図書室のオオカミ君。

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図書室に住むオオカミ?

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ホームルームが終わり、片付けをしていると、
唯奈たちがカバンをもって日和の机に集った。
「日和、今日は本当に行けないの~?」
「うん、ごめんね。また誘って」
思ってもいない言葉を紡ぐ。
「そっか~、分かった!また明日ね」
「…また明日」
「じゃーねー」
唯奈たちが去ったのを確認すると、一気に力が抜けるようだった。
「はぁぁ…。こんなに疲れるっけ、唯奈たちと話すのに…。」
(―これはきっと、あの話を聞いてしまったからだ。)
リュックを背負うと、急に、心が軽くなった。
ただ、このまま帰っても唯奈たちと鉢合わせしそうだ。それだけは避けたい。
「ファミレスはお金使うし…図書室とか久しぶりに行ってみようかな」

新校舎の端っこにある図書室。広くて蔵書数も多いのが特徴だ。
図書室はしん、と静まり返っていた。
(落ち着く…な…。)
せっかくだし終わりの時間まで本を読もうと思い、
リュックを置くため読書コーナーへ向かうと、ふいに足が止まった。
同時に、心臓がドクン、と大きく鳴った。
端っこに座っている男子。あれは――
(あれは…オオカミ…!)
そう、図書室に住むオオカミ、と呼ばれている男子だった。
噂通り、黒のパーカーでフードを被っている。
フードを被っているせいで顔が見えない。
オオカミは端の席で肘を立てながら本を読んでいた。
ドクン、ドクン、と鳴り響く心臓に落ち着け、と言い聞かせ、できるだけ遠くの席に座る。
助けを求めるように周りを見るが図書室は普段からあまり人気ひとけがなく誰もいない。
(どうしよ…。なんでこんな時に限ってオオカミくんと二人っきりなの…!)
とにかくこの場から去りたくてリュックを持つ。しょうがないから今日はファミレスに寄ってから帰ろう。
そう思いつつ読書コーナーから去ろうとすると、なぜか後ろに引っ張られた。
「―わっ」
「…ねぇ、あんた誰?」
「っ⁉」
振り返るとオオカミが日和のリュックを掴んでいた。
低い声がオオカミの唸り声みたいで鳥肌が立つ。
「ご、ごめんなさいっ、すぐ去りますので…っ」
逃げようとしても、ぐ、と引っ張り戻される。
「…質問の答えになってないけど?」
「え…っと…。」
沈黙が訪れる。
そして出た答えは、
「…言ったら、逃がしてくれますか…?」
「…返答次第」

******

日和とオオカミは読書コーナーに座った。
…とはいっても、あまりの恐怖にリュックを手放せずにいるけれど。
(だって、あのオオカミくんだもん…。)

さかのぼること数日前。
「ねぇ、知ってる?図書室に住むオオカミの噂!」
「図書室に住むオオカミ…?」
ニコニコの笑顔で話す美羽。美羽はそういう類の話が好きなのだ。
「うん!図書室登校してるっていう男子。雰囲気怖いらしいんだけど、すっごくイケメンなんだって」
「へぇ…」
あまり興味はわかなかったがとりあえず聞いておくことにした。
「見た目どんな感じなの?」
イケメン、と聞いて麻衣花が食いついた。
「えーっとね、確かいつも制服に黒のパーカーを着てて黒髪、だった気がする」
「えーっ、やば、タイプ」
麻衣花のテンションが上がる。
「あと、目が紫がかってるんだって!」
へー!、と声が上がる。
「誰も寄り付けない一匹オオカミ、ってことで図書室のオオカミって呼ばれてるらしいよ~」

―そんな人と日和は今向き合っている。
(き、緊張…!)
いまだリュックを抱えたまま動けずにいる。
「で、質問の答えは?」
「あ、えっと…椎名日和…です」
「…ネクタイの色からして一年か…。」
日和は深緑色のネクタイを見た。
この学校はネクタイとリボンがあり、それぞれの学年ごとに色が変わる。
一年生が緑、二年生が青、三年生が赤だ。
「えっと…あの…」
恐る恐る顔を見るといかにも不機嫌そうに睨んできた。思わずビクッと身が縮んでしまう。
「……その、オオカミくん…ですか?」
再び沈黙が走る。やがて、オオカミは口を開き、
「…ああ…、その呼び名、良く聞く」
だるそうに伸びをすると、再び机に肘をつき、
「なんでオオカミなわけ?」
「…え?」
思わぬ一言に思わず固まってしまった。
「…なんでオオカミって呼ばれてんの?」
「えっと…」
日和はなぜオオカミと呼ばれているのかすべて話した。
その間、聞いているのかいないのか全く分からなかった。
が、話終えると鼻でため息をつき、
「……そう、そういうわけね」
「…はい…。」
もう一度沈黙が走る。と、ふいにオオカミが口を開き、
「…ねえ、あんたの名前、なんだったっけ?」
「…あ、えっと…、日和、です」
(やっぱり聞いてなかった…?)
すると、オオカミは顎に手を当て、日和を品定めするように見る。
「日和……ひよこ?」
「…ひ、ひよこ?」
日和は思考がストップした。名前を訂正しようと思ったが、そんな勇気はない。
それより…なぜ、ひよこなのだろうか。
困惑していると、日和を見つめたまま、
「なんかひよこに似てる」
と呟いた。
…全く分からない。
「…に、似てる…?って、なんで考えてるの分かったんですか…⁉」
「分かりやすい」
オオカミの手がぬうっと日和に伸びる。日和はビクッとし、ぎゅっと目をつぶった。
と、同時に額に衝撃と痛みを感じる。思わず額を抑えながらうずくまってしまう。
「うっ…痛ぁ…」
(で、デコピン…された…?)
額を抑えつつ、見上げるとフードの下の顔が見えた。
(…綺麗…。)
その顔は普通とは違う美しさを持っていた。鼻筋が通っていて、陶磁器のように白い肌。唇の形も整っていた。
「…おい、いつまで見ている?」
「あ、えっと…ごめんなさい」
いつの間にか見入っていたようで、日和はあわてて顔を逸らした。顔全体が赤くなっているのが良くわかる。
手で覆って冷やしつつ、オオカミを見ると、オオカミがフードを下ろした。
(わ…。)
オオカミの目は吸い込まれそうな漆黒だった。が、うっすらと紫がかっていて、日本人の目とは思えない。
「…なに」
見つめていたのか、ジト目で睨まれる。
「あ…、なんでもないです」
また、目を逸らしてしまう。
(目が綺麗ですね、なんて死んでも言えない…。)
何しろ図書室のオオカミについては怖いイメージしかないのだ。気安く『目、綺麗だね』なんて友達ヅラしたらどんな恐ろしい目に会うか、考えただけでも鳥肌が立ちそうだ。
(とにかくこの状況から抜け出したい…っ!)
「ご、ごめんなさい、私用事あるので行かなきゃ…。し、失礼しま――」
リュックを抱きしめたまま、椅子から立ち上がった時、オオカミは立ち上がり、日和の進む先に周った。
「…?えっと…オオカミくん…?」
「……別に」
オオカミはまたフードを被り、椅子に座った。
「…?…それじゃあ、失礼します」
日和は不思議そうな顔を浮かべたまま、図書室を出た。
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