パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
上 下
305 / 484
第三部

閑話「プロローグ」①

しおりを挟む
[閑話]


「あのさ、おまえ、あいつになにしたの?」

 興味半分、怖いもの半分といった調子の問いかけに、成瀬は吸いさしを口から外した。顔を上げる。開けた視界に、青い空と派手に染められたオレンジが飛び込んでくる。
 中等部の一年生だった、初秋のころの話だ。

「いや、本当、変な意味じゃなくて。俺、あいつのこと、ここ入る前から知ってんだけど、人に興味持つタイプじゃなかったから。なんか、現状がすげぇ意外っていうか」
「それ、このあいだも聞かれた」
「え? 誰に」
「本尾」
「あー……、本尾。あいつも悪いやつじゃねぇんだけどな」

 自分の身内が迷惑をかけてますと言わんばかりの言い方に違和を覚えて、けれどすぐに得心する。そういえば、そうだった。

「そういや、三人とも同小なんだっけ」
「そう、そう。まぁ、昔からあんな感じっちゃ、あんな感じなんだけど。でも、なんつうのかな。悪ぶってるけど、あれで案外根は真面目というか、まともっつか」
「いいよ、ぜんぜん」

 まともなのは見てたらわかるし、と嫌味でなく成瀬は笑った。そうしてから、でも、と言葉を継ぐ。
 指で挟んだ煙草の先から、ぽとりと灰が落ちる。

「べつに、なにもしてないんだけどな、俺」

 誰になにをどう聞かれようとも、それが事実だった。
 本当になにをしたつもりもないし、そもそもとして、篠原や本尾の言うところの昔の向原を知らないから、「変わった」と言われても、どういう感慨を持てばいいのかよくわからない。

「人間、誰がなにをしなくても、変わるときは変わると思うけど。環境だってここに入ってがらっと変わったわけだし、ある意味、あたりまえなんじゃない?」
「いや、……まぁ、それはそうかもしんねぇけど」

 合点の行っていないのが伝わってきて、静かに繰り返す。

「本当に、俺がなにかしたわけじゃないよ。本尾にもそう言ったんだけどな」
「納得しなかっただろ」
「うん」

 そのときのやりとりを思い出して、成瀬は小さく笑った。

「とりあえず、あいつが本尾に好かれてて、心配されてるってことはよくわかったんだけど」
「言うなよ、それ」
「誰に?」
「どっちにも。……いや、まぁ、向原には言ってもいいけど、本尾には。おまえも変に目の敵にされたくないだろ。あいつ、まともだし悪いやつではないけど、すげぇしつこいから」
「まぁ、それはいいけど」

 本当にべつにどちらでもよかったので、苦笑ひとつでそう請け負う。
 言おうが言うまいが、その結果でなにが起ころうが、自分の今後に影響さえなければ、どうでもいいのだ。ただ。

「仲良くしたいなら、すればいいのにな。本尾、向原のこと好きなのに」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

水泳部合宿

RIKUTO
BL
とある田舎の高校にかよう目立たない男子高校生は、快活な水泳部員に半ば強引に合宿に参加する。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

双子の兄になりすまし単位を取れと言われたが、おいおい何したらこんなに嫌われんの?

いちみやりょう
BL
長男教の両親のもとに双子の弟として生まれた柊木 紫(ひいらぎ むらさき)。 遊び呆けて単位もテストも成績も最悪な双子の兄、柊木 誠(ひいらぎ まこと)の代わりに男子校で学園生活を送ることに。 けれど、誠は逆に才能なんじゃないかというくらい学校一の嫌われ者だった。 ※主人公は受けです。 ※主人公は品行方正ではないです。 ※R -18は保険です。 感想やエール本当にありがとうございます🙇

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

処理中です...