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シェルターに入った経緯

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「戦争が始まる前、私は小さな食堂を経営していました」

 女は、経緯を語り始めた。

「初狩さんは近所の方で、よく食事に来てくれていました。ところがある日、初狩さんが食事を終えた後に鍵を忘れて行ったのです」
「それが、シェルターの鍵だったのですか?」
「はい。翌日返しに行ったのですが、初狩さんは留守でした。ポストに入れて、盗まれては大変だと思いまして、そのまま帰ったのですが、その後にJアラートが鳴って……悪いことだと思いましたが、子供たちを連れて初狩さんのシェルターに……」
「それはさっきも言いましたが、緊急避難として認められます」
「はあ……そんな事、知らなかったもので……」
「とにかく、あなた達がこのシェルターに入った事に関して犯罪性はありません。ただし、シェルター内にある貴金属や宝石などを持ち出したら罪になります。それと食料も、あなた達が食べる分には構いませんが、それを売った場合は犯罪になりますから気を付けてください」
「はあ、売ろうにも、もう……」
「食料を持って行かれたのでしたね。その男はどこのシェルターの人間ですか?」
「分かりません」
「分からない?」
「いつも犬を連れて地下道を散歩していた人です。政府からの電話に困って地下道に出たら、たまたまその人がいたのでお願いしました」
「どんな男でした?」
「五十代ぐらいの男性で、優しそうな顔の人でした」

 倉原? いや、あの人は猫を飼ってはいたが、犬は飼っていなかった。

「でも、優しいのは顔だけで、後になって仲間を連れてうちのシェルターに上り込んで食料を持ち出していきました」

 仲間?

「その仲間の中に、こんな男はいましたか?」

 俺はスマホに、竜二の写真を表示した。

「ええ、いました」

 ビンゴだな。さらに紀里と、猿橋紅葉の写真も見せた。

「そうです。こんなの女達もいました」

 その時、シェルター内に来客を告げるブザーの音が鳴った。
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