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第十章
私を呼んで 9 フランシスとかくれんぼ
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カイトがくちづけから解放してくれた時には、ポーレットは少し朦朧としていた。腕の中のポーレットを見て、カイトがクスリと笑う。
「大丈夫?」
「はい・・・でも、自分では立てないかも・・・」
確かに殆ど抱きかかえられている状態で、支え無しでは立っていられなそうだ。カイトはポーレットを奥に座らせて、頭のてっぺんにキスを落とした。
「君は暫くそこで休んでいなさい。フランシスが来たら、私だけ捕まるから」
「え、でもそんなことできますか・・・?」
そうこう言っているうちにフランシスの足音が近付いてきた。フランシスが扉を勢いよく開ける。
「カイト! 見つけた~~~!」
「う~ん、見つかってしまったか」
カイトが後ろ手に扉を閉めた。
目の前のカイトに気を取られたのと、外が明るくクローゼットの中が暗かったので、ポーレットには気が付かなかったようだ。
「ポーレットが見つからないんだよー」
「彼女は上手に隠れたようだね」
二人の声が遠ざかっていく。カイトに求められたのは嬉しいが、リリアーナの事を思い出してはくれなかった。もっともカイトのキスに翻弄されて、思い出すような行動を取れなかったのもあるが・・・。
ポーレットではなく、リリアーナにくちづけてほしい。リリアーナとして抱きしめてほしい。私のことを思い出してほしい――
せっかく好いてもらえたのに、そこまで考えるのは贅沢だろうか・・・?
「15人見つけたー!!」
フランシスの声が響いてきた。ポーレットが出ていくと、すぐにフランシスが抱きついてきた。
「どこに隠れていたの?」
「秘密よ」
ポーレットがフフッと笑うとフランシスがぷくっと膨れる。三時を過ぎたので、休憩を兼ねてみんなでおやつを食べることになる。
「はい、ポーレット! あーんして」
フランシスがクッキーを口の前に出してくる。
(私って、食べさせたくなるのかしら・・・)あーんと口を開けると嬉しそうにクッキーを入れてくれた。もぐもぐとしてごっくんと飲み込む。
「美味しい?」
「ええ、とても」
他の使用人達も食べさせたかったようだが、今日のポーレットは、フランシス専属だ。フランシスはポーレットに食べさせる喜びを知ってしまい、カイトが見かねて止めに入るまで続けざまに食べさせられた。
休憩後も『ポーレットを見つけるんだ!』というフランシスの一言で、かくれんぼをすることとなる。今度はポーレットを一番最初に見つけられて、ご満悦のフランシスであった。
とても楽しい一日が終わり、帰りの馬車もポーレットが付き添った。使用人達はもう仕事に戻っていて、見送りに出ているのはカイトとベイジルだけだ。
馬車に乗り込むときに支えてくれたカイトの手が、愛おしむようになかなか離れない。それを見ていたフランシスが二人に向かって無邪気に言い放った。
「二人共、恋人同士みたい~」
一瞬で双方の手は離れたが、カイトの頭の中は何かが引っかかったようであった。カイトは深く考えようとしたが、リディスが近付いてきて中断される。
「フランシス様、今日はお付き合いできなくて、申し訳ありませんでした」
リディスが笑顔を浮かべると、フランシスはポーレットの後ろに隠れてしまった。馬車は扉を閉めて出発をする。
「残念だわ、嫌われてしまったみたい」
リディスが肩をすくめている。
「君は・・・あまり子供が好きじゃなかったね」
「そうね。今はまだあまり好きではないけど、貴方との子供はきっと可愛いわ」
カイトはリディスを見下ろした。なぜこの女性と結婚したのだろう・・・
華やかな事が大好きで、いつも美しく着飾っている妻。外見は美しいが、それ以外に惹かれる要素が見当たらない妻。
自分の一目惚れのように記憶しているが、出会ったのは確か・・・出会ったのは――そう、町で道を聞かれて、いや、違う。そうではない・・・夜会でダンスを申し込んで・・・これも違う・・・! 何故だ、なぜ鮮明に思い出せない! この擦り減った記憶は何だ! 俺が思い違いをしているのか?
「貴方・・・ねえ、貴方・・・カイト?」
「ああ、ごめん・・・考え事をしていた」
二人で連れ立って屋敷に入る。頭の中は、先程の疑問とポーレットに返っていく。
翌日、ベイジルに言われてポーレットは物置小屋で掃除道具を探していた。大きめのモップを二本持ってくるように言いつかっている。一生懸命探していて、扉が閉まった音に気付かなかった。背後に誰かの気配がする。
背中がぞくりとして振り返ると、そこにフレディが立っていた。
「フレディ・・・何の用?」
「昨日は邪魔が入ったから」
「邪魔って、旦那様のお叱りを受けて、それで反省したのではなかったの!?」
「君が・・・可愛いのがいけないんだよ。ポーレット・・・」
フレディがポーレットの手を取ろうとした。すぐにその手を払いのける。
「出て行って! ここでの事は黙っているから!」
「無理だよ・・・君に触れたいんだ」
こちらはリーフシュタインの寝室ビジョン前。
「わ、私の姫様に何て事を!!」
フランチェスカがビジョンを見て大憤慨している。今日は騎士団の団長であるイフリートと副団長のサイラスもいて、フランチェスカだけではなく全員でリリアーナを心配していた。カエレスが口を開く。
「どうもリリアーナはポーレットでも男性を惹き付けてしまうようだな」
「私が代わって差し上げたい!! 私だったらあの男! どつきまわして虫の息にしてくれるのに!!」
全員思った。
これがフランチェスカだったなら、安心して見ていられるのに――
その時、ポーレットが押し倒された。
「今日は旦那様はタウンハウス(町屋敷)にお出かけだ。昨日みたいに助けてはくれないよ」
「いや、放して!!」
ポーレットの目から涙が溢れ出てきたのと、彼女の茶色のまとめ髪から、金色に輝く髪の毛が一本飛んでいくのが一緒であった。
ビジョンの中の出来事であるのに、イフリートもサイラスもスティーブも、つい腰に佩いてある剣に手を伸ばす。
「お願いやめて・・・!」
もう掠れた声しか出ないポーレットの視界に映ったのは、大きいモップを振りかざしたベイジルだった。物凄い勢いで、フレディ目掛けてそのモップを振り下ろす。ポーレットは思わず目を瞑った。
「ポーレット、大丈夫かい?」
「ベイジルさん、ありがとう」
気絶しているフレディの下から、ベイジルが助け出してくれた。
「私を助けてくれたのは偶然ですか?」
「いや、何故だか分からないのだが、急に胸騒ぎがしてな」
ビジョン前では皆も胸を撫で下ろしていた。サイラスが尋ねる。
「守護を受けた三本のうちの一本ですか?」
「まあ、そういうことだ」
イフリートがスティーブに耳打ちした。
「おい、スティーブ」
「何ですか? イフリート団長?」
「カエレス様のあのたんこぶは何だ?」
「ああ、あれは、カイト達がキスシーンに突入した時、フランチェスカが`ビジョンを消せ ‘ と言っているのに無視してかじりつきで見て、どつきまわされた結果です」
恐るべし、フランチェスカ――
「もはや神と思っていないな」
そこで全員考えた。
リディスに多少疑われてもフランチェスカを一緒につけたほうが、ドラゴンの守護より良かったかもしれない――と
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
「大丈夫?」
「はい・・・でも、自分では立てないかも・・・」
確かに殆ど抱きかかえられている状態で、支え無しでは立っていられなそうだ。カイトはポーレットを奥に座らせて、頭のてっぺんにキスを落とした。
「君は暫くそこで休んでいなさい。フランシスが来たら、私だけ捕まるから」
「え、でもそんなことできますか・・・?」
そうこう言っているうちにフランシスの足音が近付いてきた。フランシスが扉を勢いよく開ける。
「カイト! 見つけた~~~!」
「う~ん、見つかってしまったか」
カイトが後ろ手に扉を閉めた。
目の前のカイトに気を取られたのと、外が明るくクローゼットの中が暗かったので、ポーレットには気が付かなかったようだ。
「ポーレットが見つからないんだよー」
「彼女は上手に隠れたようだね」
二人の声が遠ざかっていく。カイトに求められたのは嬉しいが、リリアーナの事を思い出してはくれなかった。もっともカイトのキスに翻弄されて、思い出すような行動を取れなかったのもあるが・・・。
ポーレットではなく、リリアーナにくちづけてほしい。リリアーナとして抱きしめてほしい。私のことを思い出してほしい――
せっかく好いてもらえたのに、そこまで考えるのは贅沢だろうか・・・?
「15人見つけたー!!」
フランシスの声が響いてきた。ポーレットが出ていくと、すぐにフランシスが抱きついてきた。
「どこに隠れていたの?」
「秘密よ」
ポーレットがフフッと笑うとフランシスがぷくっと膨れる。三時を過ぎたので、休憩を兼ねてみんなでおやつを食べることになる。
「はい、ポーレット! あーんして」
フランシスがクッキーを口の前に出してくる。
(私って、食べさせたくなるのかしら・・・)あーんと口を開けると嬉しそうにクッキーを入れてくれた。もぐもぐとしてごっくんと飲み込む。
「美味しい?」
「ええ、とても」
他の使用人達も食べさせたかったようだが、今日のポーレットは、フランシス専属だ。フランシスはポーレットに食べさせる喜びを知ってしまい、カイトが見かねて止めに入るまで続けざまに食べさせられた。
休憩後も『ポーレットを見つけるんだ!』というフランシスの一言で、かくれんぼをすることとなる。今度はポーレットを一番最初に見つけられて、ご満悦のフランシスであった。
とても楽しい一日が終わり、帰りの馬車もポーレットが付き添った。使用人達はもう仕事に戻っていて、見送りに出ているのはカイトとベイジルだけだ。
馬車に乗り込むときに支えてくれたカイトの手が、愛おしむようになかなか離れない。それを見ていたフランシスが二人に向かって無邪気に言い放った。
「二人共、恋人同士みたい~」
一瞬で双方の手は離れたが、カイトの頭の中は何かが引っかかったようであった。カイトは深く考えようとしたが、リディスが近付いてきて中断される。
「フランシス様、今日はお付き合いできなくて、申し訳ありませんでした」
リディスが笑顔を浮かべると、フランシスはポーレットの後ろに隠れてしまった。馬車は扉を閉めて出発をする。
「残念だわ、嫌われてしまったみたい」
リディスが肩をすくめている。
「君は・・・あまり子供が好きじゃなかったね」
「そうね。今はまだあまり好きではないけど、貴方との子供はきっと可愛いわ」
カイトはリディスを見下ろした。なぜこの女性と結婚したのだろう・・・
華やかな事が大好きで、いつも美しく着飾っている妻。外見は美しいが、それ以外に惹かれる要素が見当たらない妻。
自分の一目惚れのように記憶しているが、出会ったのは確か・・・出会ったのは――そう、町で道を聞かれて、いや、違う。そうではない・・・夜会でダンスを申し込んで・・・これも違う・・・! 何故だ、なぜ鮮明に思い出せない! この擦り減った記憶は何だ! 俺が思い違いをしているのか?
「貴方・・・ねえ、貴方・・・カイト?」
「ああ、ごめん・・・考え事をしていた」
二人で連れ立って屋敷に入る。頭の中は、先程の疑問とポーレットに返っていく。
翌日、ベイジルに言われてポーレットは物置小屋で掃除道具を探していた。大きめのモップを二本持ってくるように言いつかっている。一生懸命探していて、扉が閉まった音に気付かなかった。背後に誰かの気配がする。
背中がぞくりとして振り返ると、そこにフレディが立っていた。
「フレディ・・・何の用?」
「昨日は邪魔が入ったから」
「邪魔って、旦那様のお叱りを受けて、それで反省したのではなかったの!?」
「君が・・・可愛いのがいけないんだよ。ポーレット・・・」
フレディがポーレットの手を取ろうとした。すぐにその手を払いのける。
「出て行って! ここでの事は黙っているから!」
「無理だよ・・・君に触れたいんだ」
こちらはリーフシュタインの寝室ビジョン前。
「わ、私の姫様に何て事を!!」
フランチェスカがビジョンを見て大憤慨している。今日は騎士団の団長であるイフリートと副団長のサイラスもいて、フランチェスカだけではなく全員でリリアーナを心配していた。カエレスが口を開く。
「どうもリリアーナはポーレットでも男性を惹き付けてしまうようだな」
「私が代わって差し上げたい!! 私だったらあの男! どつきまわして虫の息にしてくれるのに!!」
全員思った。
これがフランチェスカだったなら、安心して見ていられるのに――
その時、ポーレットが押し倒された。
「今日は旦那様はタウンハウス(町屋敷)にお出かけだ。昨日みたいに助けてはくれないよ」
「いや、放して!!」
ポーレットの目から涙が溢れ出てきたのと、彼女の茶色のまとめ髪から、金色に輝く髪の毛が一本飛んでいくのが一緒であった。
ビジョンの中の出来事であるのに、イフリートもサイラスもスティーブも、つい腰に佩いてある剣に手を伸ばす。
「お願いやめて・・・!」
もう掠れた声しか出ないポーレットの視界に映ったのは、大きいモップを振りかざしたベイジルだった。物凄い勢いで、フレディ目掛けてそのモップを振り下ろす。ポーレットは思わず目を瞑った。
「ポーレット、大丈夫かい?」
「ベイジルさん、ありがとう」
気絶しているフレディの下から、ベイジルが助け出してくれた。
「私を助けてくれたのは偶然ですか?」
「いや、何故だか分からないのだが、急に胸騒ぎがしてな」
ビジョン前では皆も胸を撫で下ろしていた。サイラスが尋ねる。
「守護を受けた三本のうちの一本ですか?」
「まあ、そういうことだ」
イフリートがスティーブに耳打ちした。
「おい、スティーブ」
「何ですか? イフリート団長?」
「カエレス様のあのたんこぶは何だ?」
「ああ、あれは、カイト達がキスシーンに突入した時、フランチェスカが`ビジョンを消せ ‘ と言っているのに無視してかじりつきで見て、どつきまわされた結果です」
恐るべし、フランチェスカ――
「もはや神と思っていないな」
そこで全員考えた。
リディスに多少疑われてもフランチェスカを一緒につけたほうが、ドラゴンの守護より良かったかもしれない――と
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
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