68 / 79
68 マウントを取られはしたが
しおりを挟む
”ああ、またか”とエリカは思う。
”ダニエルは勝って当たり前”と思う人々。
エリカが気に入らずにマウントを取ってくる人々。
(この緑の髪の女性、侯爵家の令嬢よね。ダニエルがどうこうより、平凡で、爵位も下の私が王子の婚約者なのが気に食わないんだわ。でもダニエルのことを言われて黙っているほど、私はお人よしじゃないの)
「ダニエル様は努力しています」
エリカは背筋を伸ばし、緑の髪の女性を見据えて言う。
「ダニエル様はわたくしが”休んで”と言っても聞きません。皆の期待に応えるために、日々努力をしているのです。それともあなたはこの大会を、努力をしなくても簡単に優勝できるような類のものだとお考えなのですか?」
「あっ、いえ……」
大人しそうなエリカが言い返してくるとは、思っていなかった令嬢は口ごもる。
「あなたの剣士様も、上位にいらっしゃるのよね? その剣士様も努力をしないで勝ち進んでいらしたのかしら? 天才だから上手くやれるし、勝って当たり前だとでも?」
「か、彼はダニエル様と違って、普通の人だから…」
「ダニエルもその彼と同じです。優勝するために血の滲むような努力をして、今の地位に就いたのです。何も知らないあなたが、どうこう言う権利はありません」
言い切った後にエリカは、ふと本音を漏らす。
「寧ろ無理をし過ぎなくらいで、負けたっていいと思うのに……」
その呟きを聞いた緑髪の女性は、膝に置いた手をギュっと握り締めて黙り込んだ。
「次の試合が始まりましたよ」
金髪の女性が雰囲気を変えようと声をかけてくれた。
「実は彼、わたくしの婚約者ですの」
「………え、あなた大人しくしている場合じゃないでしょう! 応援しないと!」
「は、はい! 頑張ります!」
金髪の女性の婚約者は見事に勝ち、緑髪の女性の剣士は負けてしまった。
エリカは緑髪の女性の剣士が負けたことを、いい気味だとは思わない。
言うべきことは言ったし、闘技場にいる剣士が皆頑張っていることを知っているからだ。
ダニエルは順当に勝ち進み、準決勝まで駒を進めた。
「隣国のオズワルド様もお強いのですね。このままいけば、ダニエル様とオズワルド様の一騎打ちが拝めますよ」
そうなのだ。
オズワルド王子も参加しているのだ。
オズワルドが訪れた当初に組み込まれ、公式パンフレットに名前が載っているのもあり、取り消しができなかったのだ。
それも勝ち進んでいて、このままだとダニエルと決勝戦で当たる。エリカは心中穏やかでない。
ちなみに彼の女神は妹のルクレツィア王女だ。
「ルクレツィア王女って、本当に天使のようにお可愛らしい方ですね」
(うん、見かけだけわね)
ルクレツィアは新たなるターゲットを物色中のようで、周囲に愛嬌を振りまいていた。
ちなみに騎士団長のフォルカーと、副団長のラファエルは、強さが別格なので試合には参加しない。
「次は騎士団期待のモーガン様が相手ですわ。ダニエル様は苦戦するかもしれませんわね」
「そうね」
ダニエルの二歳年上の従兄で、騎士団に在籍しているモーガン。
脳筋のモーガンは、ダニエルに対して勝手にライバル心を燃やしている。
騎士でないダニエルに敵わない上に、彼が武闘大会で優勝するのが許せなくて何かと絡んでくるのだ。
子供の頃から優秀なダニエルとずっと比べられてきた辺りに、積年の恨みがあるのかもしれない。
今年のモーガンは剣の腕を上げたようで、エリカから見てもダニエルと遜色ない。
エリカは木の階段を下り、ダニエルのもとへ向かった。
ダニエルは今まで試合前に、勝利宣言をしてエリカに捧げてきたが、今回だけは違った。
エリカの頬に両の手のひらを当てて、優しく微笑みながら彼女を見下ろす。
「ダニエル……?」
「大会が終わったら、婚約を解消しよう」
”ダニエルは勝って当たり前”と思う人々。
エリカが気に入らずにマウントを取ってくる人々。
(この緑の髪の女性、侯爵家の令嬢よね。ダニエルがどうこうより、平凡で、爵位も下の私が王子の婚約者なのが気に食わないんだわ。でもダニエルのことを言われて黙っているほど、私はお人よしじゃないの)
「ダニエル様は努力しています」
エリカは背筋を伸ばし、緑の髪の女性を見据えて言う。
「ダニエル様はわたくしが”休んで”と言っても聞きません。皆の期待に応えるために、日々努力をしているのです。それともあなたはこの大会を、努力をしなくても簡単に優勝できるような類のものだとお考えなのですか?」
「あっ、いえ……」
大人しそうなエリカが言い返してくるとは、思っていなかった令嬢は口ごもる。
「あなたの剣士様も、上位にいらっしゃるのよね? その剣士様も努力をしないで勝ち進んでいらしたのかしら? 天才だから上手くやれるし、勝って当たり前だとでも?」
「か、彼はダニエル様と違って、普通の人だから…」
「ダニエルもその彼と同じです。優勝するために血の滲むような努力をして、今の地位に就いたのです。何も知らないあなたが、どうこう言う権利はありません」
言い切った後にエリカは、ふと本音を漏らす。
「寧ろ無理をし過ぎなくらいで、負けたっていいと思うのに……」
その呟きを聞いた緑髪の女性は、膝に置いた手をギュっと握り締めて黙り込んだ。
「次の試合が始まりましたよ」
金髪の女性が雰囲気を変えようと声をかけてくれた。
「実は彼、わたくしの婚約者ですの」
「………え、あなた大人しくしている場合じゃないでしょう! 応援しないと!」
「は、はい! 頑張ります!」
金髪の女性の婚約者は見事に勝ち、緑髪の女性の剣士は負けてしまった。
エリカは緑髪の女性の剣士が負けたことを、いい気味だとは思わない。
言うべきことは言ったし、闘技場にいる剣士が皆頑張っていることを知っているからだ。
ダニエルは順当に勝ち進み、準決勝まで駒を進めた。
「隣国のオズワルド様もお強いのですね。このままいけば、ダニエル様とオズワルド様の一騎打ちが拝めますよ」
そうなのだ。
オズワルド王子も参加しているのだ。
オズワルドが訪れた当初に組み込まれ、公式パンフレットに名前が載っているのもあり、取り消しができなかったのだ。
それも勝ち進んでいて、このままだとダニエルと決勝戦で当たる。エリカは心中穏やかでない。
ちなみに彼の女神は妹のルクレツィア王女だ。
「ルクレツィア王女って、本当に天使のようにお可愛らしい方ですね」
(うん、見かけだけわね)
ルクレツィアは新たなるターゲットを物色中のようで、周囲に愛嬌を振りまいていた。
ちなみに騎士団長のフォルカーと、副団長のラファエルは、強さが別格なので試合には参加しない。
「次は騎士団期待のモーガン様が相手ですわ。ダニエル様は苦戦するかもしれませんわね」
「そうね」
ダニエルの二歳年上の従兄で、騎士団に在籍しているモーガン。
脳筋のモーガンは、ダニエルに対して勝手にライバル心を燃やしている。
騎士でないダニエルに敵わない上に、彼が武闘大会で優勝するのが許せなくて何かと絡んでくるのだ。
子供の頃から優秀なダニエルとずっと比べられてきた辺りに、積年の恨みがあるのかもしれない。
今年のモーガンは剣の腕を上げたようで、エリカから見てもダニエルと遜色ない。
エリカは木の階段を下り、ダニエルのもとへ向かった。
ダニエルは今まで試合前に、勝利宣言をしてエリカに捧げてきたが、今回だけは違った。
エリカの頬に両の手のひらを当てて、優しく微笑みながら彼女を見下ろす。
「ダニエル……?」
「大会が終わったら、婚約を解消しよう」
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる