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1章
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「イヴォンヌ!勝手に出ていくなと言っただろう!」
「お兄様、もう迎えに来てしまったの?」
「キリアンはまだ怪我で休暇中だからゆっくりさせてやりなさいと言ったはずだぞ。お前にそそのかされて連れてきた奴らが叱られるんだぞ。どうするつもりだ?」
「叱ったらだめよ、私のお願いを聞いてくれただけだもの!
私はキリアンに会いたいって何度も言ったのに、お兄様が意地悪するからいけないのよ。
お礼もお詫びも言えてなかったもの、とっても失礼じゃない!」
「失礼なのは連絡なく訪問することだ。」
「ごきげんよう。ジョルジュ殿下。無断の訪問は殿下も同じですわね?それどころかノックも無しに勝手に入ってくるなんて。」
「ローズ夫人、怒っているのか?うん、怒ってるな。悪かった。」
「アラン様も殿下に引っ張って来られたのですか。大変ですわね。」
「いや、これでも護衛なんだけどね。突然来て悪かったよ。僕ではこの人を止めることは無理だった。」
突然部屋に入ってきたジョルジュ殿下と近衛兵のアランと気軽に話すローズ嬢を呆然と見る。
「キリアンも悪かったな。イヴォンヌがいなくなってるからこちらも驚いたよ。」
「…いえ、大丈夫です。」
「──どうした、記憶が戻ったか?」
「そうなの、聞いて兄様!キリアンはね、私のことだけ思い出したのよ!イヴって呼んでくれたわ!」
「申し訳ありません!そのように馴れ馴れしい真似を。なぜか口をついて出てしまい……」
「なぜかは思い出せないのか。」
「……」
なぜか。考えなくても分かる。未来の私はイヴと愛称で呼ぶことを許されていたのだろう。彼女の香水の香りを覚えるほど近くにいることも。
ただ、なぜ妻帯者である私がそのようなことを許されていたんだ?
いや、だから妻を…ローズ嬢を蔑ろにしてきたのか。
「ローズ夫人、どこまで話ができた?」
「本当は何も話さずサインだけ貰おうとしたんですが無理でした。混乱していたようなので、信頼の置ける人間からの説明の方が納得できるかとルイ達に頼んだんですがまったく役にたたなくて。
仕方なく今日結婚式の話までしましたが、そのあたりで泣き言を言うので今は休憩中でした。」
「ローズ、どうしたの?怒ってる?」
「いえ、イヴォンヌ様には怒っていませんよ。
そうだ!もしよかったら台所を覗いて見ませんか?
今頃クッキーを作っているはずです。当家のクッキーはとても美味しいですよ。」
「いいの?!うれしい!王宮では絶対に近寄らせてくれないわ。ローズ大好き!」
「ありがとうございます。皆様はこちらでゆっくりお話ください。」
ふたりで楽しそうに出て行ってしまう。ようするに、イヴォンヌ様がいない間にしっかり話をしろということか。
「殿下、私が忘れてしまっていることを教えてくださいますか?」
「くそっ、なんでキリアンなんだ!オレはローズ夫人を慰めるために来たんだがな!」
「殿下がやると問題ですよ。それは僕の仕事ですね。」
「えっ?どういうことですか、まさかローズ嬢は浮気」
パンッ
「っ、」
「平手で感謝しろ。次にくだらないことを言ったらその舌切り落とすぞっ。」
殿下が本気で怒っている。何も言わないがアランも。
「お前は結婚式までの話は聞いたんだろう。よくそれでそんなことが言えるな。
彼女が明るく元気に振る舞っているからか?だからその程度のことだと思ったか。」
「……申し訳ありません。失言でした。」
「ローズ夫人は何も恥ずべきことはしていない。しなくていいはずの苦労と我慢をし続けてきただけだ。ずっと、3年……いや、怪我をした時から5年間もだ。
なぜか分かるか?俺達やイヴォンヌの事情に巻き込まれただけだ。ただそれだけのために彼女は5年もの長い時間を無駄に奪われたんだ。
それなのに当の本人は記憶喪失?あげくには彼女の浮気を疑うなど……
本当に、なぜ俺はあの時判断を誤ったのだろうな。
悔やんでも悔みきれんよ。」
「お兄様、もう迎えに来てしまったの?」
「キリアンはまだ怪我で休暇中だからゆっくりさせてやりなさいと言ったはずだぞ。お前にそそのかされて連れてきた奴らが叱られるんだぞ。どうするつもりだ?」
「叱ったらだめよ、私のお願いを聞いてくれただけだもの!
私はキリアンに会いたいって何度も言ったのに、お兄様が意地悪するからいけないのよ。
お礼もお詫びも言えてなかったもの、とっても失礼じゃない!」
「失礼なのは連絡なく訪問することだ。」
「ごきげんよう。ジョルジュ殿下。無断の訪問は殿下も同じですわね?それどころかノックも無しに勝手に入ってくるなんて。」
「ローズ夫人、怒っているのか?うん、怒ってるな。悪かった。」
「アラン様も殿下に引っ張って来られたのですか。大変ですわね。」
「いや、これでも護衛なんだけどね。突然来て悪かったよ。僕ではこの人を止めることは無理だった。」
突然部屋に入ってきたジョルジュ殿下と近衛兵のアランと気軽に話すローズ嬢を呆然と見る。
「キリアンも悪かったな。イヴォンヌがいなくなってるからこちらも驚いたよ。」
「…いえ、大丈夫です。」
「──どうした、記憶が戻ったか?」
「そうなの、聞いて兄様!キリアンはね、私のことだけ思い出したのよ!イヴって呼んでくれたわ!」
「申し訳ありません!そのように馴れ馴れしい真似を。なぜか口をついて出てしまい……」
「なぜかは思い出せないのか。」
「……」
なぜか。考えなくても分かる。未来の私はイヴと愛称で呼ぶことを許されていたのだろう。彼女の香水の香りを覚えるほど近くにいることも。
ただ、なぜ妻帯者である私がそのようなことを許されていたんだ?
いや、だから妻を…ローズ嬢を蔑ろにしてきたのか。
「ローズ夫人、どこまで話ができた?」
「本当は何も話さずサインだけ貰おうとしたんですが無理でした。混乱していたようなので、信頼の置ける人間からの説明の方が納得できるかとルイ達に頼んだんですがまったく役にたたなくて。
仕方なく今日結婚式の話までしましたが、そのあたりで泣き言を言うので今は休憩中でした。」
「ローズ、どうしたの?怒ってる?」
「いえ、イヴォンヌ様には怒っていませんよ。
そうだ!もしよかったら台所を覗いて見ませんか?
今頃クッキーを作っているはずです。当家のクッキーはとても美味しいですよ。」
「いいの?!うれしい!王宮では絶対に近寄らせてくれないわ。ローズ大好き!」
「ありがとうございます。皆様はこちらでゆっくりお話ください。」
ふたりで楽しそうに出て行ってしまう。ようするに、イヴォンヌ様がいない間にしっかり話をしろということか。
「殿下、私が忘れてしまっていることを教えてくださいますか?」
「くそっ、なんでキリアンなんだ!オレはローズ夫人を慰めるために来たんだがな!」
「殿下がやると問題ですよ。それは僕の仕事ですね。」
「えっ?どういうことですか、まさかローズ嬢は浮気」
パンッ
「っ、」
「平手で感謝しろ。次にくだらないことを言ったらその舌切り落とすぞっ。」
殿下が本気で怒っている。何も言わないがアランも。
「お前は結婚式までの話は聞いたんだろう。よくそれでそんなことが言えるな。
彼女が明るく元気に振る舞っているからか?だからその程度のことだと思ったか。」
「……申し訳ありません。失言でした。」
「ローズ夫人は何も恥ずべきことはしていない。しなくていいはずの苦労と我慢をし続けてきただけだ。ずっと、3年……いや、怪我をした時から5年間もだ。
なぜか分かるか?俺達やイヴォンヌの事情に巻き込まれただけだ。ただそれだけのために彼女は5年もの長い時間を無駄に奪われたんだ。
それなのに当の本人は記憶喪失?あげくには彼女の浮気を疑うなど……
本当に、なぜ俺はあの時判断を誤ったのだろうな。
悔やんでも悔みきれんよ。」
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