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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 61 「いくよ~! `時の女神よ、我が願いを……」
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「カエレス様! フェダー……!」
「カイト、久しぶりだな」
下り立つと同時に、長い黒髪を持つ人間の姿に変わり、カイトのほうに近付いてきた。
「いらっしゃるのが、遅すぎませんか?」
「うん? 何の事だ?」
そこにリリアーナを始めとする、リーフシュタイン美姫三人組がお供を引き連れてやって来た。第一王女のクリスティアナが代表して挨拶をする。
「カエレス様には、ご機嫌うるわしくあらせられることと存じます。窓からお姿が見えたので、急ぎ参りました」
三人で膝を折り、粛々と挨拶をした。
「そんなに改まるな。リリアーナ、やはりその姿のほうがいいな。わしの言った通りですぐに戻れたであろう?」
「え……?」
「何の事ですか?」
リリアーナが戸惑いの表情を浮かべ、カイトが険しい顔をした。
「え……? わし、魔法の解き方、教えたよね?」
暫くの沈黙の後に、そこにいた全員が首を横に振る。
目を細めてカイトが若干恐ろしげなオーラを放ちつつ、カエレスに迫っていった。
「どういう事だかご説明願えますか?」
「カ、カイト……顔が怖いぞ! あー、行き違いがあったようだが……」
「父さん……やっぱり来てなかったんだ……」
カイトが人間の子供に姿を変えたフェダーに視線を落とす。
「フェダー、どういう事か説明してくれるかい?」
「うん。あのね…」
「あっ、わし用事が……」
「カエレス様、そこから動かないで下さい。フェダー続きを」
「僕が唱えた呪文はどれも間違っていて、唯一利き目があったのが、時の女神にお願いした`クライネヴェアデ ‘ だったんだ。それも、願いを聞き入れるレベルではなかったけど、父さんと時の女神は仲がいいから、その息子である僕の願いを特別に聞き届けてくれたんだって」
「そうだったのか……」
「それでね、魔法を解くのは愛する男性のキス。女性からはだめだよ。男性からのキスで魔法が解けるって」
「だから、五歳児のリリアーナ様が俺にキスした時に、解けなかったんだな」
「うん。時の女神はロマンチストなんだ。絶対に王子様からのキスでないと駄目なんだって。でも魔法を使った時の気分で、色々と解き方は変わるとも言ってた」
「結構いい加減なんだな。それで……カエレス様は、何で知らせにこなかったんだ?」
「父さんはねぇ、僕が知らせに行こうとしたら『もう日が暮れるから俺が行く』って」
「その行為は立派だ」
「でね、次の日になっても帰ってこないから、迎えに行こうと思ってリーフシュタインに向かって飛んでいたら、お父さんが道端に転がってたの」
「道端に?」
「うん、酔っ払って寝てたの。ぼくが『どうしたの?』って、聞いたら『宵のぉ女神とぉ、朝まで飲んだ~』『カイトに、魔法の解き方は教えたの?』『ああ、もっちろ~ん、ばっちり教えたともぉ~!』って」
「`ばっちり教えたとも ‘ って言ったのか……?]
「うん!」
そうっと逃げ出そうとしていたカエレスに、カイトが振り返って声を掛ける。
「カエレス様」
背中をびくりと痙攣させた後に、背筋を伸ばして説明(言い訳)を始めた。
「色々と付き合いがあって、神も大変なんだ」
「宵の女神、美人だよね」
「じゃあ、わしはこれで!」
フェダーの言葉にすちゃっ、と右手を上げ、ドラゴンに姿を変えてカエレスは飛び立つ。全身に怒りを漲らせてカイトが呪文を詠唱し始めた。
「カイト、何しているの?」
「ドラゴンの守護の力は、力を授けてくれた人にも攻撃を加えることができるのかなと、ふと、思ったんだ」
フェダーの質問にカイトがニッコリと微笑んでみせる。
「わぁ、僕もそれ、気になる!」
「ドネアフェールト!! 雷よ落ちろ――!!」
最後の締めくくりの言葉をカイトが口にすると、ガラガラピッシャーン!! と雷がカエレスを直撃した。
「あっ、当たった」
「凄い、まだ飛んでるぞ。さすが神――ふらふらしてるが」
「っていうか、神相手にいいのかこれ?」
周りがざわざわと騒ぎ立てる中、フェダーがぐんと背伸びをして、太陽の光を手で遮りながら遠くの父親を見やる。
「いま頭のてっぺんに落ちてた気がする。父さん、禿げないといいけど……」
「カイト」
リリアーナが傍らに駆け寄ってきて、やっとカイトの表情が和らいだ。
「リリアーナ様。見苦しいところをお見せして申し訳ありません。`ドラゴンの守護 ‘ の力は恐ろしくありませんでしたか?」
今は仕事中なのと、周囲に人が大勢いるので、敬語モードになっている。リリアーナが首を横に振った。
「いいえ、大丈夫よ。威力の大きさには驚いたけど」
「ごめんね。僕が魔法を失敗したから……」
「フェダーは気にする事ないのよ。まだ小さいから夜は怖いのでしょう? それなのに、解き方を教えに来ようとしてくれて、とても嬉しいわ」
しゅんとするフェダーの頭を、リリアーナが屈んで優しく撫でた。
「リリアーナ……」
「それに、もう元に戻れたのだから、この事は忘れましょう。ね?」
フェダーは嬉しそうに、顔一杯に弾けるような笑みを浮かべる。
「うん! じゃあぼく、お詫びに二人に祝福を上げる!」
「えっ、……」
「いくよ~! `時の女神よ、我が願いを……」
「待て、フェダー! 初っ端から間違っている! なぜ祝福に時の女神が出てくる!?」
カイトの叫び虚しく、フェダーが勢いよく右手を振り下ろした。
「祝福を与えたまえ!!」
「リリアーナ! こっちだ!!」
カイトがリリアーナの腕を掴んで思い切り抱き寄せ、自分の身体で包むように庇う。
ボンッ、と大きな音がして、辺り一面白い煙に覆われた。
「カイト、久しぶりだな」
下り立つと同時に、長い黒髪を持つ人間の姿に変わり、カイトのほうに近付いてきた。
「いらっしゃるのが、遅すぎませんか?」
「うん? 何の事だ?」
そこにリリアーナを始めとする、リーフシュタイン美姫三人組がお供を引き連れてやって来た。第一王女のクリスティアナが代表して挨拶をする。
「カエレス様には、ご機嫌うるわしくあらせられることと存じます。窓からお姿が見えたので、急ぎ参りました」
三人で膝を折り、粛々と挨拶をした。
「そんなに改まるな。リリアーナ、やはりその姿のほうがいいな。わしの言った通りですぐに戻れたであろう?」
「え……?」
「何の事ですか?」
リリアーナが戸惑いの表情を浮かべ、カイトが険しい顔をした。
「え……? わし、魔法の解き方、教えたよね?」
暫くの沈黙の後に、そこにいた全員が首を横に振る。
目を細めてカイトが若干恐ろしげなオーラを放ちつつ、カエレスに迫っていった。
「どういう事だかご説明願えますか?」
「カ、カイト……顔が怖いぞ! あー、行き違いがあったようだが……」
「父さん……やっぱり来てなかったんだ……」
カイトが人間の子供に姿を変えたフェダーに視線を落とす。
「フェダー、どういう事か説明してくれるかい?」
「うん。あのね…」
「あっ、わし用事が……」
「カエレス様、そこから動かないで下さい。フェダー続きを」
「僕が唱えた呪文はどれも間違っていて、唯一利き目があったのが、時の女神にお願いした`クライネヴェアデ ‘ だったんだ。それも、願いを聞き入れるレベルではなかったけど、父さんと時の女神は仲がいいから、その息子である僕の願いを特別に聞き届けてくれたんだって」
「そうだったのか……」
「それでね、魔法を解くのは愛する男性のキス。女性からはだめだよ。男性からのキスで魔法が解けるって」
「だから、五歳児のリリアーナ様が俺にキスした時に、解けなかったんだな」
「うん。時の女神はロマンチストなんだ。絶対に王子様からのキスでないと駄目なんだって。でも魔法を使った時の気分で、色々と解き方は変わるとも言ってた」
「結構いい加減なんだな。それで……カエレス様は、何で知らせにこなかったんだ?」
「父さんはねぇ、僕が知らせに行こうとしたら『もう日が暮れるから俺が行く』って」
「その行為は立派だ」
「でね、次の日になっても帰ってこないから、迎えに行こうと思ってリーフシュタインに向かって飛んでいたら、お父さんが道端に転がってたの」
「道端に?」
「うん、酔っ払って寝てたの。ぼくが『どうしたの?』って、聞いたら『宵のぉ女神とぉ、朝まで飲んだ~』『カイトに、魔法の解き方は教えたの?』『ああ、もっちろ~ん、ばっちり教えたともぉ~!』って」
「`ばっちり教えたとも ‘ って言ったのか……?]
「うん!」
そうっと逃げ出そうとしていたカエレスに、カイトが振り返って声を掛ける。
「カエレス様」
背中をびくりと痙攣させた後に、背筋を伸ばして説明(言い訳)を始めた。
「色々と付き合いがあって、神も大変なんだ」
「宵の女神、美人だよね」
「じゃあ、わしはこれで!」
フェダーの言葉にすちゃっ、と右手を上げ、ドラゴンに姿を変えてカエレスは飛び立つ。全身に怒りを漲らせてカイトが呪文を詠唱し始めた。
「カイト、何しているの?」
「ドラゴンの守護の力は、力を授けてくれた人にも攻撃を加えることができるのかなと、ふと、思ったんだ」
フェダーの質問にカイトがニッコリと微笑んでみせる。
「わぁ、僕もそれ、気になる!」
「ドネアフェールト!! 雷よ落ちろ――!!」
最後の締めくくりの言葉をカイトが口にすると、ガラガラピッシャーン!! と雷がカエレスを直撃した。
「あっ、当たった」
「凄い、まだ飛んでるぞ。さすが神――ふらふらしてるが」
「っていうか、神相手にいいのかこれ?」
周りがざわざわと騒ぎ立てる中、フェダーがぐんと背伸びをして、太陽の光を手で遮りながら遠くの父親を見やる。
「いま頭のてっぺんに落ちてた気がする。父さん、禿げないといいけど……」
「カイト」
リリアーナが傍らに駆け寄ってきて、やっとカイトの表情が和らいだ。
「リリアーナ様。見苦しいところをお見せして申し訳ありません。`ドラゴンの守護 ‘ の力は恐ろしくありませんでしたか?」
今は仕事中なのと、周囲に人が大勢いるので、敬語モードになっている。リリアーナが首を横に振った。
「いいえ、大丈夫よ。威力の大きさには驚いたけど」
「ごめんね。僕が魔法を失敗したから……」
「フェダーは気にする事ないのよ。まだ小さいから夜は怖いのでしょう? それなのに、解き方を教えに来ようとしてくれて、とても嬉しいわ」
しゅんとするフェダーの頭を、リリアーナが屈んで優しく撫でた。
「リリアーナ……」
「それに、もう元に戻れたのだから、この事は忘れましょう。ね?」
フェダーは嬉しそうに、顔一杯に弾けるような笑みを浮かべる。
「うん! じゃあぼく、お詫びに二人に祝福を上げる!」
「えっ、……」
「いくよ~! `時の女神よ、我が願いを……」
「待て、フェダー! 初っ端から間違っている! なぜ祝福に時の女神が出てくる!?」
カイトの叫び虚しく、フェダーが勢いよく右手を振り下ろした。
「祝福を与えたまえ!!」
「リリアーナ! こっちだ!!」
カイトがリリアーナの腕を掴んで思い切り抱き寄せ、自分の身体で包むように庇う。
ボンッ、と大きな音がして、辺り一面白い煙に覆われた。
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