上 下
33 / 40

32.感謝と祝福を君に【2】

しおりを挟む
「パメラはカルヴァンの母上がご病気なのは知っていたか?」
「そうね。病名を知ったのは最近だけど」

そうか。まったく気が付いてないのは俺だけか。

「俺は本当に薄情な人間だったようだ」
「ああ、貴方は基本的に無関心だったものね。カルヴァンとだって彼が人懐こいから付き合いが続いていた様なものでしょ?あとはその顔と家柄に寄って来ているだけだったし」
「……真実は人を傷つけるんだよ、パメラ」
「己を知るって大事よ?」

あれから、パメラとはあまり気を遣わずに会話出来るようになった。かなり痛い言葉もサクサク飛んで来るけれど、そんな所も好ましいと思う。
そう。困ったことに好ましいのだ。
綺麗だけど、全く好みじゃなかったのに。
今の彼女はとても素敵だと思う。彼女が子供達に抱く感想に近いのかもしれない。顔の造作では無く、心からの笑みが愛しい。そんな感じで……
シェリーのときの様に、自分のものにしたいとかそういう独占欲とも違う。
そうだ。シェリー。彼女ともう一度やり直したくて頑張っていたはずなのに。



「お前はやっぱり馬鹿だな。少し安心したよ」

最近のお悩み相談所は班長だ。
シェリーのことをカルヴァンには相談し辛く、というか、母上がご病気で大変なのにこんな悩みは言えない。
どうやら俺は本当のことを話せる友達がいないということに、ようやく気が付いた。

「……どうして馬鹿扱い」
「シェリーさんは待たないって言ってたんだろ?それなのにどうしてやり直せるって思っているんだ?」

どうして……だって諦めたくなかった。ただそれだけ。でも、彼女も好きだって言ってくれた。キスだってそれ以上のことだって許してくれたのに。

「残念ね、ベン君。女はね、男ほど引きずらないわよ?待たないって言ったならそれが本音。貴方は待ちたい程の相手じゃなかったのよ」

……辛辣。女性って辛辣だよね!?

「だなあ。まあ、それを夢にみて勝手に頑張るくらいはヨシ!でも、もし花束でも持って会いに行ったらドン引かれて終わるな」
「……そんなにですか」
「「そんなに」」「だ」「よ」

仲良し夫婦にコテンパンにされた。

「あとね。そのパメラちゃん?もともと美人さんなんでしょう?1年とか呑気なこと言ってたら、あっという間に掻っ攫われるわよ?」
「だな。一人前になったら!なんて言ってる間に、誰かの奥さんになってるのが目に見える」
「えっ!」
「どうして驚くの?貴方が決断するまでどうして待っててくれると思っちゃうのかしら」

どうして……だってもともと俺の顔が好きで。孤児院にも誘ってくれて。俺が行くのを喜んでくれて……

「現実を見るようになった女の切り替えは早いぞ。ご両親の意向もあるし」
「そうね。親不孝した自覚があるなら、次は大人しく言う事を聞いて嫁ぐんじゃない?」

どうしよう……言われてみればそうだなって思う。

『どうして自分ばかり選ぶ側だと思っていたのかしら?』

そうだよ、そう言っていたじゃないかっ!

「でも、俺はまだ見習い騎士なだけで……」
「だけって言うな、失礼だな」
「そうね。職が決まっているってことじゃない。それに貴方は侯爵家子息のままでしょう?ご両親に相談しなさいよ」
「そうだぞ。まだ子供だって自覚しろよ。力が無いならある人間に頼れ。まあ、こうやって相談してくるだけ進歩だけどな!」

だから!一々叩くなよ!

「あの、アドバイスありがとうございます。今から父に会いに行ってきます!」




父を頼る。これは本当ならしたくないことだ。あれだけ反抗して勝手に落ちぶれて。婚約破棄して迷惑をかけ捲ったのにどの面下げて……
でも、自分勝手に決めていい事では無いし、自分だけで出来る事なんて殆ど無い。

シェリーの言う通り、二人だけの世界なんか無い。今まで疎かにしてきた人間関係がどれほど大切か、ここまでこないと分からない自分が本当に情けない。


「あら。おかえり、ベンジャミン」
「ベン、珍しいな。今日は孤児院の日じゃないだろう?」

こんなにも駄目な息子なのに、いつでも温かく迎えてくれる。孤児院に捨てられる子供だっているのに。

「……父上、シンディー。今まで本当に申し訳ありませんでした」

謝罪をしに来たはずでは無かったのに、どうしても謝りたいと思った。俺は一度もちゃんと謝っていなかったから。
二人に向かって、深く深く頭を下げた。
ようやく、頭を下げる事が出来た。

「……何があった?」
「自分がどれほど愚かで、恵まれているかを知ることが出来ました。今までの甘えた自分が恥ずかしい。
でも、俺はまだ貴方達に甘えようとしています。
……好きな人が出来ました」
「座ってちゃんと話そう。私達も伝えたい事があるんだ」
「はい……」

それから、俺は今までの事を話した。家を出る前からの話を全部。それは言葉にすると本当に恥ずかしい、子供の癇癪でしか無く、シェリーにしたことを話した時はシンディーにビンタされた。

「勝手に体に触るなっ!このエロガキがっ!!」

すっごく痛かった。でも一応断りは入れていたのに。

「婚約者という立場がある以上断りにくいでしょう!でも、彼女から求められたことが一度でもあった?無いならそういう事よ!それじゃなくても体のコンプレックスがあったのに!」

コンプレックス?あんなに綺麗なのに?

「ほら、そのキョトン顔!彼女をまったく理解出来てないくせに体だけ弄くり回すって変態か!ただのエロか!!」
「シンディー落ち着いて。子供が驚く」
「あ、ごめんね」

シンディーが慌ててお腹を撫でて……

「……え?」
「ああ、私達が話したかったのはこの子の事だ。シンディーが子を授かった」



しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

男と女の初夜

緑谷めい
恋愛
 キクナー王国との戦にあっさり敗れたコヅクーエ王国。  終戦条約の約款により、コヅクーエ王国の王女クリスティーヌは、"高圧的で粗暴"という評判のキクナー王国の国王フェリクスに嫁ぐこととなった。  しかし、クリスティーヌもまた”傲慢で我が儘”と噂される王女であった――

処理中です...