パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅩ ⑥

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 自分自身に言い聞かせるように、「俺の勝手な判断だけど」と言う。

「俺じゃ力になれないことでも、アルファのおまえだったら力になれることもあるのかもしれない。余計なお世話だろうなってわかってたけど、でも、ほかに知ってる人なんて、きっと……」
「違う」

 勝手な判断なら俺を巻き込むなよ、だとか、聞かせるなよ、だとか。そんなことばかりをぐるぐると考えていたはずなのに、その言葉は自然と滑り落ちた。

「え?」

 怪訝そうな顔をしっかりと見つめ返せないまま、皓太は繰り返した。

「違う。知ってるよ、あの人」

 だから、か。腑に落ちないと感じていたものがすべてぴたりとあるべき場所に収まっていく。だからなのか。
 知らないでいいなら、知りたくはなかった。けれど、ぞっとしたのだ。
 もし、もし、あの人がアルファとして生きてきたすべてが嘘だったと言うのなら、あの人が歩んできた道はなんだったのだろう、と過った想像に。
 親から、友人から、そのすべてから。アルファだと思われ、アルファとして振る舞って生きてきたそこに、あの人の意志はなにひとつとしてないのではないだろうか。
 それは、あの人の人生と言えるのだろうか、と。

「きっと、知ってるよ。向原さん」
「え……」
「祥くんも知ってるよ。向原さんが知ってることを」

 喧嘩しているわけじゃないと、成瀬が言っていた台詞の真意を、今になって悟ってしまった。たしかに、喧嘩じゃない。
 喧嘩なんて、かわいいものじゃない。

「……俺」

 わかったような気がする、と言いそうになった続きを、皓太は呑み込んだ。自分が軽々しく口にしていいものに思えなかったのだ。
 すべてをわかったとは、思っていない。自分には想像できないような葛藤があったはずだ。この段階に至るまでに。
 怖そうに見えても、優しい人だから。冷たいように見えても、情の深い人だから。
 そうじゃなかったら、自分は懐かなかったし、茅野だって、あんなふうに言わなかったに違いない。
 それに、なによりも、あの人は、昔から本当に大切にしていたのだ。幼かった自分の目でもはっきりとわかるくらいに。
 
 ――でも。

 榛名も同じように黙り込んでいる。なにを考えているのかはわからなかった。けれど、これ以上憶測で語ることはできなくて、皓太は「わかった」と了承することを選んだ。
 話は聞いた、という了承でしかない。榛名はアルファだったら力になれるかもしれないと言ったけれど、成瀬が自分を頼るようなことは絶対にないとわかっていたからだ。
 あの人は、絶対に年下の自分には弱いところは見せない。頼らない。篠原や、茅野や、向原に対してどうなのかはわからないけれど。
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