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第23話
しおりを挟む「この辺りで一度休憩をしよう」
セイが提案する。緊張続きで、移動速度が落ちている。
慎重に周囲を警戒しつつの移動なので仕方が無いし、そのくらい注意するべき場所であるのだが。
まだ食事時ではないが、早めに休憩を取るべきだと判断した。
「そうだな……」
レリアはセイの提案に頷く。無理にでも進みたいという気持ちもあるが、身体は正直なもので疲労感で動きが鈍くなっているとあきらかに自分で分かるくらいだった。
「この辺りだと休めそうだ」
腰を下ろすセイ。
レリアもそれにならう。
「……ふう」
大きく息を吐く。ここに来て疲労が激しい。何が起こるか解らないというのは本当に大変だ。
剣一本で歯が立つかといわれれば怪しいものである。
幻惑は怖いが、妖精達はまだ切り伏せることが出来る。だが、先程見たような巨大な植物型の魔物だとどうだろう。相手が大きくてきちんと剣が通るか怪しい。
あるいは中途半端に切りつけて剣が抜けなくなって折られたり失ったりするかもしれない。
ここまでの冒険になるとは考えていなかったし補給は騎士団が控えていたので、旅の荷物としてはレリアは持っていた方だとは思うのだが、そこに予備の剣はない。
ゆえにどうしても慎重にならざるを得ない。
「冒険者というのはこういうところにも足を踏み入れるのか?」
「……ん? 急にどうした」
「いや、あまりにも私の知っているのと違う世界に戸惑っているのだ。だが随分とセイは落ち着いている。これがもし私一人であったなら動揺してばかりで、ろくに動けず、そのままだと思うのだが……。セイが居てくれて本当に良かったと思っている」
剣の手入れをしながらレリアが微笑む。
何日も水浴びすら出来ない髪はくしゃくしゃで乱れているが、それでも自分達冒険者とは違う魅力が溢れているとセイは思う。
「俺はこういうところに踏み込むのが嫌でソロでやっていることが多かったんだがな……」
「そうなのか? 随分と慣れた感じだと思ったのだが」
「……まあ、な」
苦笑いするセイ。今回こんな事態に巻き込まれることになったきっかけ、彼のおかげで鍛えられたというべきか。
今頃どこかでくしゃみでもしているだろうか、などと思う。
彼の、ライの無邪気な笑顔が随分と懐かしいものに思えてくる。
そういうのが嫌で地道に薬草採取などほかの道を探っていたのだが、案の定巻き込まれてしまった。
苦労してるのが当の本人ではなくてセイという理不尽極まりない話であるが、かといって彼の誘いを断ったら断ったで別の面倒事に巻き込まれるという避けられない厄介事というのが困ったものである。
まあ、その分美味しい思いをすることも多いのだが……。
「色々巻き込まれて鍛えられたものでね」
美人女騎士と二人旅は悪くないが、水浴びも出来ずじめじめとした湿度の中、雑菌でだんだんとお互いの臭いがきつくなってきている。
ロマンチックとはほど遠い旅路で役得といえるかどうか。
排泄関係で、喜ぶ御仁も居るだろうが、セイにとってはやむを得ない措置とはいえ、心苦しく喜んでなんていられない。
何より食料や水が乏しくなりつつあり、それが二人の心に影を落とし始めていた。
「レリア……食料や水の残りはどれくらいだ?」
「…………今日、明日くらいまでしか、だな」
マジックバッグの中の食料と水に助けれられていたが、それももう尽きようとしてる。残りわずかであると素直に告げる。
「そうか……こっちも似たようなものだ」
「……」
「……」
森の先を見る。
後一日二日で抜けられる気がしない。
「進もうか、セイ」
「いや、しっかりと休むべきだ」
「そうか……」
「焦りは禁物だ……少しでも生き延びるために冷静に動くしかない」
まだ手はある、と告げようか悩むセイ。
間違いなく高貴な身分であるレリアに対してそれを告げることがどういうことなのかを考えると、躊躇ってしまう。
とはいえ、こういう事態を見越して準備をしてきたのだから、今使うべきだとも思うのだが……。
「そうだな……セイの言うとおりだ」
弱弱しく微笑むレリアを見て、セイの心が痛んだ。
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