黒の転生騎士

sierra

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第五章

ナルヴィク 8  ただの嫉妬

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 リリアーナの顔には悲痛な色が現れ、殆どカイトに縋 (すが) っていて歩きづらそうである。さっきの騒ぎで以前を思い出したのであろう。
 カイトはリリアーナを横に抱き上げると、大広間を出て階段で二階に上がり、城の東にある部屋の前で警護をしていた騎士と話をした。
 そしてその部屋に入ると、奥に進んでベランダに出てカウチにリリアーナをそっと下ろした。

「ここは・・・?」
 リリアーナが辺りを見渡す。そこは3メートル四方ほどのバルコニーで、湖に面していた。

「レオンハルト様に、夜会の途中で休憩するのに使用してもいいと言われておりました。何か飲み物を持って参ります」

 カイトが立ち上がって出て行こうとすると、リリアーナに上着の裾を掴まれた。

「行かないで!」

 カイトはその手を優しく握り、目の前で跪 (ひざまず) く。
「すぐに戻って参りますので、ご安心下さい。部屋の前の警護の者も、昼間に空手を教えた信用できる騎士ですから、ご心配なさらずとも大丈夫です」

「いらない―― 。行かないで」

 まだ落ち着いていない様子もあり、縋りつくような目でカイトを見る。
「かしこまりました。飲み物は警護の者に頼んで参ります」

 カイトは立ち上がると部屋の入り口まで歩いて行き、ドアを開けて何か話して戻ってきた。暫くするとノックがして、カイトがまた対応に出た。お盆の上には色とりどりのフルーツと、水とワインとジュースがのっている。木でできたテーブルの上に置いた。

「たくさん持ってきてくれたのね」

「はい。昼間もそう思いましたが人柄の良い騎士です」
 カイトは水をグラスに注ぐと、リリアーナの前に置いた。

「カイト」
 リリアーナが水に手をつけようとしないので、ジュースの入ったピッチャーに手をかける。

「抱きしめてほしいの・・・」

 カイトは一人掛け用の椅子に座っていたが、カウチに移り座ると、リリアーナを横向きに自分の膝の上にのせた。

「なぜ、膝の上?」
 リリアーナが少し紅くなった。

「身長差がありますから、このほうが抱きしめやすいかと」
 自分は紅いのに淡々としているカイトは何かずるいと思っていると、優しくそっと抱きしめられた。

「まだ、先程の出来事が尾を引いていますか?」

 カイトの胸に頬を寄せて、手を置く。とても落ち着く――
「いきなり・・・さっきみたいに手を引っ張られそうになると、色々と思い出して怖くなるの・・・」

 カイトの手に力が籠もった。
「申し訳ございません。私の判断に甘さがありました」

「そんな事ない!」
 リリアーナが顔を横に振った。あれ以上カイトに何ができたというのだろう。

「カイトがいつも傍にいて守ってくれるから、安心していられるの」
 リリアーナは思い切って、カイトの腕の中で伸びをしてキスをしようとした。

「届かない・・・」
 恥かしくて真っ赤になる。カイトがクスッと笑みを漏らした。

 首を少し曲げてリリアーナの口を自分のそれで塞ぐ。

「可愛い」キスの合間に囁かれて、リリアーナは益々紅くなる。

 固く引き締まった身体に包まれたままくちづけられるのは、カイトを男性としていつも以上に意識してしまい、胸が異様に高鳴った。

 
口の下でリリアーナが何か言っているので、カイトは少し口を離した。

「カイトはずるい」

「はい?」

「私ばっかり紅くなったり、翻弄されて、カイトは余裕で普段通り・・・たくさん女の子と付き合っていたの・・・?」
 そこら辺がとても気になる。

「いや、そんなでも・・・私は感情を表に出すのが苦手ですから、そのせいだと思いますが」
 特に元日本男児だし、と心の中で付け加える。

「だからスティーブが羨ましいです」

「え!?」
 リリアーナは心底驚いた。スティーブは喜怒哀楽が現れすぎているような気がするが・・・

「ああなりたいの・・・?」
「それは、少し考えさせて下さい」
 二人で声を合わせて笑う。

 その一方でカイトは心の中に生じる小さな闇が気になっていた。 
レオンハルトと踊ると言い、ダンスホールに出ようとしたリリアーナを一瞬引き戻したくなった。
 
 ただの嫉妬に違いない――
今まで人にも物にも執着した事がないカイトは、自分と相容れない感情に戸惑っていた。


#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。

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