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第6話 稽古

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午前に身体作り、午後に勉強をする生活をして半年が経った。

気温が低くなり始め、たまに雪が降るようになった。



「頑張った…頑張ったぞ俺!!」



机に積まれた本を全て読破してはまた積まれて…を6回繰り返した。

全て暗記できているかはさておき、地理学や歴史学、魔物学など様々な分野の勉強を一通り行った。



ちなみに魔物学とは魔物に関する学問で、その生態を研究するものである。

生息地や食事から弱点や危険な部位など、主に討伐のための勉強である。



また、この半年で分かったのだが訓練と勉強で得られる能力は予想通りシステム外スキルだった。



「今日は疲れたし…もう寝るか。」



翌朝



「ん…?」



いつも通り寝ている間に机に本を積まれていたのだが、今回は10冊しか積まれていなかった。

本の上にメモ書きがあったので読んでみよう。



坊ちゃまへ



半年間お疲れさまでした。

きちんと予復習をしていただけたので、予定通りに授業を進めることができました。



さて、初級編を一通り勉強し終えたので明日から中級編に入ります。

難易度が上がるので、今後は1冊を3回の授業に分けて進めていきます。

これからもよろしくお願いします。



エリス



「結構難しかったのにあれで初級か…もしかしてこの世界の人々は身体だけじゃなくて頭も強いのか…?」



出家してから冒険者として成り上がれるか、心配になって来た。



ペンシルゴン家の家訓で、師匠と先生の両方から卒業資格を取得できるまでは家を出てはいけないという…

確かに5歳までの記憶で外に関するものはなかった。



「…頑張ろう。」



それから父上と他愛ない話をしながら朝食を終え、着替えて庭に出た。



「おはようございます」



「おはようございます、坊ちゃま。」



「師匠、その木剣は…?」



「坊ちゃまの身体もそろそろ出来上がって来ましたからね。少しづつ剣術の稽古を始めようと思いまして。」



「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」



半年間走って走って…重りつけてはまた走って…

最初は地獄のような日々だったが、今思えば最近はそれほどしんどく感じなくなっていた。

どうやらちゃんと体力がついていたようだ。



「エリス嬢も言っておりましたが、坊ちゃまはなかなかに飲み込みが早いですからね。

このまま鍛えていけば十分強くなれるでしょう。」



「ありがとうございます…!!」 



訓練を始めてから初めて褒められた気がする。

精神は社畜のままだが、それでもどこか嬉しく感じる。



「では剣の稽古を始めましょうか。まずはこの木剣を持って素振りを1000回してください。」



「は、はい…」



その木剣は片手剣のようだが、5歳児の俺にとってはデカくて重い両手剣だ。

持ち上げて構えるだけで精一杯だ…



「構え方はこうです!!しっかり構えなさい!!」



「は、はい!!」



「振る速度が遅い!!もっと早くしなさい!!」



「は、はい…」



「軸がぶれてます!もう100回追加です!!」



「は、はぃぃぃ…」



と、こんな感じで師匠にしごかれた。



「それでは一旦休憩を取りましょう。」



「はい…」



素振り中に血豆ができてはすぐに潰れ、両手の皮が剥けまくってボロボロだ。

最初は痛みを感じていたが、今はもはや手の感覚すらない。



「これ…大丈夫だよな?」



そんな心配をしていると、師匠が何かを持ってきた。



「坊ちゃま、これをお使いください。」



「これは…?」



「回復薬です。」



“鑑定“してみると、“回復薬(ランクE)“と書かれていた。



本の知識によると、回復薬は薬草を水に入れて成分を出すことで作れる。

ランクEということは、Eランクの薬草を使って作ったようだ。



「ありがとうございます。」



回復薬の知識はあっても、使うのは初めてだ。

Eランクは確か擦り傷や切り傷、打撲を治す程度の効力だ。



早速両手の掌に回復薬をかけてみた。



「なっ…!!おぉ…!!」



豆や剥けた皮の痕がみるみる消えていき、気がつけば傷は完治していた。

皮膚は自然回復した時と同じように機能するらしく、手の皮がすこし硬く分厚くなった。



「すごい…!!」



想像以上だ。

正直効果をあまり期待していなかったので、驚いた。



「では傷が治ったことだし…そうですね。1度私めと模擬戦をしましょうか。」



「…はい!」



まさか剣を握った初日に模擬戦を出来るとは思わなかった。

俺TUEEE系だったらここで師匠を倒すだろうが…俺には無理だ。



「では構えてください。」



「はい。…っ!!」



師匠の雰囲気が一変した。

本気で殺そうとしているような…鋭くピリピリとした威圧感だ。



俺はその威圧感に耐えることで精一杯で、全く身動きが取れない。

師匠は1歩また1歩とこちらに近づき、そして目の前で剣を振りかざした。



「くっ…!!動けぇぇ!!!」



今までの辛い訓練を思い出し、身体に鞭打ってなんとか左に飛び退いた。

師匠の剣は空を切り、あまりの勢いに強い風が生じた。



師匠を殺す気で対応しないとこちらが殺される…

俺は深呼吸をして追いついたあと、再び師匠と向かい合った。



「くっ…!!はぁぁ!!!!」



師匠が動く前に前に出て、攻撃を仕掛けた。

どんなにボコボコにされても、一撃は絶対にいれてやる…!!



「ふむ…では今日の訓練はこれで終わりです。」



「へ…?」



意気込んだところで師匠の威圧感がなくなり、アホみたいな声が出てしまった。



「今の訓練は自分より強い敵に対して真っ向から挑めるか、計るためのものです。」



「そ、そうだったんですね…」



「これで逃げ出していたら、また走らせようと思っていましたよ。」



「…まじか。」



頑張って耐えて良かった…

それにしても、師匠の強さは化け物級だ。



「まさかあの強さでも冒険者の中では平均とか…言わないよな?」



将来が不安になってきた。
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