貴方様の後悔など知りません。探さないで下さいませ。

ましろ

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24.遅過ぎる後悔

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ヴァジェイラ国。知っているよ。
その国の法？それももちろん知っているさ。
その話を聞いた時、イライアス殿下が爆笑していたから。もしこの国にその法があったら、閨の相手は間違い無くお前だな！と、そう冗談を言い合っていた。

でも、まさか……

「何故です、父上。なぜ私がその様なことを!?」

信じられなかった。
宰相という立場から、優しい父とは言い切れないが、それでも私を大切にしてくれていると、

「お前にぴったりの仕事だろう。女の気持ちが良く分かるようになるであろうな」

……何だ？女の気持ち？先日お断りした子爵令嬢か？それとも──

「殿下から全て聞いたよ。初めての女はそれ程までに良かったか」
「!!」

殿下っ、何故ですか！貴方が全てを隠して下さったのに!!

「本当に驚いたよ」
「あ、ち、違うのです！酔ってしま、あのっ、記憶も無くてっ」
「それも聞いた。だが、世の中の酔っぱらいが毎回強姦するのか？それは随分と恐ろしいことだ。酒の禁止令を出さねば、女は夜は出歩けないぞ」

あっ……確かにそうだけど、でもっ、

「グローリアのことがショックで、それで」
「失恋したら強姦？恋愛禁止は流石に難しいなぁ」

なんでっ、どうして父上はそんな意地の悪い言い方を！

「ちゃんとその女性を探しました！謝罪をしようと、それと、もし出来るのであれば妻としてっ」
「お前は自分を殺そうとした人間と人生を共に出来るのか」
「……は？」
「体を穢しただけだと思ったか。もちろん、それだけでもお前は最低だよ。その時の女性の恐怖を考えれば、お前が多少掘られたところで何の慰めにもならんだろう。
だがな、お前の罪はそれだけじゃない。
ああ、強姦という言葉が悪いのか。なぜなら、お前のやったことは殺人なのだから」

は……？何を言っている。そんなことはしていない！ただ、グローリアを愛していて、それで、

「その娘は純潔と共に、清らかな女性であるという立場を失ったのだ。貴族であったなら、それは社会的な死だな。殺人と何が違う？お前は自分の欲望の為に、一人の女性を殺した犯罪者だ」

…………どうして？だって私は…………

「それなのに、反省したのは数日だけ。あっという間に殿下の侍女に恋をしただ何だと……

気が狂っているとしか思えん！こんなのが私の息子なのか？こんなものを20年以上も大切に育ててきたのかっ!?

………どうして？私が知りたいよ。どうしてそんなにも酷いことが出来る？何故あっさりとその罪を忘れて新しい恋などに浮かれられる？
どうしてっ！……どうして、殿下の下さったチャンスを大切にしなかったのだ……」

──父上の涙を、初めて見た

そんな……ただ、私はグローリアを……シャノンを、ただ愛しただけで、

「お前の罪はそれだけでは無い」
「え……」
「フェヒナー第二王子妃を犯そうとした罪」
「！」

違う……！
本当にグローリアを犯そうとした訳では──
では、誰を？グローリアの名を呼びながら、誰を抱くつもりだったんだ？

「たまたま、その女性が何も言わなかっただけだ。だからフェヒナーに知られることが無かっただけ。
お前は、フェヒナーとの関係を壊そうとした重罪人なのだよ」
「……そんな……」

だからヴァジェイラなのか。かわりに新しい国との取引を手に入れと。
出たであろう国の損失。それに見合う刑罰なのか。

「それでもお前は妃殿下の身代わりとして大切にされるだろう。お前に知らない女の名前を呼ばれながら抱かれた娘とは違って。幸せだろう？
国に戻れば皆に褒められることだろう。良くやったと。だが、気をつけろ。何処からお前の仕事内容が漏れるとも限らない」
「…っ、そんなことが知られたらっ」

恥ずかしくて生きていけないっ!!

「その娘も、ずっとお前よりも重い苦しみを背負っているよ」
「!?」
「お前の様に褒められることもない。
ただ、今日はバレなかった、でも明日は？そうやって毎日毎日不安の中生きていくんだ。
子が出来たかもしれないという恐怖まである。そのことを考えなかったのか？

お前は幸せでよかったなぁ。
私も……これからはその地獄の仲間入りだ。

どうだい？嬉しいかな、仲間が増えて」
「父上……」
「私はな、いつか……お前と殿下が、新しい時代を作っていくことを本当に楽しみにしていた。

──残念だよ」
「父上っ!!ご、ごめんなさいっ、私はっ！」
「国の為にしっかりと働きなさい。お前に望むのはそれだけだ」

そう言うと、父上は私に背を向けて行ってしまった。

どうしてこんなことに……

いや、全ては私のせいで。
気が付けば、自分も家族も全部巻き込んで、台無しにしてしまった。

いっそ死んでしまいたいと思う。
でも、自分で命を絶つなんて、恐ろしくて出来そうもない。

私が出来ることは、父上に言われた通りにただ静かに行動する事だけだ。だってもう、父上は私に何も期待していない。

私が……全部駄目にした。

どうして……あの時、酒なんか飲んだ。
どうして……もっと早くに恋を諦めなかった。
どうして……殿下に救ってもらたのに新たな恋になどに

恋……では無かったのかもしれない
ただ、シャノンがあの夜の女性だったら全てが収まるのにと……

どうして私はこんなにも愚かなんだ

どうしてどうしてどうして───

父はいない。殿下もいない。もう誰も助けてはくれない。

それから1週間後、船で旅立った。
もちろん見送りはいなかった。

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