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34 くちづけ

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 エリカはゲームのダニエルが好きだった。

 常に民の幸せを考え、良き君主になれるよう、たゆまず努力するダニエル。

 女性である事が知れてしまったら、今の地位は剥奪され、投獄されてしまうだろう。

 にも拘らず自分のことは二の次で、民が平等に暮らせる国をと、意識を高く持って行動するダニエルが好きだった。
 
 あれこれ考えながらコシのある彼の髪を、細い指先で無意識のうちに梳いていた。

「…ん……」 

 身じろぎをしたダニエルに、ハッとしてエリカは手を引っ込める。

「やめないでくれ、気持ちがいい」

「髪を、結び直そうと思って……」

 膝の上で寝返りを打ち、ダニエルが仰向けになった。

 琥珀色の瞳にじっと見つめられて、エリカは目を逸らすことができなくなってしまう。

「結んでくれ」

 ダニエルの右腕がゆっくりと上がり、エリカの首の後ろを掴んだ。

「この体制では…結べませ……」

 少しずつ腕に力が入り、エリカは引き寄せられていく。

 ダニエルが首をもたげて、そっと……唇が重なった。

 エリカが嫌がっていないか確かめてから、顔を傾けてまたくちづける。

「ふぁ……」

 エリカの唇から微かに息が漏れて、ダニエルは再び確かめようと顔を離した。しかしそれがいけなかった。

 愛らしく上気した頬に、どこか焦点があっていない瞳。

 ふっくらとした艶やかな唇から目が離せないでいると、彼女の潤んだアメジストの瞳が瞬いた。

「ダニエル……?」

 心許こころもとなげに名前を呼び、小さな唇がうっすらと開く。

 呆気なく彼の理性の糸は切れた。

 素早く起き上がったダニエルに、エリカは背もたれに押し付けられる。

「っ!」

 エリカは我に返りダニエルの胸を押し返したが、鋼のように強い腕の前では、僅かな身動きもままならなかった。

「だ、だめっ……!」

 拒絶の言葉は唇で塞がれ、顔をそむけようとすると、後頭部をがっちりと掴まれた。

 侵入してきた舌をエリカが噛む。しかし思い切り噛む勇気が持てず、柔らかく噛んで終わってしまった。

 クスリとダニエルが笑みを漏らす。

「これは煽っているのか?」

「違う!」

 真っ赤になって否定するエリカ。

(だってダニエルが痛いの嫌だし、もし傷ついて血が出たりしたら……)

 ダニエルはまた唇を重ね、逃げ惑うエリカの舌を絡めとった。

「んっ、」

 舌を甘く吸われ、歯列を探るようになぞられる。エリカは官能的なキスに震え、きゅっとダニエルのシャツを指先で掴んだ。

「あ、……ゃぁ……」

「エリカ、もっと口を開けて……」

 深くくちづけようと、ダニエルが口でエリカの唇をこじ開けた。

 痛いほどに抱き締められ、エリカの細い身体はしなりダニエルと重なり合う。

「ダニエル様。休憩中に申し訳ありません。至急目を通して頂きたい書類があるのですが」
 
 ノックの後に、扉の向こうからヨハンの声がした。ダニエルの手が僅かに緩み、ハッとしたエリカが顔を離す。

 同時にある記憶が脳裏に流れ込んできた。

「あ、私…なんてこと……」

「エリカ?」

 狼狽えるエリカの頬にダニエルが触れようとする。

 エリカはその手を払いのけると、怯えた様子でダニエルを押し退けて駆けだした。

「エリカ!!」

 勢いよく扉を開けて飛び出すと、目の前にいたヨハンとぶつかり、書類が舞い上がる。

「うわっ、エリカ様!?」

 衛兵たちは駆けていくエリカを呆然と見送り、舞い上がった書類やヨハンの存在が、エリカを追うダニエルの行く手の邪魔をした。

「エリカ、待ってくれ!」

 ダニエルが叫んで後を追う。

「ダニエル様!」

 衛兵たちも、ダニエルと共にエリカの後を追い始めた。 

(どうしよう、どうしよう――)

 階段を駆け上がり廊下をひた走る。エリカは息を切らしながら、身を隠す場所がないかキョロキョロと見回した。
 
「エリカ!」 

 ダニエルの声はすぐそこまで迫っている。
 
(見つかってしまう。考える時間がほしいのに……!)
 
 エリカの背後のドアが開き、いきなり部屋の中に引きずり込まれた。

 驚いたエリカは手足をばたつかせ、悲鳴を上げようとする。
 
「いやっ……!」

「しぃ、静かに――」

 逞しい身体に背中から抱き込まれ、大きな手で口を覆われた。





すいません……昨日は疲れすぎてあげれませんでした………orz 
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