魔法のせいだから許して?

ましろ

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あまり眠れなかった……

断罪劇が思ったよりショックだったみたい。
ちゃんと言葉を交わせば分かり合えるかも、なんてありえないと知ってしまった。

結局、心からの謝罪をしたのは王妃様だけだった。あんなにたくさんの人がいたのに。
怖いな。相手より優位に立つ為なら平気で他人を傷付ける人が。弱い人をなぶって愉悦を覚えるとか意味が分からない。

真実の愛もアレだったしね。愛してるといいながら、自分の立場を守る為なら愛する人を悪者にする。ありえないわ。やっぱりもう一発殴りたかった。あの程度の愛にたくさんのものが犠牲になったのかと思うと本当に腹立たしい。


……綺麗なものが見たいな


何がいいだろう。いっそのこと、このまま旅に出ようか。すべてを捨てて美しい海原を渡れば、この汚泥の様な人の悪意から逃げられる?
アルブレヒト殿下に頼もうかな。もういいんじゃないかな、逃げちゃっても。

……でも約束は守らなきゃよね。会って話をしましょうと手紙を送ってしまった。気が重い……魔法が完全に解けて、彼らはどう変わっただろう。





三人と会う場所はフィデルのタウンハウスになった。先輩はまだお父様に謝罪をしていないから我が家には呼べないし、学園には私が行きたくなかった。多分そういう事情を察してくれていたのだろう。彼からうちに集まろうと言ってもらえて本当に感謝している。
先に先輩と話す時間を設けてくれたことも。

久しぶりに会う先輩は少し痩せた気がする。


「先輩、黙って領地に行ってしまってすみませんでした」


先に逃げたのは先輩だけど、騙すように領地に行ったことは謝らないといけないわよね。


「いや、俺の方こそ本当に悪かった」

「……それは、何についての謝罪ですか?」


先輩が少し驚いている。でも、何についてなのか言ってくれないと答えようが無い。それとも今までの私ならとりあえず許していたかな。でもお父様も怒っていたし、なあなあで済ませるのは良くないわよね?


「……怒っているのか?」

「ですから何についてです?主語が抜けていて分かりづらいです。きちんとお話しましょう」

「だからそれは……伯爵と殿下の許しを得ず、勝手に入室した件だよ」

「よかったわ。別の件だと言われたらどうしようかと思いました。ですが、その謝罪は父にしてください。あれからかなりの日にちが経っています。叱責は覚悟してくださいね」


とりあえずその件を一番に謝罪してくれてよかった。本当にどうしてあんなに逃げていたのか。せめて手紙でもいいから送ってくれたらよかったのに。


「なんだか雰囲気が変わったな。冷たくなった気がする。やっぱり俺のこと呆れているのか?」


冷たい?それはどういう意味だろう。
……そうか。いままでは先輩を盲目的に信頼していた。私をずっと助けてくれたヒーロー。そんなつもりは無かったけど、色々知ってしまって温度差があるのかな。よく分からないわ。
でも、ヒーローじゃないって教えてくれたのは先輩自身だよ?手紙にそう書いてあったじゃない。もしかして……あれは許してもらえるはずだと思って送ってきただけなの?


「……手紙で……謝罪をしたいと書いてきたのは先輩よ?だから私は聞く覚悟をもってここに来たの。それとも、内容は手紙で済ませたから、言葉では全部ひっくるめてごめんで終わらせるということなの?」


なんだろう。すごく心臓がバクバクしてる。これ以上聞きたくない。……先輩は本当はどういう人だったの?


「そんなに俺を馬鹿にしたいのか?」


卑屈な表情。こんな顔は初めて見た。
先輩は少し意地悪だけど、本当は優しくて、頼りになって……


「もう知ってるだろ!俺が殿下のことを勝手にライバル視してたこと!そんな俺の事が馬鹿みたいだと思っているんだろ?勝てるわけないのにって!」


ずっと抑えてたのはジーク様への劣等感なの?なぜ?あなたがいたから私は……
待って。嫌だ、気付きたくない。


「先輩……私が好きだって言ってくれましたね。でもずっと不思議だったの。どうして、ジーク様の前で告白したの?」

「あれは!」

「ねぇ、正直に言って。あの時……ううん、ジーク様の魔法が解けてから、自分の感情がどう変化したか。マルティナ様の魔導具が回収されたのは知ってるわよね?その後、どう変わったのか」


1年間ずっと、私と先輩は図書室という小さな世界で、友情のような愛情のような、曖昧な関係のまま過ごしていた。名前のない関係が私にはありがたかった。形だけになっていても婚約者がいるのに恋などできないから。やられたからってやり返したくなかった。
でも……マルティナ様は私が他の人を好きになることを望んでいたの?
もしかして、気付いていた?先輩のジーク様への劣等感と私への恋心を。……利用されていたの?あの空間は魔法で作られた偽物だったというの。


「もしかして先輩は気付いてた?ジーク様のおかしな行動が魔法の反動だって」

「!!」


本当に頭がいいんだな。でも嘘は下手くそね。

先輩のそんなに余裕がない顔を初めて見た。私の勘も結構当たるみたいだよ、ビアンカ。
もうこれ以上聞きたくない。でも、聞かなければ前に進めない。私もだけど先輩も。


「……あの1年間は本当に幸せだったんだ。初恋の女の子と毎日会って少しずつ仲良くなれて。アイツへの劣等感なんて感じなくなった。だからいい先輩ぶるのも簡単だった。
でも、殿下が魔法を解いてから……俺は前以上に殿下への劣等感が増したんだ。お前の為に魔法を解くなんてどれだけだよ!どこまで王子様なんだ!
だから絶対に邪魔をしてやるって思った。お前はアイツを怖がるからきっと俺のものにできるって思ったのに。どこまでもお前を諦めず、お前もだんだん怖がらなくなった。とうとう話し合いをするなんて言うから!
徹底的に見せ付けようと思ったんだ。ビアンカに煽られて、でもアイツが今更どう頑張ろうとお前は俺を選ぶって思ったんだ!だからあの場で告白したんだよ!それなのに……お前は俺を冷たくあしらったんだ。
こんなはずじゃなかったのにっ!!」



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