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52 月の光の下のダンスイベント……は……?

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「さぁ、エリカ嬢を紹介してくれるんだろう?」

 なぜか余裕の笑みを浮かべたダニエルが、傍にいるエリカに視線を移す。

「エリカ」

 ダニエルの言葉にエリカがスカートを摘んで、腰を折った。

「初めましてオズワルド王子殿下。バートレイ伯爵家の長女、エリカと申します」

「やっとお会いできた」

 身を屈めたオズワルドは、エリカの片手を取りキスをする。

「できれば仮面を取って頂き、私とファーストダンスを…」

「ちょっと待ってくれ。君たちが参加するから今回は趣向を凝らしたんだ」

「趣向?」

 ダニエルがパチンと指を鳴らすと、チョコレート色のドレスを着た女性たちが、ずらずら~っと現れた。

「何だこれ?」

「エリカの代わりを用意した。思う存分踊ってくれ。全員が貴族の子女だから、気に入った娘がいたら仲を取り持つぞ」

「まさかとは思うが……本人と躍らせない気か?」

「運が良ければ踊れる」

「”運がよければ”じゃねえよ! この中に紛れ込んだら分からないじゃないか!」

「俺なら分かる」

「自慢か!? 自慢なのか!?」

 エリカとルクレツィア王女も、唖然として女性達を見ている。

(壮観な眺めね……。ドレスが一緒なだけじゃなくて、背格好が同じだし、みんな雰囲気も似ている。……ん? 微妙に刺繍が私のと違う?) 

「さぁ、踊ろうエリカ」

「あ、はい」 

「おい、ちょっと待てよ!」

 オズワルド王子をチョコレート色のドレスを着た女性たちが取り囲む。

 ”もし王子とうまくいったら……!”と全員鼻息が荒い。

「ダニエルウゥゥウウウ!」 

 美しいメロディーが流れ始め、恨めしそうなオズワルドを尻目に滑るように踊り出した。

(月の光の下のダンスイベント……は……?)

「どうした?」

「いいのでしょうか? やり過ぎではないですか?」

「確かにな」

(あ、あっさり認めた) 

「オズワルドは昔から俺に突っかかったり、張り合ったりで、少々うんざりしてたんだ。ここで君を紹介したら、また張り合おうとしそうで」

「まさかとは思いますが、わたしの取り合いになるかもしれないと仰っているのですか?」

「そうだ」

「そんなことは絶体にあり得ません」

「分からないぞ。現にフォルカーは君の虜じゃないか」

「何でここにフォルカー様の話が!? それにあれは感謝の気持ちです」

「君は全く……」 

 ”無自覚にも程がある……”と呟きながら、エリカをくるっと回して、腕の中におさめた。

「君を奪われるような真似は、絶対にしない――ということだ」

 独占欲が滲み出た低い声音に、エリカの背筋はぞくっとした。

 ダニエルは二曲目も三曲目もエリカを独占する。

 踊るごとに周りのざわめきが、どんどん大きくなっていった。

「ねぇ、あのドレス」

「まあ……」

(さっきの侍女長と同じ反応……?)

 ダニエルがエリカをターンさせる。

「キャー!」と声が上がり、エリカは訳が分からない。

 どうやらエリカの髪の色を思わせるドレスと、ダニエルの髪を思わせる刺繍が、何か効果をもたらしているらしい。

(ターンするたびにキャーキャー騒ぐほどの、何があるというのかしら) 

 その答えはすぐに出た。

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