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12.恋のなりそこない
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あの後は中々に大変だった。
まずは兄様の暴走を止めるのに苦労した。
「少し待っていろシェリー。今すぐ塵を処分してくるっ!」
そんなにキリッといいお顔で殺人予告をなさらないで。お義姉様に申し訳無さ過ぎる!
何とか出陣は止めたが、お父様へのお手紙は止められなかった。2日後には両親が到着。号泣された。
「シ゛ェ゛リ゛ーっ!」
誰。私の名前はそんなにも濁点は多くない。
男泣きは美しくないわ。お母様止めて下さい。
「煩いわよ、落ち着きなさい。話が出来ないでしょう」
お母様はとってもクール。でも、お父様ととても仲良しなの。こんな夫婦になりたいと思っていたのに。
「……お父様、お母様。ごめんなさい」
お二人の顔を見たら涙が溢れてしまった。
上手く出来なくてごめんなさい。家名に傷を付けてごめんなさい!
「馬鹿ね、シェリー。傷なんてどこにも付いていないわ。結婚前に愚か者だと分かって万々歳よ?」
「すまんなあ、シェリー。顔合わせの時から失礼な小僧だったのに、まだ子供だからと軽く見てしまった。
お前はよく二年も頑張ったね。えらい、えらいぞ!」
そう言って頭をワシワシと撫でてくれた。そんなことをされたのは何時振りだろう。私は幼い頃に戻ったみたいに大泣きしてしまった。
「はい、目を冷やして」
「ありがとうございます……」
泣き過ぎて腫れた目を濡れタオルで冷やす。
こんなにも泣いたのは物心ついてから初めてだ。でも、だいぶスッキリしたわ。
「アレのことが好きだったの?」
「……2年経って、やっと笑ってくれて。それがとても嬉しくて……でも、どうなのかしら。好きだと思っていたけれど、恋の一歩手前くらい?そんなあやふやなものでした」
だって、すぐに彼は変わるから。どうしても恋には成りきれなかった。好きだけど、たぶん彼も私を好きでいてくれたけれど、信頼関係を結ぶことが出来なかったのだ。
それは恋とは言えないでしょう?
「そう。残念だけど……婚約破棄でいいかしら。貴方を公衆の面前で侮辱されて許すわけにはいかないわ」
ああ、やはりそうなってしまうのか。
「……解消では無く?」
「今回は完全にあちらの有責だからね。
君はこの2年半の間、侯爵家の為に十分尽くして来た。
学園を飛び級してまで侯爵家の仕事を手伝い、学生結婚はしたくないという彼の望みを聞き入れ、彼が未成年だからと社交も控えて。そこまで尽くされて、それを当たり前だと思う愚か者を許してはいけないだろう?
例え君達の間に何某かの愛が芽生えていたとしても、彼は越えてはいけない一線を越えた。それが全てだなあ」
お父様達の気持ちはもっともだ。もし自分が親なら、我が子へのそんな扱いは許せないだろう。
「契約に問題はありませんか?」
「明らかに不当な扱いがあった場合には破棄できるという項目をお互いに作ったからね。安心しなさい」
お父様はお人好しだけれど、こういう所はしっかりしているのだ。
「お父様、格好いいです」
「ふふ、だろう?」
「……あちらから何か連絡はありましたか?」
「ああ、カーティスから詫び状と訪問の伺いが来ているよ。事件を知ってすぐに送ってきたのだろう。
まずは君と話をしてからだと保留にしてある。どうする?私達だけで話をつけてもいいよ」
……カーティス様……。この二年もの間、ベンジャミンよりもよっぽど私に親切にして下さったのに。
「いえ、二年もお世話になったのです。きちんとお別れの挨拶をしたいと思います」
「それはカーティスだね?アレはどうする」
「……まずはカーティス様とだけ」
正直、まだベンジャミンには会いたくない。あそこまで言われて、好きだからと馬鹿みたいに許す気にはなれないし、また暴言を吐かれるのではという恐怖心もある。……これ以上、幻滅したくない。
「分かった。その様に手紙を出そう」
「……お願いします」
これからのことを両親と話していると、
「お嬢様、キングスコート公爵令息方がいらっしゃいました。如何致しましょう」
……来るとは思ってた。でも、早すぎない?
「あら、応接室にお通ししてあげて」
「母様?」
「さすがに公爵家を追い返せないでしょう」
……ですよね。
「分かりました。では、行ってまいります」
仕方がない。カルヴァンが伝えると言っていたもの。絶対に来るはずなのよ。
ブライアン・キングスコート。
彼は周りを引き込む力を持った男だった。
生徒会で共に活動した日々は、大変であり、でも充実していて、心躍ることも多々あった。懐かしい学生時代。
でも、今更何をしに来たのだろうか。
応接室の前で一度深呼吸をする。すると、ノックする前にドアが開けられてしまった。
「シェリー、ひさしぶりだな」
うわ、キラッキラの笑顔だ。久々に会うけれど、おひさまの様な笑顔は変わらない。
「……お久しぶりです。ブライアン」
ノックする為に上げられていた手を取られ、何故か中までエスコートされる。
「すみません、シェリー様。私には兄を止められませんでした」
「カルヴァン様、とんでもありませんわ。あの、先日はありがとうございました」
兄弟が並ぶとやっぱりよく似ている。
二人とも金髪碧眼の王子だ。同じ金髪でも、ベンジャミンとはタイプが違う。……やだ、どうして比べているのよ。
「おい、二人で私の悪口か?」
「大変な時に押し掛ける兄上が悪いんです」
ぷんすこ怒ってるカルヴァンから、普段も兄に振り回されているのだろうなと察せられる。
「馬鹿だな、今だからこそ来たんだ。早くしないとまた盗られるだろう?」
盗られるって。だから私は貴方のものではないのですが。
「シェリー、私と一緒に働く気は無いか?」
まずは兄様の暴走を止めるのに苦労した。
「少し待っていろシェリー。今すぐ塵を処分してくるっ!」
そんなにキリッといいお顔で殺人予告をなさらないで。お義姉様に申し訳無さ過ぎる!
何とか出陣は止めたが、お父様へのお手紙は止められなかった。2日後には両親が到着。号泣された。
「シ゛ェ゛リ゛ーっ!」
誰。私の名前はそんなにも濁点は多くない。
男泣きは美しくないわ。お母様止めて下さい。
「煩いわよ、落ち着きなさい。話が出来ないでしょう」
お母様はとってもクール。でも、お父様ととても仲良しなの。こんな夫婦になりたいと思っていたのに。
「……お父様、お母様。ごめんなさい」
お二人の顔を見たら涙が溢れてしまった。
上手く出来なくてごめんなさい。家名に傷を付けてごめんなさい!
「馬鹿ね、シェリー。傷なんてどこにも付いていないわ。結婚前に愚か者だと分かって万々歳よ?」
「すまんなあ、シェリー。顔合わせの時から失礼な小僧だったのに、まだ子供だからと軽く見てしまった。
お前はよく二年も頑張ったね。えらい、えらいぞ!」
そう言って頭をワシワシと撫でてくれた。そんなことをされたのは何時振りだろう。私は幼い頃に戻ったみたいに大泣きしてしまった。
「はい、目を冷やして」
「ありがとうございます……」
泣き過ぎて腫れた目を濡れタオルで冷やす。
こんなにも泣いたのは物心ついてから初めてだ。でも、だいぶスッキリしたわ。
「アレのことが好きだったの?」
「……2年経って、やっと笑ってくれて。それがとても嬉しくて……でも、どうなのかしら。好きだと思っていたけれど、恋の一歩手前くらい?そんなあやふやなものでした」
だって、すぐに彼は変わるから。どうしても恋には成りきれなかった。好きだけど、たぶん彼も私を好きでいてくれたけれど、信頼関係を結ぶことが出来なかったのだ。
それは恋とは言えないでしょう?
「そう。残念だけど……婚約破棄でいいかしら。貴方を公衆の面前で侮辱されて許すわけにはいかないわ」
ああ、やはりそうなってしまうのか。
「……解消では無く?」
「今回は完全にあちらの有責だからね。
君はこの2年半の間、侯爵家の為に十分尽くして来た。
学園を飛び級してまで侯爵家の仕事を手伝い、学生結婚はしたくないという彼の望みを聞き入れ、彼が未成年だからと社交も控えて。そこまで尽くされて、それを当たり前だと思う愚か者を許してはいけないだろう?
例え君達の間に何某かの愛が芽生えていたとしても、彼は越えてはいけない一線を越えた。それが全てだなあ」
お父様達の気持ちはもっともだ。もし自分が親なら、我が子へのそんな扱いは許せないだろう。
「契約に問題はありませんか?」
「明らかに不当な扱いがあった場合には破棄できるという項目をお互いに作ったからね。安心しなさい」
お父様はお人好しだけれど、こういう所はしっかりしているのだ。
「お父様、格好いいです」
「ふふ、だろう?」
「……あちらから何か連絡はありましたか?」
「ああ、カーティスから詫び状と訪問の伺いが来ているよ。事件を知ってすぐに送ってきたのだろう。
まずは君と話をしてからだと保留にしてある。どうする?私達だけで話をつけてもいいよ」
……カーティス様……。この二年もの間、ベンジャミンよりもよっぽど私に親切にして下さったのに。
「いえ、二年もお世話になったのです。きちんとお別れの挨拶をしたいと思います」
「それはカーティスだね?アレはどうする」
「……まずはカーティス様とだけ」
正直、まだベンジャミンには会いたくない。あそこまで言われて、好きだからと馬鹿みたいに許す気にはなれないし、また暴言を吐かれるのではという恐怖心もある。……これ以上、幻滅したくない。
「分かった。その様に手紙を出そう」
「……お願いします」
これからのことを両親と話していると、
「お嬢様、キングスコート公爵令息方がいらっしゃいました。如何致しましょう」
……来るとは思ってた。でも、早すぎない?
「あら、応接室にお通ししてあげて」
「母様?」
「さすがに公爵家を追い返せないでしょう」
……ですよね。
「分かりました。では、行ってまいります」
仕方がない。カルヴァンが伝えると言っていたもの。絶対に来るはずなのよ。
ブライアン・キングスコート。
彼は周りを引き込む力を持った男だった。
生徒会で共に活動した日々は、大変であり、でも充実していて、心躍ることも多々あった。懐かしい学生時代。
でも、今更何をしに来たのだろうか。
応接室の前で一度深呼吸をする。すると、ノックする前にドアが開けられてしまった。
「シェリー、ひさしぶりだな」
うわ、キラッキラの笑顔だ。久々に会うけれど、おひさまの様な笑顔は変わらない。
「……お久しぶりです。ブライアン」
ノックする為に上げられていた手を取られ、何故か中までエスコートされる。
「すみません、シェリー様。私には兄を止められませんでした」
「カルヴァン様、とんでもありませんわ。あの、先日はありがとうございました」
兄弟が並ぶとやっぱりよく似ている。
二人とも金髪碧眼の王子だ。同じ金髪でも、ベンジャミンとはタイプが違う。……やだ、どうして比べているのよ。
「おい、二人で私の悪口か?」
「大変な時に押し掛ける兄上が悪いんです」
ぷんすこ怒ってるカルヴァンから、普段も兄に振り回されているのだろうなと察せられる。
「馬鹿だな、今だからこそ来たんだ。早くしないとまた盗られるだろう?」
盗られるって。だから私は貴方のものではないのですが。
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