上 下
64 / 79

64 貴様が諦めれば済む話だ

しおりを挟む
「ダニエル」

 跪いていたオズワルドが立ち上がった隙に、エリカは掴まれた手を引き抜き、ダニエルのもとへ走った。

「エリザベス!」

 追おうとしたオズワルドの前に、ダニエルが立ちはだかる。 

「違う、オズワルド。彼女はエリザベスではなくエリカで、俺の婚約者だ」

「やはり、そうなのか……」

 苦し気に、顔を歪ませるオズワルド。

 エリカが辛そうに、オズワルドに向かって頭を下げた。

「本当に…申し訳ありませんでした……」

「なぜ名乗らないで、偽名を使ったんだ?」

「ダニエルがオズワルド様に会わせるのを嫌がっていた上に、オズワルド様がわたくしのことをそっくりさんと思い込んでいらっしゃったので、そのままにしておこうと思いました」

「………」

(女性と話して、あんなに楽しかったことは、かつてなかった……)

 俯くエリカを、オズワルドは食い入るように見つめる。

(エリザ……いや、エリカに会って初めて俺は自分の価値を見出し、自信を持つことができた。そうだ――)

 身体を強張らせていたオズワルドが、両手の拳を固く握った。

「認めない……」

 オズワルドの言葉にダニエルの目つきが鋭くなる。

「俺は認めない。やっと理想の女性に出会えたんだ」

「エリカはもう俺と婚約をしている」

「婚約なんて、いつでも解消できる!」

「オズワルド、本気で言っているのか? これはただの喧嘩で終わる話ではないんだぞ! 二国間の友好に亀裂が生じかねない!」

「貴様が諦めれば済むことだ!」

「頭がおかしくなったのか、お前!」

「ダニエル。お前が欲しがっていた銀鉱山、あれをくれてやる! だからエリカ嬢を俺に譲れ!」

「エリカは物ではない!」

 激しくなっていく言い争いに、エリカが堪らず声を上げる。

「オズワルド様。わたくしはダニエルの婚約者です。お気持ちにお応えする訳には参りません」

「君の気持ちはどうだ! ダニエルを愛しているのか!?」

「………」

 ”愛している”と答えたら、エリカルートが進み、オズワルドルートは消滅してしまうかもしれない。しかしここまでこじれてしまうと……

 エリカは一瞬ためらった後に、返事をした。

「はい、愛しております」

「……分かりました。ダニエルを愛しているのなら、私は身を引きます。残念ですが……とても……」

 いともあっさりと身を引かれ、エリカは戸惑いながらも胸をなでおろす。

「これをお返しします」

 オズワルドは仮面を取り出すと、エリカに向かって差し出した。

 受け取ろうとしたエリカの手を掴み、グイッと引き寄せる。

「――っ!?」

 屈強な身体に抱き締められ、耳元で囁かれた。

「なぜ返事を躊躇ためらったのですか?」 




酷く落ち込んでしまったのと、コ〇ナワクチン二回目の副反応で(微熱だが熱に弱い自分)一つしか上げれませんでした。申し訳ないですm(__)m
しおりを挟む

処理中です...