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3章 3年目の結婚記念日。そして──
31. イヴォンヌside
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こわいことがあった
つらい かなしい かなしい
だから
わすれて なにも みないで
ずっと夢を見てるよう。
お母様達が心配そうにしてる。なぜ?悲しいことなんてないのに。私を傷つけるものはない。
そう。夢だ。ここは怖い事のない夢の世界。
ずっと幸せな子供でいられるの。
そんな夢の世界に、ある日とても綺麗な女の子が現れた。薔薇色の美しい髪に、猫のようなグリーンアイズ。
──ローズ。初めてのお友達。
なぜこんなに心惹かれるのだろう。
彼女は真っ直ぐ私を見つめる。その瞳が心地いい。
彼女が馬車に乗ると聞いた時は怖かった。
馬車はダメよ。私の大切なものを奪うもの。大切なもの……なんだったかしら。
とっても大切なはずなのに思い出せない。
思い出しては駄目よ
どこかから声がする。夢の世界の足元には、薄い氷。その下にはドロドロの闇がある。思い出したら逃げられない。
だから思い出さないで──
ローズといるととても幸せ。少しずつ夢の世界のベールが外されていく。以前まで見えなかったものが少しずつ見えてくる。
怖い。でもローズが嬉しそう。
ローズが結婚する。
幸せになる。それならお祝いが言いたいわ。
今なら馬車くらい乗れるのではないかしら。
だって、大切なローズのためだもの。
「お兄様、ローズの結婚式に行きたいわ。」
渋るお兄様を説得して、まずはお兄様の宮まで行くことにした。
馬車に乗る。平気よ、怖くないでしょう?
だってもう・・・・はいないもの。
・・・・は・んだもの
なに?なにがもういないのだったかしら
いない、いない、誰が?
頭が痛い、お兄様の声がする
「イヴォンヌが倒れた。熱が出てきてる。このまま移動は難しいから母上に指示を仰いでくる。戻るまで任せていいか?」
誰に話しているの?
誰、私は誰を探しているのだった?
探して──違うもういない
違う消えるはずがない
こんなに愛しているのに!
「…探さなきゃ…」
「イヴォンヌ様、気が付かれましたか?」
だれ?男の人?
あぁ、そうだわ、カミーユ!!
「こんなところにいたの、探していたのに!
ひどいひどいっ、ずっと待っていたのよ!」
「えっ、あ、イヴォンヌ様?!」
駄目よ逃げないで、手を離したら今度こそ消えてしまう!ぎゅっと強く抱きつくように縋る。
「違うわ、ちゃんと呼んで、イヴって、いつもみたいにイヴって呼んで。もう二度と離さないで、愛してるの、愛してる。
会えなくて寂しかったっ……」
「──イヴ?……イヴ、イヴッ」
あ……?
ちがう……彼はこんな声じゃなかった。こんな香りじゃなかった。こんな───だれ?
彼じゃない でも懐かしいかお
「……きりあん?」
「はい、愛しています。イヴ。」
なぜあなたが私に愛を告げるの
あなたは、あなたはローズと結婚するのでしょう!
「、あ、、いや、いや!」
「イヴ?どうし「やめて、その名で呼ばないで!!」」
「え、だって今」
「違う、そう呼んでいいのはカミーユだけよ!!なんで!違うって分かっていたはずでしょう?!」
イヴと呼ぶのはカミーユだけだわ!
あぁ、どうしよう!ローズになんて言えばいいの?
ローズ、ローズ!私はただあなたを祝福したかっただけなのに!どうしてこんな…
だめ、吐きそう、体が支えられない……
「イヴォンヌ様!」
「わたしに、触れ、ないで…、」
その後のことは覚えていない。何度か目覚めた気がする。ローズが来てくれた?いえ、謝りたい私の願望かもしれない。
ようやく熱も下がり意識がハッキリしてきた。
そして愕然とした。
──キリアンとローズが結婚した
なぜ結婚してしまったの!あんな、私に愛を告げたくせに!ローズを裏切ったくせに!
私が夢に逃げていたせいだ。
もっと早くに気が付いていればこんなことにはならなかったのに。
カミーユとの思い出も穢された
イヴ。彼だけが呼ぶ大切な呼び名。
今はローズを裏切った証になってしまった。
なぜ彼なんかと間違えてしまったの……
すべてを思い出して死にたくなった。私が逃げていたせいでカミーユとの思い出は穢され、友達の不幸を止められなかった。
ローズだけは幸せにしないと!
お父様に言ったらなんとかできる?
でも、あの場には他に誰もいなかった。頭のおかしくなっていた私の言葉なんていくらでもごまかせる。そもそも最初に抱きついたのは私だわ。
証人がいればいい。
そう、皆の前で仕掛ければいいわ。
あの人が私に愛を示すならば必ずローズと別れさせる。もし、私にはなびかず、ローズを守り抜くならば、そしてローズが彼のもとにいることを望むなら、私は全てに蓋をする。死ぬまで誰にも話さない。
ローズに会いたい。会って謝りたい。
でも、お人好しのローズはきっと私を許すわ。
そんなの駄目。私を許さないで。
カミーユ、もう一度イヴって呼んで──
つらい かなしい かなしい
だから
わすれて なにも みないで
ずっと夢を見てるよう。
お母様達が心配そうにしてる。なぜ?悲しいことなんてないのに。私を傷つけるものはない。
そう。夢だ。ここは怖い事のない夢の世界。
ずっと幸せな子供でいられるの。
そんな夢の世界に、ある日とても綺麗な女の子が現れた。薔薇色の美しい髪に、猫のようなグリーンアイズ。
──ローズ。初めてのお友達。
なぜこんなに心惹かれるのだろう。
彼女は真っ直ぐ私を見つめる。その瞳が心地いい。
彼女が馬車に乗ると聞いた時は怖かった。
馬車はダメよ。私の大切なものを奪うもの。大切なもの……なんだったかしら。
とっても大切なはずなのに思い出せない。
思い出しては駄目よ
どこかから声がする。夢の世界の足元には、薄い氷。その下にはドロドロの闇がある。思い出したら逃げられない。
だから思い出さないで──
ローズといるととても幸せ。少しずつ夢の世界のベールが外されていく。以前まで見えなかったものが少しずつ見えてくる。
怖い。でもローズが嬉しそう。
ローズが結婚する。
幸せになる。それならお祝いが言いたいわ。
今なら馬車くらい乗れるのではないかしら。
だって、大切なローズのためだもの。
「お兄様、ローズの結婚式に行きたいわ。」
渋るお兄様を説得して、まずはお兄様の宮まで行くことにした。
馬車に乗る。平気よ、怖くないでしょう?
だってもう・・・・はいないもの。
・・・・は・んだもの
なに?なにがもういないのだったかしら
いない、いない、誰が?
頭が痛い、お兄様の声がする
「イヴォンヌが倒れた。熱が出てきてる。このまま移動は難しいから母上に指示を仰いでくる。戻るまで任せていいか?」
誰に話しているの?
誰、私は誰を探しているのだった?
探して──違うもういない
違う消えるはずがない
こんなに愛しているのに!
「…探さなきゃ…」
「イヴォンヌ様、気が付かれましたか?」
だれ?男の人?
あぁ、そうだわ、カミーユ!!
「こんなところにいたの、探していたのに!
ひどいひどいっ、ずっと待っていたのよ!」
「えっ、あ、イヴォンヌ様?!」
駄目よ逃げないで、手を離したら今度こそ消えてしまう!ぎゅっと強く抱きつくように縋る。
「違うわ、ちゃんと呼んで、イヴって、いつもみたいにイヴって呼んで。もう二度と離さないで、愛してるの、愛してる。
会えなくて寂しかったっ……」
「──イヴ?……イヴ、イヴッ」
あ……?
ちがう……彼はこんな声じゃなかった。こんな香りじゃなかった。こんな───だれ?
彼じゃない でも懐かしいかお
「……きりあん?」
「はい、愛しています。イヴ。」
なぜあなたが私に愛を告げるの
あなたは、あなたはローズと結婚するのでしょう!
「、あ、、いや、いや!」
「イヴ?どうし「やめて、その名で呼ばないで!!」」
「え、だって今」
「違う、そう呼んでいいのはカミーユだけよ!!なんで!違うって分かっていたはずでしょう?!」
イヴと呼ぶのはカミーユだけだわ!
あぁ、どうしよう!ローズになんて言えばいいの?
ローズ、ローズ!私はただあなたを祝福したかっただけなのに!どうしてこんな…
だめ、吐きそう、体が支えられない……
「イヴォンヌ様!」
「わたしに、触れ、ないで…、」
その後のことは覚えていない。何度か目覚めた気がする。ローズが来てくれた?いえ、謝りたい私の願望かもしれない。
ようやく熱も下がり意識がハッキリしてきた。
そして愕然とした。
──キリアンとローズが結婚した
なぜ結婚してしまったの!あんな、私に愛を告げたくせに!ローズを裏切ったくせに!
私が夢に逃げていたせいだ。
もっと早くに気が付いていればこんなことにはならなかったのに。
カミーユとの思い出も穢された
イヴ。彼だけが呼ぶ大切な呼び名。
今はローズを裏切った証になってしまった。
なぜ彼なんかと間違えてしまったの……
すべてを思い出して死にたくなった。私が逃げていたせいでカミーユとの思い出は穢され、友達の不幸を止められなかった。
ローズだけは幸せにしないと!
お父様に言ったらなんとかできる?
でも、あの場には他に誰もいなかった。頭のおかしくなっていた私の言葉なんていくらでもごまかせる。そもそも最初に抱きついたのは私だわ。
証人がいればいい。
そう、皆の前で仕掛ければいいわ。
あの人が私に愛を示すならば必ずローズと別れさせる。もし、私にはなびかず、ローズを守り抜くならば、そしてローズが彼のもとにいることを望むなら、私は全てに蓋をする。死ぬまで誰にも話さない。
ローズに会いたい。会って謝りたい。
でも、お人好しのローズはきっと私を許すわ。
そんなの駄目。私を許さないで。
カミーユ、もう一度イヴって呼んで──
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