パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
367 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 8 ③

しおりを挟む
「なんでって……、一応、寮の後輩なわけだし、見かけたから声かけてくれたんだと思うけど?」
「いや、それもそうなんだけど」

 いや、まぁ、実際のところ、そのシチュエーションだったとしても、向原が声をかけるというのは、やはり意外ではあったのだが、四谷の声音が不本意そうに下がったので、慌てて行人は取り成しに走った。
 自分の私情で、向原の評価が低い自覚はさすがにある。

「その、誰に絡まれてたのかなって。四谷、そういうの、うまく避けるから」
「あ、……えっと」
「四谷?」
「いや、誰って言っても、榛名はわかんないだろうなって思っただけ。上級生だったことはたしかだけど。というか、榛名と違って年中うかうかしてるわけじゃないから。たまたま。たまたまそうなったの」

 憮然と言い切られて、また苦笑いになる。その行人を一瞥して、四谷が小さく息を吐いた。

「というか、そうじゃなくて。びっくりしたし、怖かったけど、うれしかったっていう話だったんだけど」
「……あぁ」

 そういう話、と呟けば、さらに白い目を向けられてしまった。なんだかちょっと居た堪れない。

「榛名にそういう共感を求めた俺が馬鹿だった。もういい、今度からそういう話は時雨にするから」

 ぜひそうしていただきたいと頷く代わりに、曖昧に行人はほほえんだ。精いっぱいの社交性である。でも、それにしても。

 ――向原先輩が、か。

 だから、そこまで怖い人でも嫌な人でもないってば、というのは、いささか聞き飽きた感さえある高藤の言で、自分の感情的な部分を脇に置けば、それが正しいのだということは、さすがにわかっている。
 その前提があっても「意外だ」と感じたのは、わざと不親切にすることはなくても、わざわざ誰にでも親切にするタイプにはどうしたって思えなかったからだ。

 ――そもそも、あの人、「嫌い」とか「嫌悪」とかはなくても、八割の人間「どうでもいい」で括ってそうだし。

 興味がないから、マイナスプラス両面ともに手も口も出さないんだろうな、というか。
 もうひとつ、そもそもで言っていいのなら、あの人が、気に入っている人間自体が本当に少ないとも思うわけで。そういう意味で言えば、その数少ない気に入られている人間である高藤が、「怖い人でも、嫌な人でもない」と評するのは、ごく自然なことであるのだろう。

 ――いや、四谷が助かったのは事実なんだろうから、ぜんぜんいいんだけど。でも、なんか気になるな。

 かたちになりきらない「なんか」を抱えたまま、行人は内心で首をひねっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

処理中です...