パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅦ ②

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 否定する気は起きなかった。そうだろうな、とあたりまえの感覚で理解できたからだ。ただ、その、「元通り」に、うんざりとしていたというだけで。
 意味のない、お友達ごっこにも。
 アルファもオメガもない、平和な学園とやらにも。
 口にはしなかったが、気の毒になるくらい察しの良い後輩は、「元通り」になることがないことも、わかっていたのかもしれない。
 ふと、それとも、と思った。
 本当にこの学園を「元通り」にしたいのなら、現状のトップを引きずり降ろさないことには、どうにもならない。そのことも、わかっていたのだろうか。
 世間一般的に見て不可解な現状をつくり出したのは――アルファの統べる世界を、誰しもが平等だとするおとぎ話のような世界に変えたのは、あの男なのだから。


「あ、向原さん」

 櫻寮の入り口で呼びかけられて、背後に視線を向ける。足早に近づいてきたのは皓太と、その同室者だった。

「今、帰りなんですか? 俺もちょっと生徒会のほう手伝わさせられてるんですよね。結果出る前からっていうのは外聞が悪いんじゃないのかなって思わなくもないんですけど」

 あの人たち、あんまりそういうの気にしてくれなくて、と苦笑したところで、皓太は、仏頂面を貫いているもうひとりにちらりと目を向けた。
 どうしようもないと踏んだのか、阿るように声をかける。

「あー……、なんだったら、先、入ってたら?」
「……そうする」

 いかにも不承不承といったていの目礼ひとつを残して、寮の中に入っていく。ぱたんと扉が閉まったのを確認してから、皓太が困った顔で頭を下げた。

「すみません、あいつ、なんていうか、あからさまで」
「べつに、いまさらだろ」

 昔から、それこそ中等部に入学してきたばかりの本当に子どものようだったころから、そうなのだ。
 怖がっているくせに、虚勢を張って負けまいする気の強さ。そんなところがまたかわいいのだと、いつだったか成瀬は言っていたが。

「いまさら、……まぁ、そうですね。たしかにいまさらかもしれませんけど。でも、前とはちょっと違うというか」

 言葉を濁したまま、そう続けて苦笑する。

「ちょうど、さっき水城の噂聞いちゃったもんで。余計に、あれだったかも」
「そうか」
「そうなんです。まぁ、俺はべつに気にしてはないんですけど。……成瀬さんも気にしてないだろうし」

 反応でも窺うように出された名前に、向原は小さく笑った。わざわざ追いかけてきたくらいだ。話したいことがあることはわかっている。

「言わないなら、俺も戻るぞ」
「すみません、わかりました。だから、もうちょっと付き合ってください」

 あっさりと負けを認めてから、皓太は切り出した。

「まぁ、話したいことっていうか、俺がすっきりしたいから言いたいだけなんですけど」
「それで?」
「さっき気にしてないって言いましたけど。そのとおりで、俺、向原さんのことは信用してるんで。たぶん、篠原さんや茅野さんと同じくらいには」

 必要以上に青臭い言葉を並べ立てて、ほほえむ。その言動は、やはり似ていた。

「だから、大丈夫って言いたかっただけです」
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