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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 29 `サンドバッグ ‘ って言うんですって
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「クリスティアナ、早く食べなくていいのか?」
「え?」
「あの二人の食事が終わったみたいだぞ。サファイアの鬱憤晴らしに付き合わされるんだろう?」
「あ……」
そのサファイアが凄い勢いでやってきて、二人の間に割って入った。
「姉様、すぐ私の部屋に行きましょう!」
「サファイア、私はまだ食べているのよ? 急いで済ませるから待ってちょうだい」
アレクセイは苦笑交じりに退席をし、ルイス王子の後から食堂を出ていった。結局食後のお茶もそこそこに、クリスティアナはサファイアに連れていかれる。
「これは一体なぁに? サファイア」
サファイアの部屋には天井から吊り下げられた丸くて細長い物体があった。
「カイトが作ってくれたの。壁を何度か拳で叩いて、手を傷めたところを見られてしまって」
その時の事を思い出し恥かしく思ったのか、珍しく顔を赤くしてサファイアが話を続ける。
「`サンドバッグ ‘ って言うんですって。これは砂でなくて綿が入っているんだけど」
「よくできているわね」
「そうなのよ! このサンドバッグもそうだけど、天井の梁に吊り下げるなんて考えもつかなかったわ。それにこれ、手を傷めないよう打つ時はこの布を手に巻くようにって`バンテージ ‘ っていうそうよ」
「彼は若いのに本当に体術のことを……ううん、体術以外にも色々なことを知っているのね」
「そうなの。じいやと似ているわよね? 物知りで」
サファイアはバンテージを巻いて、サンドバッグに向けて打ち込んだ。
「カイトはもう、リーフシュタインになくてはならない人物なのだから、リリアーナと結婚をして、ずっといてもらわないと!」
そしてもう一発思いっきりヘビーなパンチを叩き込む。
「その為にもあの腹の立つルイス王子をギタギタにして追い出してやる! `嫁ぎ先が決まらない ‘ なんて大きなお世話よ!! 明日は完膚なきまでに言い負かしてやるんだから!」
`あら、意外と気にしていたのね ‘ とサファイアを見ると、サンドバッグをタコ殴りにしていた。
部屋の中から楽しそうな子供の笑い声が聞こえてきた。
「カイト、カイト! 止めないで! もっと大きくゆらすから!」
「分かりました。では、周りの貴重品を片付けますのでお待ち下さい」
今日の警護のスティーブとビアンカが、扉に耳をつけて中の様子を伺っている。
「あんた達、立ち番だって自覚ある……?」
「フ、フランチェスカ! いや、だって気になるだろう? リリアーナ様のあのはしゃぎよう」
「ここのところ外出できなくて塞ぎがちだったから、益々中で何をやっているのか気になっちゃって」
「しようがないわねぇ」
慌てるスティーブとビアンカにフランチェスカは溜息をつくと、扉をノックしようとした。中からカイトの声がする。
「フランチェスカ、先にスティーブを入れてくれないか?」
「カイト、ノックの前によく気付いたわね」
「俺が入ればいいんだな」
フランチェスカと入れ替わり、ノブを回して扉を開け…
「あ、そうだ。スティーブ気をつけて――」
「え……?」
フランの声に振り返ると、後頭部を何かが直撃して火花が目から飛び散った。
「いでぇええ!!!…」
「スティーブしゃがめ!」
カイトの声と同時に今度は顔面を直撃した。
「な、何すんだよカイト!」
「ごめん……なさい……」
見るとリリアーナがカイトの足にしがみついて、すまなそうにこちらを伺っている。
(と、いうことは今のは……)
スティーブはすっと姿勢を正す。
「大変いい当たり具合でした――」
フランとアビゲイルがぷっと吹き出す。
「スティーブ悪い。お前なら避けられると思ったから、俺がやらせたんだ」
続いてフランが謝る。
「私が悪いの。それが飛んでくるかと思ったから変なタイミングで声を掛けちゃって、ごめんなさい」
スティーブが部屋に入りながら構わない、と手を振る。
「もういいさ。一体これは何だ?」
居間の真ん中に、梁からロープで吊るされたボールのような物が、低い位置でぶらぶらしている。
「リリアーナ様にサンドバッグを作ってくれと言われたんだが、あれは5歳児にはまだ扱えないから代わりにこれを――」
「ああ、あのサファイア様の部屋にあるやつか。お前、第二訓練場にも作っただろう?」
カイトが頷いた。
「イフリート団長がサファイア様の部屋にあるのをご覧になって`これは訓練に使える ‘ と第二訓練場にも作るよう言われたんだ」
「それで……何で俺にぶつけさせた?」
「もういいんじゃなかったのか? 実はさっき……」
「え?」
「あの二人の食事が終わったみたいだぞ。サファイアの鬱憤晴らしに付き合わされるんだろう?」
「あ……」
そのサファイアが凄い勢いでやってきて、二人の間に割って入った。
「姉様、すぐ私の部屋に行きましょう!」
「サファイア、私はまだ食べているのよ? 急いで済ませるから待ってちょうだい」
アレクセイは苦笑交じりに退席をし、ルイス王子の後から食堂を出ていった。結局食後のお茶もそこそこに、クリスティアナはサファイアに連れていかれる。
「これは一体なぁに? サファイア」
サファイアの部屋には天井から吊り下げられた丸くて細長い物体があった。
「カイトが作ってくれたの。壁を何度か拳で叩いて、手を傷めたところを見られてしまって」
その時の事を思い出し恥かしく思ったのか、珍しく顔を赤くしてサファイアが話を続ける。
「`サンドバッグ ‘ って言うんですって。これは砂でなくて綿が入っているんだけど」
「よくできているわね」
「そうなのよ! このサンドバッグもそうだけど、天井の梁に吊り下げるなんて考えもつかなかったわ。それにこれ、手を傷めないよう打つ時はこの布を手に巻くようにって`バンテージ ‘ っていうそうよ」
「彼は若いのに本当に体術のことを……ううん、体術以外にも色々なことを知っているのね」
「そうなの。じいやと似ているわよね? 物知りで」
サファイアはバンテージを巻いて、サンドバッグに向けて打ち込んだ。
「カイトはもう、リーフシュタインになくてはならない人物なのだから、リリアーナと結婚をして、ずっといてもらわないと!」
そしてもう一発思いっきりヘビーなパンチを叩き込む。
「その為にもあの腹の立つルイス王子をギタギタにして追い出してやる! `嫁ぎ先が決まらない ‘ なんて大きなお世話よ!! 明日は完膚なきまでに言い負かしてやるんだから!」
`あら、意外と気にしていたのね ‘ とサファイアを見ると、サンドバッグをタコ殴りにしていた。
部屋の中から楽しそうな子供の笑い声が聞こえてきた。
「カイト、カイト! 止めないで! もっと大きくゆらすから!」
「分かりました。では、周りの貴重品を片付けますのでお待ち下さい」
今日の警護のスティーブとビアンカが、扉に耳をつけて中の様子を伺っている。
「あんた達、立ち番だって自覚ある……?」
「フ、フランチェスカ! いや、だって気になるだろう? リリアーナ様のあのはしゃぎよう」
「ここのところ外出できなくて塞ぎがちだったから、益々中で何をやっているのか気になっちゃって」
「しようがないわねぇ」
慌てるスティーブとビアンカにフランチェスカは溜息をつくと、扉をノックしようとした。中からカイトの声がする。
「フランチェスカ、先にスティーブを入れてくれないか?」
「カイト、ノックの前によく気付いたわね」
「俺が入ればいいんだな」
フランチェスカと入れ替わり、ノブを回して扉を開け…
「あ、そうだ。スティーブ気をつけて――」
「え……?」
フランの声に振り返ると、後頭部を何かが直撃して火花が目から飛び散った。
「いでぇええ!!!…」
「スティーブしゃがめ!」
カイトの声と同時に今度は顔面を直撃した。
「な、何すんだよカイト!」
「ごめん……なさい……」
見るとリリアーナがカイトの足にしがみついて、すまなそうにこちらを伺っている。
(と、いうことは今のは……)
スティーブはすっと姿勢を正す。
「大変いい当たり具合でした――」
フランとアビゲイルがぷっと吹き出す。
「スティーブ悪い。お前なら避けられると思ったから、俺がやらせたんだ」
続いてフランが謝る。
「私が悪いの。それが飛んでくるかと思ったから変なタイミングで声を掛けちゃって、ごめんなさい」
スティーブが部屋に入りながら構わない、と手を振る。
「もういいさ。一体これは何だ?」
居間の真ん中に、梁からロープで吊るされたボールのような物が、低い位置でぶらぶらしている。
「リリアーナ様にサンドバッグを作ってくれと言われたんだが、あれは5歳児にはまだ扱えないから代わりにこれを――」
「ああ、あのサファイア様の部屋にあるやつか。お前、第二訓練場にも作っただろう?」
カイトが頷いた。
「イフリート団長がサファイア様の部屋にあるのをご覧になって`これは訓練に使える ‘ と第二訓練場にも作るよう言われたんだ」
「それで……何で俺にぶつけさせた?」
「もういいんじゃなかったのか? 実はさっき……」
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