはしなかったんでしょ。もちろん、教室で話してるときに、タイミング見て誘ってあげるだけでもいいと思うけどね」

 最終決定を任せられるかたちになって、行人は視線を落とした。こういうことは、本当に苦手だ。なにが正解なのかが、本当にわからない。

 ――でも、そういや、気まずくて嫌だったけど、荻原の部屋にも行ったんだっけ。

 ゴールデンウイークのころだ。その少し前に食堂で嫌な態度を取ってしまって、気まずいなぁと勝手に思って、けれど、思うだけで放置していたころのこと。
 その行人の心情を知ってか知らずか、――まぁ、きっと、知っていたのだろうけれど、成瀬に背を押してもらって、部屋に呼びに行ったのだ。
 誘っても断られるかもしれないし、と躊躇した自分に、断る断らないは相手の自由だけど、自分だけ声をかけられていなかったことをあとから知ったら寂しいんじゃないかな、と。いかにもあの人らしい優しい言葉で。

 ――そうだよな。

 うん、と自分を鼓舞するように、行人は頷いた。

「断られてもいいから、一回だけ声かけてみようかな」
「そうする?」
「あ、……でも、朝比奈にも言われたんだけど、たぶん断られると思うから」

 あまり過度な期待はしないでほしい、と匂わせた言外に、大丈夫だよ、と荻原が請け負う。

「そんなこと言ったら、俺、何回も振られてるし。それに、たぶん、変にゴリ押しさえしなかったら、断られるにしても、そっけなく振られるくらいで済むと思うよ」

 それはそれで、あまりにも期待されていないというか、断られることが大前提になりすぎているような。
 一緒に行こうか、という申し出は断って、行人はこっそりと談話室を抜け出した。
 最近は、寮の一年生の半分くらいはなんだかんだと談話室にいるし、たまに顔を出すだけの人間を含めれば、三分の二くらいは作業に参加している。
 もちろん、するしないは自由だけれど、参加していない人間は「あぁ、だろうなぁ」と納得するタイプばかりで、そういう意味で、四谷の不参加はたしかに少し目立っている。

 ――本当、いまさら言うなって話なんだろうし、朝比奈からしたら、「察しなよ」な理由なんだろうけど。

 でも、自分は、その察するべきほうの理由を、いまさらな感じがして、ちょっと腑に落ちないと思ってしまっている。
 それも、傲慢というやつなのだろうか。ここまで来て悶々と悩みながら、行人は目的のドアを叩いた。
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