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8.反撃開始、その後─
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「なんて馬鹿なことをしてしまったの」
先程の自分の言動に呆れ返る。
「どうしよう……」
謝るべきなのだろうか。
でも何を?私は何か悪いことをしただろうか。
ベンジャミンが何故怒ったのか分からない。
それなのに、形だけの謝罪をしても意味が無いだろう。
「どうしてちゃんと言ってくれないの」
ベンジャミンはいつもそう。あんなにも怒っていると態度に出すくせに、その理由は頑なに教えてくれない。
まるで、分からない私が悪いというかの様に、ただ只管、不機嫌さをアピールするだけ。
「……卑怯者」
彼を知りたいと思う。分かり合いたいという思いを捨てられない。
何度も愛はない、政略的な婚約だと自分を戒めても、それでも……歩み寄りたいと願ってしまうのだ。
「せっかく素敵なドレスを見つけたのにな」
3年という年月は長い。だって、彼はまだ未成年の子供で、私は成人した大人だ。その垣根を飛び越えて、相手の領域に向かうのがどれ程恐ろしいか。
その為の武器を手に入れるのは、そんなにも駄目なことだったの?
いつまでこんなことを繰り返すのかしら。
意味も分からず彼が怒り、理由は分からないけど謝罪して。
……そんなの、ちっとも対等じゃない。
いくら爵位が下でも、私の気持ちを踏み躙ることを許してしまっていいの?これからの長い人生をずっと彼の機嫌を伺って生きていくの?
──嫌だわ、そんな人生。
だって私は幸せになりたい。
♢♢♢
「おはようございます、ベンジャミン様」
「……は?何それ」
一気にベンジャミンの声が低くなる。
「何か問題がありましたか?」
意味の分からない怒りが、どれ程相手を傷付けるのか、身を持って知ればいい。
「何、昨日の仕返し?」
「まあ、何のことでしょう。仕返しされる様なことがありましたか?」
貴方にも身を持って知ってもらおう。理由の分からない拒絶がどれだけ辛いのかを。
ただ、私は彼の様に不機嫌さ全開なんて真似は出来ないので、他人行儀な態度くらいが限界なのだけど。
「……パーティーには連れて行く」
「かしこまりました。準備致します」
「これ以上どうしろと言うんだ!」
あらあら。もうギブアップですの?もっと悩んで下さいませ。私は……いつも、もっと悩んでいたのですから。
「さあ、意味が分かりかねますわ」
ニッコリと微笑んで。さて、朝食をいただきましょう。
ガタンッ!!
ベンジャミンが何も食べずに席を立つ。
少し心が痛むが、ここで声を掛けては駄目。
私は目を向ける事無く、朝食を食べ続けた。
♢♢♢
そんな攻防が夜まで続き。
今、私は何故かベンジャミンに押し倒されている。
「……何をしているのでしょうか」
「いやらしいこと?」
こう来るとは!でも、ここで慌てては駄目よね?
でも、彼の手が私の頬をゆっくりと撫で、首筋を辿り、鎖骨を撫で、胸に触れた。
「……柔らかい」
やだっ、本当に?服の上からといってもこれは駄目なのでは!?
「やめて……」
「舐めていい?」
「やめてっ!!こういう事は!相手を傷付ける為にする行為ではないでしょう!?」
「シェリーの気持ちを確かめる為にしてる。俺を愛してるなら許せるはずだろう」
………愛?何を……
「ずっと触れたかった」
「あっ!?」
し、信じられない!顔を埋めないでっ!!
「み」
「み?」
「醜いと思わないの?」
違う。言うべき言葉はこれじゃない!
「は?」
どうしてそんなに怖い声になるの。
「……だって牛みたいだって」
「誰に見せたんだ……」
ひっ!どうしてそんなに青筋を立てていらっしゃるの!?おかしいわ、貴方を翻弄したかったのに、結局私が翻弄されているっ!!
「み、見せてません!女生徒に、そう噂されて笑われただけでっ!!」
「焦らすなよ、殺さなきゃって思っただろ」
誰を?どうして!?
「……もう離れて」
「ヤダ。やっと触れたのに」
そこで喋らないで、さり気なく揉まないでっ!
「貴方が学生婚は嫌だと言ったのよ!」
もう計画がガタガタだ。兎に角さっさと離れてほしい。
「チッ」
舌打ちした!
ベンジャミンがやっと離れてくれたが、何故か手を繋いでいる。
仕方が無くベッドの上で隣り合って座る。というか、ベランダからの訪問をやめてほしいわ。
「で?何がしたかったんだ」
「貴方が!いつも意味不明に突然不機嫌になるから!それが、どれだけ嫌な気持ちになるか味わわせようと思ったのよ!」
それなのに狡いわ。こんなふうに襲ってくるなんて思わなかったもの!
「……嫌いなのに触れないでよ」
「は?」
「………私の全部が嫌だって言ったじゃない!」
駄目だ、言ってしまった。だって悔しい。貴方は私を愛していないのに、私にだけ愛を求めるだなんて……
好きだから悔しい。触れられて嬉しいと感じるから虚しい。愛が無くても、女性への興味だけで手を伸ばしてくる貴方が許せない。
我慢出来ずにポロポロと涙が溢れる。
「……何だよ、それ」
「カーティス様に話してるのを聞いたわ。年上なのも背が高いのもこんな体付きなのも全部嫌だって言っていたじゃない。それなのに、どうして私に触れるのよ……」
とうとう聞いてしまった。でも、聞かずにはいられなかった。
……なぜ何も言わないの?
「もういい。萎えた」
なにそれ。
「……それが、貴方の答えなの」
言い訳すらしてくれないのね。
ベンジャミンは振り向きもせず、部屋から出て行った。
「馬鹿ね、ベランダから帰りなさいよ」
本当に女の体に興味があっただけなのか。
酷く穢された気分だ。でも、彼は未来の夫で。
……ここまで拗らせて、それでも夫婦としてやっていけるの?
「ははっ、あ──……
………もう、消えてしまいたい……」
先程の自分の言動に呆れ返る。
「どうしよう……」
謝るべきなのだろうか。
でも何を?私は何か悪いことをしただろうか。
ベンジャミンが何故怒ったのか分からない。
それなのに、形だけの謝罪をしても意味が無いだろう。
「どうしてちゃんと言ってくれないの」
ベンジャミンはいつもそう。あんなにも怒っていると態度に出すくせに、その理由は頑なに教えてくれない。
まるで、分からない私が悪いというかの様に、ただ只管、不機嫌さをアピールするだけ。
「……卑怯者」
彼を知りたいと思う。分かり合いたいという思いを捨てられない。
何度も愛はない、政略的な婚約だと自分を戒めても、それでも……歩み寄りたいと願ってしまうのだ。
「せっかく素敵なドレスを見つけたのにな」
3年という年月は長い。だって、彼はまだ未成年の子供で、私は成人した大人だ。その垣根を飛び越えて、相手の領域に向かうのがどれ程恐ろしいか。
その為の武器を手に入れるのは、そんなにも駄目なことだったの?
いつまでこんなことを繰り返すのかしら。
意味も分からず彼が怒り、理由は分からないけど謝罪して。
……そんなの、ちっとも対等じゃない。
いくら爵位が下でも、私の気持ちを踏み躙ることを許してしまっていいの?これからの長い人生をずっと彼の機嫌を伺って生きていくの?
──嫌だわ、そんな人生。
だって私は幸せになりたい。
♢♢♢
「おはようございます、ベンジャミン様」
「……は?何それ」
一気にベンジャミンの声が低くなる。
「何か問題がありましたか?」
意味の分からない怒りが、どれ程相手を傷付けるのか、身を持って知ればいい。
「何、昨日の仕返し?」
「まあ、何のことでしょう。仕返しされる様なことがありましたか?」
貴方にも身を持って知ってもらおう。理由の分からない拒絶がどれだけ辛いのかを。
ただ、私は彼の様に不機嫌さ全開なんて真似は出来ないので、他人行儀な態度くらいが限界なのだけど。
「……パーティーには連れて行く」
「かしこまりました。準備致します」
「これ以上どうしろと言うんだ!」
あらあら。もうギブアップですの?もっと悩んで下さいませ。私は……いつも、もっと悩んでいたのですから。
「さあ、意味が分かりかねますわ」
ニッコリと微笑んで。さて、朝食をいただきましょう。
ガタンッ!!
ベンジャミンが何も食べずに席を立つ。
少し心が痛むが、ここで声を掛けては駄目。
私は目を向ける事無く、朝食を食べ続けた。
♢♢♢
そんな攻防が夜まで続き。
今、私は何故かベンジャミンに押し倒されている。
「……何をしているのでしょうか」
「いやらしいこと?」
こう来るとは!でも、ここで慌てては駄目よね?
でも、彼の手が私の頬をゆっくりと撫で、首筋を辿り、鎖骨を撫で、胸に触れた。
「……柔らかい」
やだっ、本当に?服の上からといってもこれは駄目なのでは!?
「やめて……」
「舐めていい?」
「やめてっ!!こういう事は!相手を傷付ける為にする行為ではないでしょう!?」
「シェリーの気持ちを確かめる為にしてる。俺を愛してるなら許せるはずだろう」
………愛?何を……
「ずっと触れたかった」
「あっ!?」
し、信じられない!顔を埋めないでっ!!
「み」
「み?」
「醜いと思わないの?」
違う。言うべき言葉はこれじゃない!
「は?」
どうしてそんなに怖い声になるの。
「……だって牛みたいだって」
「誰に見せたんだ……」
ひっ!どうしてそんなに青筋を立てていらっしゃるの!?おかしいわ、貴方を翻弄したかったのに、結局私が翻弄されているっ!!
「み、見せてません!女生徒に、そう噂されて笑われただけでっ!!」
「焦らすなよ、殺さなきゃって思っただろ」
誰を?どうして!?
「……もう離れて」
「ヤダ。やっと触れたのに」
そこで喋らないで、さり気なく揉まないでっ!
「貴方が学生婚は嫌だと言ったのよ!」
もう計画がガタガタだ。兎に角さっさと離れてほしい。
「チッ」
舌打ちした!
ベンジャミンがやっと離れてくれたが、何故か手を繋いでいる。
仕方が無くベッドの上で隣り合って座る。というか、ベランダからの訪問をやめてほしいわ。
「で?何がしたかったんだ」
「貴方が!いつも意味不明に突然不機嫌になるから!それが、どれだけ嫌な気持ちになるか味わわせようと思ったのよ!」
それなのに狡いわ。こんなふうに襲ってくるなんて思わなかったもの!
「……嫌いなのに触れないでよ」
「は?」
「………私の全部が嫌だって言ったじゃない!」
駄目だ、言ってしまった。だって悔しい。貴方は私を愛していないのに、私にだけ愛を求めるだなんて……
好きだから悔しい。触れられて嬉しいと感じるから虚しい。愛が無くても、女性への興味だけで手を伸ばしてくる貴方が許せない。
我慢出来ずにポロポロと涙が溢れる。
「……何だよ、それ」
「カーティス様に話してるのを聞いたわ。年上なのも背が高いのもこんな体付きなのも全部嫌だって言っていたじゃない。それなのに、どうして私に触れるのよ……」
とうとう聞いてしまった。でも、聞かずにはいられなかった。
……なぜ何も言わないの?
「もういい。萎えた」
なにそれ。
「……それが、貴方の答えなの」
言い訳すらしてくれないのね。
ベンジャミンは振り向きもせず、部屋から出て行った。
「馬鹿ね、ベランダから帰りなさいよ」
本当に女の体に興味があっただけなのか。
酷く穢された気分だ。でも、彼は未来の夫で。
……ここまで拗らせて、それでも夫婦としてやっていけるの?
「ははっ、あ──……
………もう、消えてしまいたい……」
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