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第三部
パーフェクト・ワールド・エンド19 ⑦
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「どういうことだ、向原」
一年を宥めすかせて送り届けてきた茅野が、戻ってくるなりそう口火を切った。静かだが問い質すような強い口調。白けた気分のまま、向原は応じた。隠すようなことでもなかったからだ。
「あいつが、俺と出くわしたときに言ったんだよ。会いたくないやつばっかり、ってな」
大まかに察したらしい茅野が、長嘆息を吐いてこめかみに指先を当てた。物理的にも頭が痛いような顔をしている。
「頼むから、法に触れるようなことはしてくれるなよ」
「それは」
真剣な瞳が、冗談めかした言い方を完全に裏切っていた。その瞳を見つめたまま、淡々と答える。
「あいつ次第だろ」
本心だった。ぜんぶそうだ。今までのことも、ぜんぶ。あいつが選んできた結果だと、向原は思っている。
「おまえに誓う」
重苦しい沈黙のあとで、茅野が言った。
「おまえに誓って、この寮にいるあいだは、俺がなにも起こさせない。だから、あいつから今を奪ってやるな」
「今?」
「なぁ、向原。俺は、おまえの考えていることも、わからなくはない。篠原もたぶんそう思ってる。だから、必要以上に口を出してこなかったんだ」
でも、とらしくなく必死に言い募る。
「それは、本当に今じゃなきゃ駄目なのか? ここを出てからじゃ遅いのか?」
なんでおまえがそんな声を出すんだよ。そう揶揄する代わりに、うんざりと溜息を吐く。面倒だった。なにもかも、すべてが。
「五年待ったんだろう。あと一年もないんだ。卒業するまでのあいだぐらい、待ってやれ」
だから、なんでおまえがそれを言うんだよ。苛々としたものを呑み込んで、視線を外す。
似たようなことを言われたことは、何度もあった。茅野だけではない。篠原にも言われたし、皓太にも言われた。
あいつは、最後までなにも言わなかった。
「なにも起こさせない。――おまえも含めて」
その言葉に、向原はゆっくりと視線を向け直した。馬鹿みたいな真面目な顔で、茅野が頭を下げた。
「だから、頼む」
時計の針が時間を刻む音が部屋に響いていた。隣の部屋からは物音ひとつ響かないままだ。ここが五階でよかったな、と思いながら、向原は口を開いた。
行動力のある馬鹿ほど、手に負えないものはない。
「それも、こいつ次第だろ」
約束をした。もう何年も前の話だ。面白半分だったことは否定しない。あの夜の自分も、成瀬も、こんな未来を想像してはいなかったはずだ。
――いや、あいつは、案外、もっと早く壊されたかったのかもしれない。
ふとそんな考えが湧いた。そうであったら、いくらか諦めがきいたのではないかと思ったからだ。
そうであれば、こんな泥沼に浸かりきることも、きっとなかった。
一年を宥めすかせて送り届けてきた茅野が、戻ってくるなりそう口火を切った。静かだが問い質すような強い口調。白けた気分のまま、向原は応じた。隠すようなことでもなかったからだ。
「あいつが、俺と出くわしたときに言ったんだよ。会いたくないやつばっかり、ってな」
大まかに察したらしい茅野が、長嘆息を吐いてこめかみに指先を当てた。物理的にも頭が痛いような顔をしている。
「頼むから、法に触れるようなことはしてくれるなよ」
「それは」
真剣な瞳が、冗談めかした言い方を完全に裏切っていた。その瞳を見つめたまま、淡々と答える。
「あいつ次第だろ」
本心だった。ぜんぶそうだ。今までのことも、ぜんぶ。あいつが選んできた結果だと、向原は思っている。
「おまえに誓う」
重苦しい沈黙のあとで、茅野が言った。
「おまえに誓って、この寮にいるあいだは、俺がなにも起こさせない。だから、あいつから今を奪ってやるな」
「今?」
「なぁ、向原。俺は、おまえの考えていることも、わからなくはない。篠原もたぶんそう思ってる。だから、必要以上に口を出してこなかったんだ」
でも、とらしくなく必死に言い募る。
「それは、本当に今じゃなきゃ駄目なのか? ここを出てからじゃ遅いのか?」
なんでおまえがそんな声を出すんだよ。そう揶揄する代わりに、うんざりと溜息を吐く。面倒だった。なにもかも、すべてが。
「五年待ったんだろう。あと一年もないんだ。卒業するまでのあいだぐらい、待ってやれ」
だから、なんでおまえがそれを言うんだよ。苛々としたものを呑み込んで、視線を外す。
似たようなことを言われたことは、何度もあった。茅野だけではない。篠原にも言われたし、皓太にも言われた。
あいつは、最後までなにも言わなかった。
「なにも起こさせない。――おまえも含めて」
その言葉に、向原はゆっくりと視線を向け直した。馬鹿みたいな真面目な顔で、茅野が頭を下げた。
「だから、頼む」
時計の針が時間を刻む音が部屋に響いていた。隣の部屋からは物音ひとつ響かないままだ。ここが五階でよかったな、と思いながら、向原は口を開いた。
行動力のある馬鹿ほど、手に負えないものはない。
「それも、こいつ次第だろ」
約束をした。もう何年も前の話だ。面白半分だったことは否定しない。あの夜の自分も、成瀬も、こんな未来を想像してはいなかったはずだ。
――いや、あいつは、案外、もっと早く壊されたかったのかもしれない。
ふとそんな考えが湧いた。そうであったら、いくらか諦めがきいたのではないかと思ったからだ。
そうであれば、こんな泥沼に浸かりきることも、きっとなかった。
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