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1章 

6.

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「おはようございます、旦那様。昨日はゆっくり休めましたか?」

「おはよう、ローズ嬢。やはり自分の家は落ち着くな。久しぶりにゆったりできた。」

「そうですか、よかったです。でも、普段からよく第二王子宮に泊まっていらっしゃいましたが、記憶がないとそういう感覚も無くなってしまうのですね。」

「……そうなのか?」

「えぇ、側近とはやはり大変なお仕事なのだと思っておりましたわ。」


確かにジョルジュ殿下は大変行動的で、思い立ったら即実行していくお方だ。頭脳明晰で勘も鋭く、どんどん思考が先に進んでいくので着いていくのが大変だ。彼の側近は大変やりがいはあるが、けして楽な仕事ではないだろう。


「そうだな、殿下は本当に尊敬できる方だが、あのなんでも即実行!というのがな。誰もが彼ほど理解力があると思わないでほしいよ。」

「……」

「どうした?」


ローズ嬢が驚いたような顔でじっと見つめてくる。
なんだ?変なことを言っただろうか。


「…いえ、旦那様が私に仕事の話をするのも珍しいのに、まさか軽口を叩いて笑ってらっしゃるから。」

「えっ、──この程度仕事の話とも言えないし、私だって笑うくらいはするだろ?」

「全くしなかったですねぇ。だいたい会話といっても私が一人で話しかけているだけ。たまにあぁ、とか、そうか、と返事が来るくらい?視線が合うことはまれ、3秒以上私と目が合うと石にでもなるのかしら?とつねづね思っておりましたわ。」

「は?」


何だそれは?誰の話だ!そんなこと昨日は誰も言っていなかったぞ。問題は母上ではなく私なのか!?


「あら、その様子ですと昨日は誰もそんな話はしませんでしたか?」


心を読まれているようで怖い。猫のような瞳がじっと私の心を覗いているような気がしてくる。


「それは本当にわたしのことか?」

「ふふ、まさか知らない方の話をするわけがないでしょう?
そうですね、初めてお会いした頃は違いました。まぁ、私は怪我人でしたから優しく声をかけてくださいましたよ?まさかのプロポーズでしたが。責任をとるというまったく嬉しくないものでしたね。
私はきっぱりお断りして怪我を理由に会わないでいたんです。けどねぇ、まさかのジョルジュ殿下が直々にお見舞いに来られてしまって。あーこれはお断りできないやつだ、と諦めました。
でも即結婚は嫌でしたので、結婚は卒業してから。まずは婚約という形になりましたの。
それからは月に一度のお茶会くらいです。最初の2~3回は口数は多くはないけれど普通に目を見てお話してくださいました。
でもだんだんと相槌だけになり、そこの空間に私が見えない人でもいるの?というくらい私から目をそらして空気をご覧になっていましたね。
なぜだったのかしら?霊感でもあります?」


ない、絶対にない。霊感もないから幽霊など見ないしそんな失礼な男でもないはずだ!求婚を断られたから?だがそれなら最初の茶会から不機嫌なはず。それにそんな心の狭い人間だとも思いたくない。
なぜなんだ、私!さっぱり理解できない!


「……まさかその状態が結婚するまで続いたのか?」

「いえ」


よし、違うのか!


「卒業する頃にはお茶会も無くなりましたね。最初は会えないお詫びが書かれた自筆のメッセージカードとお花が届きました。そのうちカードのみになり、しまいには式の準備に忙しいだろうからお茶会は今後中止しようと連絡がきました。」


つらい、心が折れそうだ……
責任をとって結婚するだけだぞ!とでもいいたいのか?
釣った魚に餌はやらない系か。お願いだから記憶が戻ってくれ!未来の私が別人過ぎて無理だ!


「続きをお話ししてもいいかしら?
それでですね、やっと結婚式でお会い出来ましたの。旦那様はとっても素敵でしたよ?私はちゃんと素敵ですね、と伝えました。旦那様は私をちらりと見て無言でした。
式ではちゃんも微笑んでましたよ!参列者がいらっしゃるからでしょうけど。
誓いのキスは口の横に触れるか触れないか程度。
そして初夜です。私も当たり前ですが初めてのことなので、本当にドキドキして寝室でお待ちしておりました。
そして旦那様がいらっしゃって、珍しく私にまっすぐ視線を向けられて、

「お前を抱くのは無理だ」

とおっしゃいました。」
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