上 下
73 / 246

第73話 剣闘祭 第3回戦 vsタリア校

しおりを挟む
大儲けして帰ったその夜。

アイリスが珍しく俺の部屋を訪ねてきた。



「…アルフレッド、毎回思っていたんですがこの細かい戦力分析はどうやるんですか?」



適当な話題を振っているが、本当はそれを話しに来たわけではないことは一目瞭然だ。

手を震わせ、白狼の耳と尻尾がシュンとしている…おそらく明日への不安を紛らわしたかったのだろう。



「…企業秘密だ。」



「そこを何とか…だめですか?」



普段は真面目で無愛想なアイリスが、胸元の緩いシャツに上目遣いという色気で誘惑してきた。

俺は不覚にもギャップ萌えしてしまった。



『これは素…じゃないよな?スーかメリッサの入れ知恵か。』



「そうだな…明日の試合で5人抜きしたら少し教えてあげよう。」



「本当ですか?」



「ああ。だから頑張って勝てよ?」



「はい…!!」



不安を抑えるのもそうだが、どうやら戦力分析のコツを聞きたかったのは本心だったようだ。

俺と話して安心したのは分からないが、手の震えは止まっていた。



しかし何故か、安心したとともにそのまま俺のベッドで眠りについてしまった。



『クレアに続いて今回はアイリスか…それにしてもなんで皆俺のベッドで寝たがるんだよ…』



俺は悶々としながら、欲求を押さえつけて眠りについた。



翌朝



俺はアイリスを起こさないようにそっと部屋を出て、早朝訓練を行った。

その後軽く汗を流し、5人でコロッセオへ向かった。



「アイリス、頑張ってね~!」



「が、頑張って…なのです!!」



「ありがとうございます。」



手の震えもシュンとした耳と尻尾も元通りになっている。

どうやら不安を拭いきり、落ち着いているようだ。



コロッセオに着き、4人は早速準備を始めた。

俺は急いで賭場へ向かい、アイリスの5人抜きに金貨1枚をBETしてきた。



『2.6倍…低いけどまあ仕方ないか。』



悠長にしている時間はないので、俺も控室へ行って準備を始めた。

即座に着替え、5人分の装備…特にアイリスの装備を重視して整えた。



「…よし、準備できたな。」



「はい。では…行きましょう!!」



アイリスを先頭に、舞台へ入場した。

装備をつけたアイリスの背中は、とても頼りになるように見えた。



「アインザス校の入場だーー!!」



「おおおおおおおお!!!!」



「今日はアイリス選手が1番手とのことです。」



「ちなみに彼の英雄、アルフレッド選手は不動の大将です!!」



『いつまで英雄ネタ引きずるんだよ…』



そんなことを思いながら、試合の準備が整った。



「それでは第3回戦1試合目を始めます!!両者武器を構えて…試合開始!!」



相手はパワータイプの片手剣と盾の使い手…防御力が高く、短剣使いとは相性が悪い。



「やぁぁぁぁ!!!」



開始と同時にアイリスが短剣を投擲した。

相手はタワーシールドを前にどっしりと構え、それを難なく防いだ



「…っ!?!?どこに…!?!?」



…のだが、アイリスを見失った。

敵が血眼になって探しているところをアイリスは背後から近づき、首を斬り落として仕留めた。



「試合終了ーー!!勝者、アインザス校アイリス選手ーー!!」



『今のは上手かったな…』



今の数分の間に何があったのか詳しく説明しよう。



まずアイリスが開始と同時に短剣を投擲した。

これによって相手の注意は首元へ飛んでくる短剣に誘導された。



この際、相手に2つの選択肢が与えられていた。

短剣をタワーシールドで防ぐか、敢えて受けるの2択だ。



前者を選べばタワーシールドで視界が遮られ、アイリスを見失う可能性が高い。

後者を選べば、アイリスを見失うことはないがそれなりにダメージを受ける。



…そう、アイリスは相手がどちらを選んでも自分に都合が良い選択肢を投げかけていたのだ。



『恐ろしいが…長所を生かした見事な戦い方だな。』



今回は相手が前者を選び、タワーシールドで視界が遮られた。

その時アイリスは瞬時に死角を見つけ、“瞬足“を行使して相手の懐に潜ったのだ。



『もし俺が相手の立場だったら…両手剣を右手で持って、痛み覚悟で左手の籠手で短剣を弾いてたな。』



それからもアイリスは高度な心理戦を用いて相手を翻弄し、見事無傷で5人抜きに成功した。



「試合終了ーー!!アインザス校の勝利ーー!!」



「3試合連続で無傷5人抜き…それも3人が1人ずつ…」



「やはり不死身のアランが教授として就任した影響でしょうか?恐ろしく強いですね…」



「アイリスお疲れ~!!すごかったよ!!」



「ああ!!オレも見てて圧巻したぞ!!」



「ありがとうございます!!」



「よくやったな。」



「はい!!…では戦力分析のコツを教えてもらえますか?」



「あっ…あ、ああ。」



すっかり忘れていた。

適当にはぐらかして説明しよう。



「メリッサと同じで敵の強さを大体把握できるユニークスキルを持ってるんだ。」



「なるほど…」



「ステータス値は過去の記憶と比較するんだ。

例えば『俺がSTR50で藁の人形を攻撃した時と同じくらいの威力だな…あの人はSTR50前後か。』みたいな。」



「なるほど…!!私も実践してみます!!」



以降アイリスに教えた方法が冒険者の間で広まり、“アイリス流鑑定術“として親しまれたのはまた別のお話。 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

処理中です...