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38.カルヴァンからの助言

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「いいお天気でよかった」
「本当ですね。兄上も来れたら良かったのに。ピクニックとか喜びそうです」
「まあ、遊びに行くのでは無いわよ?貴方が孤児院の担当なのに」
「でも本当に私でいいのか不安なんですよね。まだ学生の身ですし」

カルヴァンは不安を口にするが、そう出来ることが立派だと思う。

「不安なのは当然よ。自分では足りないのではと疑うことは大切ね。それが出来る貴方はそのままでいい。担当というだけで貴方に丸投げするわけじゃないから安心して?」

人によっては、初めての事でも良く分からない自信を持って自分は出来るっ!と勝手に突っ走る人もいる。それは本当に困るので、カルヴァンみたいなタイプはありがたいわ。
誰にでも丁寧に対応出来るし、人の機微に敏感。それでいてどこまでも前向き。彼を嫌う人は中々いないだろう。ベンジャミンの友達というところも子供達が打ち解けやすいと思うし。

「でも、突然お願いして悪かったわ」
「ベンジャミンのせいだからいいですよ!もともと私の友人ですから」
「ありがとう、助かる」

本当にカルヴァンは良い子だ。感謝しかない。

「やっぱり会いたくないものですか?」
「そうね、会いたくないというより……私のせいで不幸になっては欲しくなかったから。ただ、自分が可愛いだけよ。それに婚約者がいる身だしね。元婚約者と何度も会うのは良くないでしょう?」

仕事の為でもそんなことをすれば絶対に噂が広がる。わざわざいらない餌を蒔く気はない。

「兄上の為ならその方がいいですね!」
「まあ、本当にカルヴァンはブライアンが大切なのね」

友情よりも断然兄弟愛の方が勝っているようだ。ベンジャミン、強く生きて。

「でも、彼が今苦労しているのは、それだけ貴方を傷付けたということですよ」
「そうかしら。でも、二人の間の出来事なら彼だけの責任では無いでしょう?」
「そうですけど。両家もだし、それを知った方々も処罰が妥当だと思っていたみたいですよ?
母上が言ってました。人に与えたものは何れ自分に返ってくるって。優しさには優しさが。悲しみには悲しみが。
ベンジャミンが大変に見えるなら、過去のシェリーさんがそれだけ大変で辛かったということです。だから慰めるなら昔のシェリーさんを労ってあげてください」
「……ありがとう」

自分の行いがいつか自分に帰って来る。幸せになれるかどうかは自分次第だということかしら。

「それに、罰ってベンジャミンを潰す為のものではなくて、反省して新しくやり直すチャンスを与える為のものでしょう?だからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ!」
「……そうね。まだこれからだものね。
カルヴァンのおかげで素直に頑張れって言えそうだわ」
「え!また惚れさせたら駄目ですよ?」

カルヴァンが結構酷いわ。どれだけ惚れっぽいと思っているのかしら。

「その顔!絶対に分かってないでしょう!男なんて単純ですからね、「頑張って!」って応援されただけで、「あ、もしかして俺のことが好きなのか?」とか勘違いしちゃえるんですよ。
なんなら頑張っての後にハートマークが付いてるように聞こえたりもしますから」
「ふふ、何それ!カルヴァンでもそんな冗談を言うのね」
「……シェリーさんは案外箱入り娘ですね」

まあ!カルヴァンに馬鹿にされてしまったわ!

「じゃあ、応援はしない方がいい?でも、ブライアンは許可してくれたわよ?」
「ん~、じゃあ、こうしたらどうですか?」

場車の中なのに何故か内緒話するカルヴァンがとっても可愛い。でも、話した内容は少し意地悪だわ。

「……分かった。ベンジャミンの友人だし、可愛いカルヴァンの言うことだもの。信じるわ」
「絶対ですよ?」
「ねえ、本当に親友?」
「彼の思春期という名の拗らせを近くで見て来た友人です。そしてまだ自分探し中で思春期の名残りがあるから安心できないんです!」

……凄く説得力のある言葉だった。


♢♢♢


院長先生との話し合いは順調だった。カルヴァンはあっという間に子供達に馴染み、色々と話をしながら、今の学力などをさり気なく確認しているから驚いた。

「ベンジャミン様、少しだけ話せるかしら」

子供達が離れた隙に、少しだけ離れた場所に移動する。
もちろん物陰なんかには行きません。皆から見えて、でも会話は聞こえないくらいの距離だ。

「シェリー…嬢。丁度よかった。俺も話したいことがあったんだ」
「では、お先にどうぞ」

久しぶりにちゃんと顔を見た。
相変わらず綺麗な顔だわ。でも、まったくドキドキはしない。そんな自分に少しだけ安心した。

「シェリーに謝りたかった。今更だって思われるかもしれないけど……
俺はずっと君を信じきれなかった。いつか他の女性みたいに、俺じゃなくて父上の方がよかったって言われる気がして」
「……何それ。謝罪というより侮辱されている気がするのだけど」
「ごめん!そうじゃなくて、その、だから子供みたいに君を傷付けて……それでも俺を選んでくれるか試していたんだと思う。自分勝手で、子供で、傷付けてばかりいた。
君の言う通り、俺は自分のことばかりだったんだ」
「やっと気付けたの?」
「……うん。本当にやっとね」

そう言ったベンジャミンは以前とは違う笑い方だった。あの頃の様な、天使の様な小悪魔の様な笑い方じゃなくて、もっと普通の男の子になっている。

「今の生活は大変?」

今更婚約者だった頃の話をする気はない。

「大変じゃないって言ったら嘘になるけど、今は前よりも気持ち的に楽かな。
馬鹿なことをしたら当たり前に怒鳴られて、でも、困っていたら相談に乗ってもらえて。世間知らずな俺に呆れながらも色々と教えてくれる上司がいるんだ。
親とか家とか関係ない俺は凄くちっぽけで何も無いって分かった。……分かることが出来てよかったって思ってる」
「いい出会いがあったのね」

私もそうやって関係を築けたら違ったのかなと、ちらりと思ったけれど、家同士での婚約にそんなことは絶対に無理だったなと、やっぱりあのままでは破綻したのだろうと納得が出来た。

「うん。騎士団は好きだよ。このまま騎士団の事務官を目指そうと思ってる」
「侯爵家には戻らないの?」
「あの、後継ぎに戻ってもいいって言ってもらえたんだ。……ありがとう」
「決めたのはお父様よ」
「うん、それでも。ただ、父上はまだ暫くは後継ぎを決めないって言ってたよ。シンディーとの子供は後継ぎが必要だから生まれたって思われたくないってさ」
「そうなのね」
「だから、俺はこのまま騎士団で頑張るつもりだ」

本当に好きなのね。好きになれる場所が見つかってよかった。

「頑張って。貴方がなりたい自分になれるように応援しているわ」
「そうだね。俺が元婚約者だって知られても恥ずかしくないくらいには頑張らないと」

ああ、そんなことも言ったかしら。

「馬鹿ね。今の貴方は十分に格好良いわよ」
「……本当に?」
「ええ。自信を持って!頑張ることの出来る貴方は素敵よ。いつか絶対に夢を叶えるって信じているわ」
「ずっと……憧れていた君にそう言ってもらえるなんて……」

え、ヤダ。泣くの?泣いちゃうの?
私が虐めてるみたいに見えないかしら?

あ、カルヴァンに言われたことを忘れていた。

「こんなにいい男になったのだもの。きっと素敵な女性に巡り会えるわ!」

こんなこと言わなくても誤解なんてされていないと思うけど約束だしね。
……あら?涙が止まった。未来の彼女に希望が生まれたのかしら?

「そろそろ戻りましょうか」
「………………うん」

?泣いたのが恥ずかしいのかしら。まあ、男の子だものね。
でもなんだか清々しい気分だわ。 
話をしてよかった。これで何のわだかまりも無く前に進める。

「カルヴァン、帰りましょうか!」

早くブライアンに会いたい。
今日のことを早く伝えたいわ。



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