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第三章
カイトの想い
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月の光が降り注ぐように、城の前庭から宿舎へと続く回廊を照らしている。
『まさか思い切れる日がくるとは・・・』
このままずっと贖罪に似た毎日を、ただただ繰り返し生きていくものだと思っていた。幼児を助けなかった時に、自分がどう思うかなど考えた事もなかった。そしてそれに対する両親の気持ちも・・・
出ないであろうと諦めていた答えを得られ、良心の呵責から解放された時に気付いたら涙が出ていた。そして解放してくれた当の女性(ひと)は`私の前では泣いていい‘と言う。
カイトは回廊の柱に寄りかかり、仰ぎ見るように上を向くと片手で目を覆った。
「やばい・・・」
カイトは自分が女性に対して淡白だと思っていた。転生前もそれなりにもてたし、告白されて付き合いもした。でも、誰にも心動かされなかったし、転生してからも事態は同じだった。
だからこそ、リリアーナの警護も受ける事ができた。自分は惹かれる事もなく、リリアーナに平穏な毎日を送ってもらう事ができると思ったからだ。
そんな事を考えていた自分を笑ってしまう・・・。
四年前の式典では本物の天使がいるように見えた。
その後リリアーナを手に入れようとする輩の事件が続き、男性恐怖症になってしまったリリアーナ。
そんな男達を軽蔑したし、リリアーナにも同情した。最初の時に攫われたリリアーナが、自身が酷い目に遭いながらも自分達の事を心配し、気に掛けてくれた事を好ましく思った。
多分最初から惹かれていて、その気持ちは少しずつ増していったのであろう。
今日、自分を解放してくれただけでなく、慰めようとしてくれているのを愛しく感じ、その想いが溢れてしまった。
リリアーナは嫌がってはいなかったと思う。前の騎士のようにはなりたくない。それだったら死んだほうがマシだ。
彼女の気持ちは正直よく分からない。自分を全面的に信用してくれているのは分かる。叙任式の時も白い手を伸ばしてしがみついてきたが、もしかするとそこにあるのは兄を思うような愛かもしれない。
自分はリリアーナ様付きの警護を辞するべきだろうか――
リリアーナ様のためにも自分は警護から身を引くべきかもしれない。カイトは目を覆っていた手をどけて、月に照らされた庭を静かに眺めた。
本当はもう分かっている。例えこの恋が叶わずとも、傍に居ずにはいられない事を。
『まさか思い切れる日がくるとは・・・』
このままずっと贖罪に似た毎日を、ただただ繰り返し生きていくものだと思っていた。幼児を助けなかった時に、自分がどう思うかなど考えた事もなかった。そしてそれに対する両親の気持ちも・・・
出ないであろうと諦めていた答えを得られ、良心の呵責から解放された時に気付いたら涙が出ていた。そして解放してくれた当の女性(ひと)は`私の前では泣いていい‘と言う。
カイトは回廊の柱に寄りかかり、仰ぎ見るように上を向くと片手で目を覆った。
「やばい・・・」
カイトは自分が女性に対して淡白だと思っていた。転生前もそれなりにもてたし、告白されて付き合いもした。でも、誰にも心動かされなかったし、転生してからも事態は同じだった。
だからこそ、リリアーナの警護も受ける事ができた。自分は惹かれる事もなく、リリアーナに平穏な毎日を送ってもらう事ができると思ったからだ。
そんな事を考えていた自分を笑ってしまう・・・。
四年前の式典では本物の天使がいるように見えた。
その後リリアーナを手に入れようとする輩の事件が続き、男性恐怖症になってしまったリリアーナ。
そんな男達を軽蔑したし、リリアーナにも同情した。最初の時に攫われたリリアーナが、自身が酷い目に遭いながらも自分達の事を心配し、気に掛けてくれた事を好ましく思った。
多分最初から惹かれていて、その気持ちは少しずつ増していったのであろう。
今日、自分を解放してくれただけでなく、慰めようとしてくれているのを愛しく感じ、その想いが溢れてしまった。
リリアーナは嫌がってはいなかったと思う。前の騎士のようにはなりたくない。それだったら死んだほうがマシだ。
彼女の気持ちは正直よく分からない。自分を全面的に信用してくれているのは分かる。叙任式の時も白い手を伸ばしてしがみついてきたが、もしかするとそこにあるのは兄を思うような愛かもしれない。
自分はリリアーナ様付きの警護を辞するべきだろうか――
リリアーナ様のためにも自分は警護から身を引くべきかもしれない。カイトは目を覆っていた手をどけて、月に照らされた庭を静かに眺めた。
本当はもう分かっている。例えこの恋が叶わずとも、傍に居ずにはいられない事を。
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