誰もいなくなった町

クラーゲン

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交渉

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 ミューが消えてから、数時間後、俺達は理科室に戻って蒸留水を試飲してみた。

「二人ともどうだい? 変な気分になる?」

 ミウちゃんも、アユちゃんも首を横に振った。

 俺も性欲が沸いてこない。

 どうやら蒸留で、薬は取り除けるようだ。

 しかし、何時間もかけてコップ三杯分がやっとだった。もう少し大がかりな装置を作っても、いずれは燃料が枯渇するだろう。

「さて、どうするか?」
「お兄さん。あたし、お兄さんの赤ちゃん作ってもいいです」
「ミウちゃん」
「もう、お兄さんとは、何度もセックスしているし……」
「しかし、アユちゃんはまだ処女だし……」
「私……処女じゃありません」

 え?

「私……いじめっ子に家に連れ込まれて、そいつの兄貴に犯されました。でも、その人はロリコンではなくて、私なら子供ができないからという理由で……」

 ひどい……

「だから、私とやっても大丈夫ですよ」

 とはいうものの、水を飲むたびにやっていては身体が持たないし……そうだ!

「フォーク星人と交渉しよう。僕達はここに残る事に同意するが、水に変な薬を入れるのはやめろと」
「「ええ?」」
「嫌だと言うなら、今すぐミューを呼んで『地球へ帰る』と言えば要求を呑むはずだ」
「でも……」「どうやってフォーク星人と……」
「大丈夫。会う方法はあるんだ」


 車はコンビニの駐車場に止まった。
 
 車を降りた俺達は、店の裏に回る。

 犬小屋の前を取り囲んだ。

「コロ。出ておいで」

 ミウちゃんに呼ばれてコロが出てくる。

「きゅーん」

 可愛く鳴くコロの首輪を、掴んでから俺は言った。

「もう犬のふりはしなくてもいいぞ。フォーク星人」

 そう。コロはフォーク星人が擬態していたのだ。

 俺達を見張るために……

「きゅうん」

(何を言っているのだ? こいつは? 私の正体が分かるはずがない)

「心の声も聞こえている」

(なに?)

「さっき、低開発知性体保護協会の人に会って、ここがどこであるか聞いた。僕たちが望めば地球に帰れることも」

(そんな……出ていくのか?)

「よく聞け。僕達は地球帰還の意思表示はしない。ここに残る?」

(なに? いいのか?)

「ただし、条件がいくつかある」

(どんな条件だ?)

「まず、水に変な薬を入れるのはやめろ」

(しかし……入れないとお前達は……)

「この二人に初潮が来たら子供は作る。だから薬で強制するのはよせ」

(本当に、薬を使わなくてもやるのか?)

「約束する」

(分かった。要求をのもう。正直、あの薬は高いから、あまり使いたくなかったのだ)

「それと、電気、ガス、水道を使えるようにしろ」

(それは構わんよ。ここが地球じゃないとばれた以上、止めておく意味がない)

「それともう一つ」

(今度はなんだ?)

「七日に一度は、僕達を動物園の外に出せ」

(出てどうする?)

「お前達の世界を見てみたい」

(分かった。だが、それは私の権限では決められない。上司に相談してくる。だから手を離してくれ)

 首輪から手を離すと、コロはいずこかへ走り去っていった。

 ミューみたいに瞬間移動はできないようだ。
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