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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅤ ①
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[5]
「失礼します」
まっすぐに会長席にまで近づいてきた水城が、にこりとした笑みを浮かべた。常と変わらない、花のようなほほえみ。
「このたびは同好会の申請を受理していただいて、ありがとうございました」
「よかったね、風紀が部屋貸してくれたんだって?」
数日前に提出のあった部室の使用申請書のことを持ち出すと、水城がはにかんだ。
「はい。部室がないって困ってたら、本尾先輩がそう言ってくださって。本当にすごく助かりました。でも」
「でも?」
「こうもすんなり許可が下りるとは思っていなかったので、そこにもちょっと驚きました」
「思っていなかったって、どうして?」
問い返すと、きょとんと首を傾げられてしまった。他意も悪意もありません、とでもいうように。
「だって、生徒会と風紀のみなさんは仲が悪いって噂、よく聞きますよ?」
「噂は噂だよ。俺も本尾も、そこまで公私混同はしてないし、不備さえなければちゃんと許可してる」
在室していたもうひとりからの、よく言うよといった視線は無視して、成瀬は苦笑してみせた。
面倒ごとが次から次へと積み重なってくるせいで、篠原の機嫌は最近ずっと低空飛行なのだ。水城が入ってきたときも、決していい空気ではなかったと思うのだが、まったく気にしたそぶりは見せなかった。
いつかの茅野の言ではないが、本当にそういう意味では、いい根性をしていると思う。
「風紀がきみの同好会をあからさまに贔屓でもし始めたら話は別だけど。そんなことはしないだろうし」
処分に値するような大義名分を、簡単に与えてくれる相手ではないのだ。選んだ建前に、水城がにこと口元を笑ませた。
「なんだ。本当に、噂は噂なんですね。会長は本尾先輩のことよく知ってらっしゃるみたい」
「どうかな。あいつは否定すると思うけど」
「ほら、やっぱり。いいなぁ、会長にはなかよしがたくさんいて。でも、ご存じでした? 向原先輩、最近は……」
「水城」
のどかすぎる言い回しに肩を震わせていた篠原が、そこでようやく割って入った。聞き慣れない、妙に優しい声で。
「そのくらいにして早く戻らないと、おまえのなかよしに心配されるぞ。生徒会室でいじめられてるんじゃないかって」
「そんなこと思われるはずないじゃないですか。だって、生徒会室ですよ、ここ」
人懐こい笑顔で振り向いた後輩を、篠原が宥めすかしている。その様子を一瞥して、成瀬は手元に視線を戻した。
任せておけば、適当に追いやってくれそうだったからだ。
「おまえはそう思ってくれてもな、そうじゃない連中もいるだろ。だから、な?」
「そんなことはないと思いますけど。でも、長居してお邪魔するのは申し訳ないですから、失礼しますね」
会長、と呼びかけられてしかたなく顔を上げる。目が合ったのは、いつもどおりの天使の笑顔だった。
「お時間とってすみませんでした。いろいろとありがとうございます」
「失礼します」
まっすぐに会長席にまで近づいてきた水城が、にこりとした笑みを浮かべた。常と変わらない、花のようなほほえみ。
「このたびは同好会の申請を受理していただいて、ありがとうございました」
「よかったね、風紀が部屋貸してくれたんだって?」
数日前に提出のあった部室の使用申請書のことを持ち出すと、水城がはにかんだ。
「はい。部室がないって困ってたら、本尾先輩がそう言ってくださって。本当にすごく助かりました。でも」
「でも?」
「こうもすんなり許可が下りるとは思っていなかったので、そこにもちょっと驚きました」
「思っていなかったって、どうして?」
問い返すと、きょとんと首を傾げられてしまった。他意も悪意もありません、とでもいうように。
「だって、生徒会と風紀のみなさんは仲が悪いって噂、よく聞きますよ?」
「噂は噂だよ。俺も本尾も、そこまで公私混同はしてないし、不備さえなければちゃんと許可してる」
在室していたもうひとりからの、よく言うよといった視線は無視して、成瀬は苦笑してみせた。
面倒ごとが次から次へと積み重なってくるせいで、篠原の機嫌は最近ずっと低空飛行なのだ。水城が入ってきたときも、決していい空気ではなかったと思うのだが、まったく気にしたそぶりは見せなかった。
いつかの茅野の言ではないが、本当にそういう意味では、いい根性をしていると思う。
「風紀がきみの同好会をあからさまに贔屓でもし始めたら話は別だけど。そんなことはしないだろうし」
処分に値するような大義名分を、簡単に与えてくれる相手ではないのだ。選んだ建前に、水城がにこと口元を笑ませた。
「なんだ。本当に、噂は噂なんですね。会長は本尾先輩のことよく知ってらっしゃるみたい」
「どうかな。あいつは否定すると思うけど」
「ほら、やっぱり。いいなぁ、会長にはなかよしがたくさんいて。でも、ご存じでした? 向原先輩、最近は……」
「水城」
のどかすぎる言い回しに肩を震わせていた篠原が、そこでようやく割って入った。聞き慣れない、妙に優しい声で。
「そのくらいにして早く戻らないと、おまえのなかよしに心配されるぞ。生徒会室でいじめられてるんじゃないかって」
「そんなこと思われるはずないじゃないですか。だって、生徒会室ですよ、ここ」
人懐こい笑顔で振り向いた後輩を、篠原が宥めすかしている。その様子を一瞥して、成瀬は手元に視線を戻した。
任せておけば、適当に追いやってくれそうだったからだ。
「おまえはそう思ってくれてもな、そうじゃない連中もいるだろ。だから、な?」
「そんなことはないと思いますけど。でも、長居してお邪魔するのは申し訳ないですから、失礼しますね」
会長、と呼びかけられてしかたなく顔を上げる。目が合ったのは、いつもどおりの天使の笑顔だった。
「お時間とってすみませんでした。いろいろとありがとうございます」
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