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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 126(後日談)アレクセイは…
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クリスティアナとアレクセイがいきなり現れたシンシアに、呆然と目を向ける。彼女の頭にはちょこんと葉っぱが乗っていた。
「シンシア、頭に葉が……それに私は普段から、君によく触れていると思うが…」
近づいて葉を取ろうとしたアレクセイの手を、ぱしっと叩いて撥ねのける。
「兄妹のような距離感ではありませんか……! キスだって、数えるほどしかしていないわ!」
「落ち着いてちょうだい、シンシア。この続きはどこか部屋に入って、…」
実は辺りに大勢が隠れているという状況に、クリスティアナが慌てて口を挟んだが、ヒートアップしたシンシアの耳には届かない。
「私に女性としての魅力を、感じないのでしょう!?」
「そんなことはない! 私の気持ちを、君も聞いていただろう?」
「じゃあ、なぜ?」
「君に嫌われたくないから、私は自分を抑えているんだ」
「嘘よ、なぜ私が貴方を嫌うの! 愛しているなら、なぜ抑える必要があるの!?」
アレクセイが拳を握りしめて、苦々しい表情を浮かべる。
「本当は私に触れられて、辛いんじゃないのか……?」
「……え?」
「君は私が触れると、異常なほど肩を震わせて、……キスだって、いつもぎゅっと目を瞑り、身体を硬くして耐えているように見える……」
「それは、……確かに辛いのですが」
「辛いと認めるんだな……」
厳しい現実を突きつけられたように、アレクセイが声を落として顔を歪める。
「意味が、違うのです!」
「だからあの時も……”深くキスをしてもいいか?”と尋ねた時も……君は目をそらして黙り込み、苦しそうな表情を浮かべたのか……」
「あっ、あれは…」
「ちょっと待って――」
クリスティアナが、二人の間に身体を捩じ込みながら、話にも割り込む。
「兄様……まさか、”深くキスをしてもいいか?”って、シンシアに聞いたりしたの?」
「そうだ。無理強いは避けたいし、例えOKだとしても心の準備が必要だろう?」
当然のことのように言うアレクセイに、クリスティアナが呆れる。
「決定権をシンシアに委ねるだなんて、男じゃないわよ、お兄様! キスは男性がリードしなくては! 奥ゆかしいシンシアが”はい、どうぞ”なんて言う訳ないでしょう? ”ここでOKしたら、はしたないと思われないかしら?”とか、”待ち兼ねていたように思われないかしら?”とか、色々考えるに決まっているわ」
アレクセイはハッ、としたが、すぐにまた首を横に振る。
「確かにそうかもしれない。しかし、シンシアは辛いと言ったじゃないか、深いキスが嫌だとも……」
「嫌だなんて言っていません!」
シンシアが激しく否定した。
「確かに言ってはいないが、」
「思ってもいません! アレクセイ様のキスはとても素敵で、私は堪えきれなくなってしまうのです!」
「………え?」
アレクセイが一瞬呆けた顔をする。
「アレクセイ様に触れられたりキスをされると、うっとりしてしまって、私からもつい、触れたくなってしまうのです……」
「それの何がいけないんだ?」
「はしたないのでしょう? ”厭らしい、まるで娼婦のようだ”と、閨の授業で先生に叱られました。アレクセイ様に嫌われてしまうとも言われ……」
「なん、だと……?」
「”悦びに流されず、慎み深く、王女として常に貞淑であるように”と、先生が仰ったのに、私は人形のようにじっとはしていられないのです。深くキスをされたかったけど、きっと我慢できずにいられない事を思うと……」
シンシアは勇気を振り絞って、アレクセイを見つめる。
「アレクセイ様とのキスは、き、気持ちよくなってしまうから、しがみ付いたり声を漏らしてしまいそうで、”はしたない女だ”と、貴方に嫌われたくはなかったのです」
「シンシア……」
身体をふるふると震わせて、自分の想いを懸命に伝えようとするシンシアに、アレクセイは胸を打たれる。彼女の瞳からは、はらはらと真珠のような涙が零れ落ちた。
アレクセイはシンシアに歩み寄り、背中に腕を回して、優しく腕の中に抱き寄せた。
「その先生は間違っている。君は、君の感じるままに振舞っていいんだ」
「……本当に?」
「ああ」
心配そうな彼女の顎を掴んで上向かせると、上体を屈めて……そっとくちづけた。突然のキスに頬を赤らめ、恥ずかしそうに見上げるシンシア。
「とても……可愛い。君はそのままでいいんだ」
「アレクセイ様……」
「様はいらないと、いつも言っているだろう?」
「ア、アレク、…セイ……」
つっかえつっかえ、恥ずかし気に言うシンシアを、アレクセイは愛しさに溢れた瞳でじっと見つめる。
「いい子だ」
シンシアの額にキスを落とし、軽々と横に抱き上げた。
「芙蓉の間でランチをとろう。今日は夜までずっと時間を空けてあるんだ。君の為に……」
「アレク、セイ……」
うっとりと、アレクセイを仰ぎ見るシンシア。もはやお互いしか目に入らない二人。
「クリスティアナ――」
腕の中の愛しい女性に視線を落としたまま、アレクセイが妹を呼んだ。
「シンシア、頭に葉が……それに私は普段から、君によく触れていると思うが…」
近づいて葉を取ろうとしたアレクセイの手を、ぱしっと叩いて撥ねのける。
「兄妹のような距離感ではありませんか……! キスだって、数えるほどしかしていないわ!」
「落ち着いてちょうだい、シンシア。この続きはどこか部屋に入って、…」
実は辺りに大勢が隠れているという状況に、クリスティアナが慌てて口を挟んだが、ヒートアップしたシンシアの耳には届かない。
「私に女性としての魅力を、感じないのでしょう!?」
「そんなことはない! 私の気持ちを、君も聞いていただろう?」
「じゃあ、なぜ?」
「君に嫌われたくないから、私は自分を抑えているんだ」
「嘘よ、なぜ私が貴方を嫌うの! 愛しているなら、なぜ抑える必要があるの!?」
アレクセイが拳を握りしめて、苦々しい表情を浮かべる。
「本当は私に触れられて、辛いんじゃないのか……?」
「……え?」
「君は私が触れると、異常なほど肩を震わせて、……キスだって、いつもぎゅっと目を瞑り、身体を硬くして耐えているように見える……」
「それは、……確かに辛いのですが」
「辛いと認めるんだな……」
厳しい現実を突きつけられたように、アレクセイが声を落として顔を歪める。
「意味が、違うのです!」
「だからあの時も……”深くキスをしてもいいか?”と尋ねた時も……君は目をそらして黙り込み、苦しそうな表情を浮かべたのか……」
「あっ、あれは…」
「ちょっと待って――」
クリスティアナが、二人の間に身体を捩じ込みながら、話にも割り込む。
「兄様……まさか、”深くキスをしてもいいか?”って、シンシアに聞いたりしたの?」
「そうだ。無理強いは避けたいし、例えOKだとしても心の準備が必要だろう?」
当然のことのように言うアレクセイに、クリスティアナが呆れる。
「決定権をシンシアに委ねるだなんて、男じゃないわよ、お兄様! キスは男性がリードしなくては! 奥ゆかしいシンシアが”はい、どうぞ”なんて言う訳ないでしょう? ”ここでOKしたら、はしたないと思われないかしら?”とか、”待ち兼ねていたように思われないかしら?”とか、色々考えるに決まっているわ」
アレクセイはハッ、としたが、すぐにまた首を横に振る。
「確かにそうかもしれない。しかし、シンシアは辛いと言ったじゃないか、深いキスが嫌だとも……」
「嫌だなんて言っていません!」
シンシアが激しく否定した。
「確かに言ってはいないが、」
「思ってもいません! アレクセイ様のキスはとても素敵で、私は堪えきれなくなってしまうのです!」
「………え?」
アレクセイが一瞬呆けた顔をする。
「アレクセイ様に触れられたりキスをされると、うっとりしてしまって、私からもつい、触れたくなってしまうのです……」
「それの何がいけないんだ?」
「はしたないのでしょう? ”厭らしい、まるで娼婦のようだ”と、閨の授業で先生に叱られました。アレクセイ様に嫌われてしまうとも言われ……」
「なん、だと……?」
「”悦びに流されず、慎み深く、王女として常に貞淑であるように”と、先生が仰ったのに、私は人形のようにじっとはしていられないのです。深くキスをされたかったけど、きっと我慢できずにいられない事を思うと……」
シンシアは勇気を振り絞って、アレクセイを見つめる。
「アレクセイ様とのキスは、き、気持ちよくなってしまうから、しがみ付いたり声を漏らしてしまいそうで、”はしたない女だ”と、貴方に嫌われたくはなかったのです」
「シンシア……」
身体をふるふると震わせて、自分の想いを懸命に伝えようとするシンシアに、アレクセイは胸を打たれる。彼女の瞳からは、はらはらと真珠のような涙が零れ落ちた。
アレクセイはシンシアに歩み寄り、背中に腕を回して、優しく腕の中に抱き寄せた。
「その先生は間違っている。君は、君の感じるままに振舞っていいんだ」
「……本当に?」
「ああ」
心配そうな彼女の顎を掴んで上向かせると、上体を屈めて……そっとくちづけた。突然のキスに頬を赤らめ、恥ずかしそうに見上げるシンシア。
「とても……可愛い。君はそのままでいいんだ」
「アレクセイ様……」
「様はいらないと、いつも言っているだろう?」
「ア、アレク、…セイ……」
つっかえつっかえ、恥ずかし気に言うシンシアを、アレクセイは愛しさに溢れた瞳でじっと見つめる。
「いい子だ」
シンシアの額にキスを落とし、軽々と横に抱き上げた。
「芙蓉の間でランチをとろう。今日は夜までずっと時間を空けてあるんだ。君の為に……」
「アレク、セイ……」
うっとりと、アレクセイを仰ぎ見るシンシア。もはやお互いしか目に入らない二人。
「クリスティアナ――」
腕の中の愛しい女性に視線を落としたまま、アレクセイが妹を呼んだ。
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