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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 52 カイトがそっと唇を寄せる……
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「幾夜も夢に見た……君のこの髪に触れて――」
髪の毛にキスを落としたまま、上目遣いでリリアーナに渇望の眼差しを向ける。
彼女の心臓がトクンと跳ねた。
「――この髪に顔を埋めるのを」
カイトは手にある金の髪を優しく引き、倒れこんできたリリアーナを抱きすくめ、髪の中に顔を埋めた。彼女の身体が弓なりにしなる。
「花の香りがする」
「え……?」
答える代わりに彼は髪の毛を掻き分けて、首筋にくちづけた。
「あっ、やぁ……」
リリアーナは自分の出した声に紅くなる。
彼は首筋の感じやすいところを見つけては、くちづけて吸い、甘く噛んだ。
彼女は声が出るのが恥かしくて唇を噛み締め、気付いた彼がそれを咎める。
「噛んでは駄目だ。唇に傷がつく」
カイトがそっと唇を寄せて、噛んだ跡に舌を這わせ、リリアーナの口からは震えるような溜息が洩れた。唇の隙間から忍び込んだ彼の舌が、優しくリリアーナの歯列をなぞる。
「んっ……」
リリアーナがカイトの胸に当てた指先で、きゅっとシャツを掴み、その愛らしい反応に刺激されて、彼はくちづけを深くする。
舌先で上顎をくすぐられてぞくりとし、リリアーナはいやいやをした。元々ネンネなリリアーナ。おまけに先程まで5歳児だったのだから、受ける刺激が強すぎる。
嫌ではない――嫌ではないが気が遠くなりそうで、カイトの胸を懸命に押し返し始めたが、騎士の力には敵わない。却って引き締まった胸板を手の平に感じてしまい、益々追い込まれていく。
リリアーナの抵抗はあまりに儚くて、カイトも全然気付いていない。
こうなったらぺしぺしと顔を叩こうと、右手を身体の間から引き出したところで、後頭部を骨ばった左手で押さえ込まれてしまった。舌を絡め取られ、舌先を柔らかく吸われ始め……
「えっ……」
カイトがやっと気付いた時には、リリアーナは腕の中でくたりとなっていた。
「リリアーナ……? リリアーナ!?」
***
またまた時を少し遡り、こちらは東屋庭園の入り口付近では、主要メンバーが集まっている。
「せっかく月が顔を現したのに……この距離だと月明かり程度では目視できないな」
「本当ね」
「大丈夫です、アレクセイ様にサファイア様。今いいものがきます」
サイラスが声を掛けたところに、丁度スティーブが大きな木箱を持ってやってきた。リリアーナが東屋にいるという情報を聞きつけたフランも一緒である。
「サイラス副団長、言われた通り備品室の一番手前の箱を持ってきました」
「ご苦労。そこのベンチの上に置いてくれ」
「はい」
石のベンチに置いた木箱をサイラスが開け、ごそごそと中からある物を取り出した。
「双眼鏡……ですか?」
「そうだ。キルスティン」
「確かにこれなら月明かりの下でも、多少は見える」
イフリートが横から手を突っ込んで二つ取り出し、一つをクリスティアナに手渡そうとすると――
「私はいいわ。だって、これって`覗き ‘ でしょう? いくら心配だからといって……リリアーナも嫌がるわ」
「クリスティアナ……! なんて誠実で思いやり深い……」
イフリートが感動してクリスティアナを抱き寄せている隣で……双眼鏡は配られる。
「ん? スティーブ。お前もいいのか?」
「はい、親友ですから」
「殊勝な事を言うな」
「絶対バレます! 俺は明日朝連があるんです!!」
「朝連怖さか……」
「いえ、それだけではなく……」
傍らにいるフランをチラッと見下ろした。
「サイラス副団長。私、近くまで行ってもいいですか? 絶対邪魔はしません」
しおらしく言うフランチェスカ。彼女はリリアーナが自分を庇って攫われてから`リリアーナ様命 ‘ に拍車がかかっている。
「心配ですぐにでも部屋に連れ帰りたいんだろう? 承諾しかねるな」
「私だって二人が上手くいってほしいし、陰から見守るだけにします」
「駄目だ。邪魔をする光景が目に浮かぶ」
「だって、子供は寝る時間です!」
「語るに落ちたな――スティーブ、取り押さえろ」
「はっ!」
「取り押さえろって、私は犯罪者なの!?『はっ!』じゃないわ、放してよ~!」
「さてと、誤解が解けて二人の仲が、いい方向に向いてくれるといいのだが――」
一番最後にサイラスが双眼鏡を覗き込んだ。
「カイトしか見えないわ」
「サファイア様。リリアーナ様は手摺りに隠れてしまっているのだと思います」
「あっ、本当ねキルスティン。カイトがリリアーナを抱っこしたら見えたわ」
「どうやら上手くいったようだな……んっ……?」
アレクセイの発言の後に、双眼鏡組全員が黙り込んだ。
「どうしたんですか!?」
フランは問うのさえ、もどかしそうだ。
「仕事のしすぎか……?」
アレクセイが双眼鏡から目を外して、指先で目頭を押さえた。
「リリアーナの身体が光って――光った後から16歳に見えるんだけど……?」
アレクセイの言葉に、後の三人がうんうんと頷く。
「ひょっとして……リリアーナ様が元に戻ったんですか――!?」
フランの期待に弾む声に続き、皆が喜びの声を上げた。
髪の毛にキスを落としたまま、上目遣いでリリアーナに渇望の眼差しを向ける。
彼女の心臓がトクンと跳ねた。
「――この髪に顔を埋めるのを」
カイトは手にある金の髪を優しく引き、倒れこんできたリリアーナを抱きすくめ、髪の中に顔を埋めた。彼女の身体が弓なりにしなる。
「花の香りがする」
「え……?」
答える代わりに彼は髪の毛を掻き分けて、首筋にくちづけた。
「あっ、やぁ……」
リリアーナは自分の出した声に紅くなる。
彼は首筋の感じやすいところを見つけては、くちづけて吸い、甘く噛んだ。
彼女は声が出るのが恥かしくて唇を噛み締め、気付いた彼がそれを咎める。
「噛んでは駄目だ。唇に傷がつく」
カイトがそっと唇を寄せて、噛んだ跡に舌を這わせ、リリアーナの口からは震えるような溜息が洩れた。唇の隙間から忍び込んだ彼の舌が、優しくリリアーナの歯列をなぞる。
「んっ……」
リリアーナがカイトの胸に当てた指先で、きゅっとシャツを掴み、その愛らしい反応に刺激されて、彼はくちづけを深くする。
舌先で上顎をくすぐられてぞくりとし、リリアーナはいやいやをした。元々ネンネなリリアーナ。おまけに先程まで5歳児だったのだから、受ける刺激が強すぎる。
嫌ではない――嫌ではないが気が遠くなりそうで、カイトの胸を懸命に押し返し始めたが、騎士の力には敵わない。却って引き締まった胸板を手の平に感じてしまい、益々追い込まれていく。
リリアーナの抵抗はあまりに儚くて、カイトも全然気付いていない。
こうなったらぺしぺしと顔を叩こうと、右手を身体の間から引き出したところで、後頭部を骨ばった左手で押さえ込まれてしまった。舌を絡め取られ、舌先を柔らかく吸われ始め……
「えっ……」
カイトがやっと気付いた時には、リリアーナは腕の中でくたりとなっていた。
「リリアーナ……? リリアーナ!?」
***
またまた時を少し遡り、こちらは東屋庭園の入り口付近では、主要メンバーが集まっている。
「せっかく月が顔を現したのに……この距離だと月明かり程度では目視できないな」
「本当ね」
「大丈夫です、アレクセイ様にサファイア様。今いいものがきます」
サイラスが声を掛けたところに、丁度スティーブが大きな木箱を持ってやってきた。リリアーナが東屋にいるという情報を聞きつけたフランも一緒である。
「サイラス副団長、言われた通り備品室の一番手前の箱を持ってきました」
「ご苦労。そこのベンチの上に置いてくれ」
「はい」
石のベンチに置いた木箱をサイラスが開け、ごそごそと中からある物を取り出した。
「双眼鏡……ですか?」
「そうだ。キルスティン」
「確かにこれなら月明かりの下でも、多少は見える」
イフリートが横から手を突っ込んで二つ取り出し、一つをクリスティアナに手渡そうとすると――
「私はいいわ。だって、これって`覗き ‘ でしょう? いくら心配だからといって……リリアーナも嫌がるわ」
「クリスティアナ……! なんて誠実で思いやり深い……」
イフリートが感動してクリスティアナを抱き寄せている隣で……双眼鏡は配られる。
「ん? スティーブ。お前もいいのか?」
「はい、親友ですから」
「殊勝な事を言うな」
「絶対バレます! 俺は明日朝連があるんです!!」
「朝連怖さか……」
「いえ、それだけではなく……」
傍らにいるフランをチラッと見下ろした。
「サイラス副団長。私、近くまで行ってもいいですか? 絶対邪魔はしません」
しおらしく言うフランチェスカ。彼女はリリアーナが自分を庇って攫われてから`リリアーナ様命 ‘ に拍車がかかっている。
「心配ですぐにでも部屋に連れ帰りたいんだろう? 承諾しかねるな」
「私だって二人が上手くいってほしいし、陰から見守るだけにします」
「駄目だ。邪魔をする光景が目に浮かぶ」
「だって、子供は寝る時間です!」
「語るに落ちたな――スティーブ、取り押さえろ」
「はっ!」
「取り押さえろって、私は犯罪者なの!?『はっ!』じゃないわ、放してよ~!」
「さてと、誤解が解けて二人の仲が、いい方向に向いてくれるといいのだが――」
一番最後にサイラスが双眼鏡を覗き込んだ。
「カイトしか見えないわ」
「サファイア様。リリアーナ様は手摺りに隠れてしまっているのだと思います」
「あっ、本当ねキルスティン。カイトがリリアーナを抱っこしたら見えたわ」
「どうやら上手くいったようだな……んっ……?」
アレクセイの発言の後に、双眼鏡組全員が黙り込んだ。
「どうしたんですか!?」
フランは問うのさえ、もどかしそうだ。
「仕事のしすぎか……?」
アレクセイが双眼鏡から目を外して、指先で目頭を押さえた。
「リリアーナの身体が光って――光った後から16歳に見えるんだけど……?」
アレクセイの言葉に、後の三人がうんうんと頷く。
「ひょっとして……リリアーナ様が元に戻ったんですか――!?」
フランの期待に弾む声に続き、皆が喜びの声を上げた。
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