黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 124(後日談)まだ甘い二人

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 カイトが首を傾けて、静かにリリアーナの唇を塞いだ。

 緊張から、キュッと閉じられたリリアーナの唇のあわいを、舌先でくすぐる。リリアーナがくすぐったそうに、僅かにあけた隙間から、舌を滑り込ませた。思わず縮めた彼女の舌先を探し当てて絡め取り、柔らかく吸い上げる。

「んっ、……」

 リリアーナは小さく肩を震わせて、細い指先で、カイトに縋り付いた。
 
「ぁ……はぁ……っ…」

 キスのとき上手く息ができないリリアーナは、カイトが角度を変える度に、喘ぎながら懸命に呼吸をする。カイトが笑みを浮かべ、くちづけを、押し当てるだけの軽く…緩やかなものに変えた。
 甘やかに……触れては離れ、リリアーナが慣れるのを待つように、穏やかなキスが続く。

 ノックの音が部屋に響いた――。

「リリアーナ様。朝食を、お持ちしました」
「フランだわ……!」

 弾かれたように、膝の上から下りようとしたリリアーナは、たちまちカイトによって引き戻される。力強い腕に背後から抱え込まれ、彼の膝の上で身動きが取れなくなってしまった。

「どこに行く?」

 リリアーナの腰を掴んでいた片手が離れ、すらりと伸びた指先がつぅ…っ、と彼女の首筋を撫で上げた。ぴくっと身体を揺らしたリリアーナの顎を後ろから掴み、耳元に顔を寄せる。

「鍵の件は了承したはずだろう?」
「フ、フランにひとこと言ってくるだけ、」

 耳朶を甘噛みしながらカイトが囁き、リリアーナの胸の鼓動は一段と速くなる。

「”邪魔をしないで”って言うのか?」

 顎を捕らえている力は、さほど強くないのに、振り払える気がしない。耳を這う熱い舌にも負けそうになりながら、フランを思い、抗議する。

「フランが、……やぁっ、耳を舐めちゃ……」
「分かった」
「か、噛むのもダメっ、」
「”邪魔をしないで”って言うのか?」

 再度問われ、根が真面目なリリアーナは、正直に、しかし恥ずかし気に答える。

「……もう少し、後で、…後で来てって……」

 微笑ましいものを見る表情で、口元を緩めたカイトが、リリアーナを腕の中に横たえた。左の二の腕に彼女の頭をそっと乗せ、上から覗き込む。

「もう少し後で?」

 その状況と、じっと自分の唇を見つめるカイトの視線にハッとしたリリアーナは、腕の中でもがき始めた。今、この状態から抜け出さなければ、きっとずっと抜け出せなくなる。フランは身を挺して、自分を守ろうとしてくれた。一言でいい、声を掛けたい。
 カイトは腕の中から抜け出そうと、じたばたしているリリアーナを、まるで猫の子でも相手にするように、軽くあしらう。はぁはぁと肩で息をしているリリアーナを、悠然と、目を細めて見下ろした。
 
「それでは、全然足りない」 

 徐に呟いてから、ゆっくりと……リリアーナに覆いかぶさった。


***
 

 フランチェスカはガラガラと、朝食を載せたワゴンを押しながら考えていた。

(カイトはやはり拳で起こそう。一発……いえ、二発)←腹に食らって、鍵を吐かされた事を根に持っている。

「おはよう、フランチェスカ。遅かったわね」
「おはよう、ビアンカ。ジャネットも、」
「おはよう。もうカイトもリリアーナ様も起きているわよ?」
「チッ、――そうなのね」

 フランチェスカが笑みを浮かべた。

「………今、笑顔の前に舌打ちしなかった?」

 ジャネットとビアンカが、びくついて、少々遠巻きになる。 

「気のせいよ」

 フランチェスカが、扉をノックする。

「リリアーナ様。朝食を、お持ちいたしました」

 暫く待ったが返事がない。
試しにドアノブを回したが、ガチャガチャと音がするだけで開かない。フランが表向きは落ち着いた様子で、ポケットから鍵を取り出した。ビアンカが恐る恐る声をかける。

「フラン、今はやめたほうがいいわ」

 右手に鍵をもったまま、笑みを浮かべて振り返る。

「なぁぜ?」
「笑顔こわっ!!」

 ジャネットが慌てて説明をする。

「カイトとリリアーナ様、いい雰囲気だったのよ。邪魔しないほうがいいと思うの」
「分かったわ……」

 フランチェスカが頷いたので、二人でホッとしていると、目の前で鍵が差し込まれた。

「えっ、?」

 少し差し込んだところで鍵が止まってしまい、フランは回すことができない。

「あの野郎……」

 不穏な言葉を吐き、ヒッと息を呑んだ二人の前で、ノックを……と言うよりは、扉をガンガンと叩き始めた。

「カイト、出てきなさい! 朝食を持ってきたわ! 起きている事は分かっているのよ!!」
「何をやっているの、フラン!」

 ビアンカが慌てて羽交い絞めにする。

「離して、リリアーナ様のお世話をするんだから!」

 ジャネットが宥めにかかった。

「リリアーナ様は心配しなくても大丈夫だから、ワゴンだけ中に入れたら? 後はカイトに任せればいいのよ」
「着替えを手伝わないと! 夜着のままのはずよ!」
「あっ、そういえばそうだったわね。ガウンも着ていなかったし……」

 ビアンカの不用意な発言に、ジャネットはみるみるうちに青ざめ、フランはこめかみに青筋を立てた。

「ガウンを・着て・いなかった・…ですって……?」

 地獄の亡者のような声で、強く区切って言うフランに、ビアンカが慌てて口を噤んだが、後の祭り。

「誰か、斧を持ってきて! それかイフリート団長!!」
「お願い、落ち着いてぇえええ!」
「扉を壊す気!?」

 その時カチャリ、と扉が開いた。


***

 
執務室――

「口に出す前に、必ず30秒数えろ」
「30秒も数えていたら、テンポよく会話できないわ」

 アレクセイの身体から、強い負のオーラが吹き出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 30秒、きっちり数えます!」

 泣きっ面になったサファイアに、オーラを引っ込めたアレクセイが説教を続ける。

「行動に移す前に、必ず誰かに相談をしろ」
「ふぁい」
「自己判断をするな。自分が正しいと思うな、自分の考えを疑ってかかれ」
「兄様」
「何だ?」
「お花を摘みに行きたいのだけど」
「便所か」
「兄様、下品」
「さっき行ったばかりじゃないか」
「また行きたいの」
「二時間で三回は行きすぎだ」
「だって、こんなに疲れたのに、まだ二時間なのよ? やっとお昼で、このあとも夜まで続くのよ!? お願い休ませて。これだけ説教したら、もう話すこともないでしょう?」
「まだ序盤だ」
「うげっ、」

 サファイアはアレクセイの隙を見て逃げ出そうとした。

「やっぱり行ってくる!」

 が、あっさりと捕まり、ぐるぐると紐で椅子に縛り付けられる。

「なにこれ、冗談はやめてよ!」
「さぁ、残り八時間、行ってみようか」
「えーーー!!」

「復唱しろ。”人の話をきちんと聞く”…………」

 席を立ったアレクセイが歩きながら話していると、何やら外が騒がしい事に気が付いた。窓辺に寄り、開け放たれた窓から外を覗き見てみる。
 サファイアが復唱をする。

「人の話をきちんと聞く」

 アレクセイは、窓に張り付いたままだ。

「に、さま……復唱したけど、……?」

 凄まじい形相で振り返り、猛烈な勢いで執務室を出て行ってしまった。

「………えっ、」

 椅子に縛り付けられたサファイアは、一人取り残される。

「えっ……?」





サファイアのように、色々とやらかしてしまい遅れております。。゚( ゚^∀^゚)゚。 
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