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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 8 ⑤
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「ただいま。なに、どうかした?」
また変な顔してるけど、と早々に指摘されてしまったものの、そう言った当人も、なかなかに疲れた顔をしていた。
抱いていた諸々を呑み込んで、べつに、となんでもないふうを装う。できていたかは定かでないけれど、それ以上突っ込まれたくないという意思表示になればいいだけなので、まぁ、いいだろう。
「生徒会、今日も忙しかったの?」
「いや、忙しさはべつにそこまでなんだけど、なんか、……うん、まぁ、そんなとこ」
雑な返事ひとつで、高藤が隣の机で鞄を片づけ始める。その動きで、自分が片づけもしないまま机の前に立ち尽くしていたことに気がついた。できるだけさりげなく置いたままだった鞄に手をかけてみたのだが、ちらりと一瞥されてしまった。
「……」
同時にふたつのことができるほど自分が器用にできていないことを、行人はよくよく知っている。だから、ぐるぐると考え始めると、途端にそれ以外が停止するのだ。悪癖でしかない。
そうして、間違いなく、高藤もそのことを知っている。居たたまれないものを覚えて、行人は世間話を振った。
「えっと、ほら、選挙の立候補、どんな感じ?」
「べつに。……いや、べつに、というか。なんだ、予想の範疇内というか、そんな感じ」
答えたくないにしても、おざなりすぎるだろ。呆れ半分で溜息を呑み込む。高藤にしては珍しいくらいの、これ以上は言いたくないという意思表示だ。
先ほど自分が示した「これ以上突っ込まれたくない」を尊重してもらっている以上、自分もここで引くべきなのだろうが。そうわかっていながらも、なんとなく引けなくて、行人は質問を続けた。
「呉宮先輩も出るって話聞いたけど」
「あぁ、……まぁ」
「まぁって、本当なんだ?」
高藤からはなにも聞いていなかったけれど、その話を四谷に聞いたときから気になっていたのだ。
その先輩に嫌な印象はいっさいないものの、行人自身はほとんど交流がなかったので、よくは知らない。もちろん、中等部の二年だったときに生徒会長をしていた人なので、そういう意味で知ってはいるけれど。
その次に生徒会長をしている高藤は、交流もあっただろうし、よくよく知っている相手だろう。そんな人と争う立場になるのは嫌なんじゃないかなと明らかに気を揉んでいた。
……だから、俺も、ちょっとは気にしとけって言いたかったんだろうしな、あれ。
べつに大丈夫、問題ないだろうで行人なら流してしまいそうなことを、四谷は細やかに気に留めている。昔だったら、鬱陶しいと思っていただろうことだ。でも、今は違う。本当に好きだから気になってしまうのだろうなと理解できてしまう。
「本当、本当。日が来たら公示もされるし。でも、あいかわらずいい人というか、義理堅いというか、成瀬さんのところにも直接出るって言いに来てたよ」
「あ、……そうなんだ」
「そう、そう。昨日かな。べつに、成瀬さんも、あいかわらずしれっとしてたし。でも……」
また変な顔してるけど、と早々に指摘されてしまったものの、そう言った当人も、なかなかに疲れた顔をしていた。
抱いていた諸々を呑み込んで、べつに、となんでもないふうを装う。できていたかは定かでないけれど、それ以上突っ込まれたくないという意思表示になればいいだけなので、まぁ、いいだろう。
「生徒会、今日も忙しかったの?」
「いや、忙しさはべつにそこまでなんだけど、なんか、……うん、まぁ、そんなとこ」
雑な返事ひとつで、高藤が隣の机で鞄を片づけ始める。その動きで、自分が片づけもしないまま机の前に立ち尽くしていたことに気がついた。できるだけさりげなく置いたままだった鞄に手をかけてみたのだが、ちらりと一瞥されてしまった。
「……」
同時にふたつのことができるほど自分が器用にできていないことを、行人はよくよく知っている。だから、ぐるぐると考え始めると、途端にそれ以外が停止するのだ。悪癖でしかない。
そうして、間違いなく、高藤もそのことを知っている。居たたまれないものを覚えて、行人は世間話を振った。
「えっと、ほら、選挙の立候補、どんな感じ?」
「べつに。……いや、べつに、というか。なんだ、予想の範疇内というか、そんな感じ」
答えたくないにしても、おざなりすぎるだろ。呆れ半分で溜息を呑み込む。高藤にしては珍しいくらいの、これ以上は言いたくないという意思表示だ。
先ほど自分が示した「これ以上突っ込まれたくない」を尊重してもらっている以上、自分もここで引くべきなのだろうが。そうわかっていながらも、なんとなく引けなくて、行人は質問を続けた。
「呉宮先輩も出るって話聞いたけど」
「あぁ、……まぁ」
「まぁって、本当なんだ?」
高藤からはなにも聞いていなかったけれど、その話を四谷に聞いたときから気になっていたのだ。
その先輩に嫌な印象はいっさいないものの、行人自身はほとんど交流がなかったので、よくは知らない。もちろん、中等部の二年だったときに生徒会長をしていた人なので、そういう意味で知ってはいるけれど。
その次に生徒会長をしている高藤は、交流もあっただろうし、よくよく知っている相手だろう。そんな人と争う立場になるのは嫌なんじゃないかなと明らかに気を揉んでいた。
……だから、俺も、ちょっとは気にしとけって言いたかったんだろうしな、あれ。
べつに大丈夫、問題ないだろうで行人なら流してしまいそうなことを、四谷は細やかに気に留めている。昔だったら、鬱陶しいと思っていただろうことだ。でも、今は違う。本当に好きだから気になってしまうのだろうなと理解できてしまう。
「本当、本当。日が来たら公示もされるし。でも、あいかわらずいい人というか、義理堅いというか、成瀬さんのところにも直接出るって言いに来てたよ」
「あ、……そうなんだ」
「そう、そう。昨日かな。べつに、成瀬さんも、あいかわらずしれっとしてたし。でも……」
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