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32 スキンシップは殿下の前でだけはやめてくれ

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「お弁当の件は何で知っているのかしら?」

「それはエイブ(料理長)が食材を仕入れる時に、”お嬢様が殿下のために弁当を作るから、最高の物を用意してくれ”と業者に注文したのが外部に伝わったらしい」

「………そんなところから伝わるなんて」

 エリカはどっと疲れて溜息を吐く。

「一応エイブや使用人たちには、今後気を付けるように伝えた」

「エイブを怒ったりしてない?」

「エリカのために良い食材を注文しようとした料理長を、叱りつけるわけないじゃないか」

「お兄様、ありがとう」

 フィリップに近づいて、頬にチュッとキスをする。

 フィリップは頬を緩ませながらも、注意をした。

「どういたしまして。悪いがスキンシップは殿下の前でだけはやめてくれ。俺が殺されるから」

「兄妹だもの。平気よ」

「兄妹でもだ。お前に男性が近づくとすぐさま殺気を放つじゃないか」

「殺気だなんて……」

「じゃあ、殿下のお前への溺愛ぶりはどう説明する? 尋常じゃないぞ」

 そうなのだ――

 確かにダニエルの自分に対する友愛は強すぎるのだ。

 特に最近は”これ友愛ですか?”という行為が数多く見られる。

 ダニエルは忙しい身なので、会うのは昼休憩の時だけだ。

 時間がない中、帰りは必ず馬車まで送ってくれるのだが、エスコートする時の距離が非常に近い気がする。

 王宮でのエスコートは、男性が軽く曲げた肘に女性が手を添えて、程よい距離を保ちつつ歩く。

 しかしダニエルはエリカの腰に腕を回し、グッと引き寄せて非常に近い状態で歩く。

 親密感がこの上なく、愛おし気に見下ろされて……

 ぼんっとエリカの顔が赤くなり、フィリップはそれ見た事かという顔をした。

「今日もダニエル様のところに行くのか?」

「ええ、私が行かないと、昼食を抜いてしまうんですもの」

「仕事が忙しい上に、武闘大会も迫ってきたからな」

 武闘大会まであと一か月半。

 エリカが目を光らせていないと、ダニエルは昼の休憩時間を剣の鍛錬に費やしてしまうのだ。

「モーガンがいるから特にだろう」

「モーガン様が?」

 モーガンとはダニエルの従兄で、騎士団に在籍している。

 エリカはゲームの記憶を思い起こした。

 脳筋のモーガンは、ダニエルに対して勝手にライバル心を燃やしている。

 騎士でないダニエルに敵わない上に、彼が武闘大会で優勝するのが許せなくて、何かと絡んでくるのだ。 

「努力を怠らないから、ダニエル様は強いのに……」

「お嬢様。エイブが待ち兼ねておりますが」

 侍女が告げにきた。

「そうだ。一緒にダニエル様のお弁当を作る約束をしていたんだったわ」

「俺はもう仕事に行くから」

「行ってらっしゃい。お父様とお兄様の分も後で届けるわね」

「エリカの弁当は上手いからな……でもお前が自ら届けに来ないで、侍女に頼んでくれ。俺と父上のために」

「………」 

 エイブと一緒に弁当を作り、エリカは屈強な騎士達の護衛付きで城へ向かう。

 兄たちの弁当は言われた通り侍女に任せ、ダニエルと自分の分は、近衛の精鋭に運んでもらい執務室を訪れた。

  
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