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31 何だ、まだ気づいてないのか?
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それからエリカは城へ日参するようになった。
毎日お昼を食べに行くだけでは芸がないと、ある日お弁当を作って持って行く。
正直なところ、宮廷で出される料理はしつこい上に飽きる味なのだ。
エリカの弁当をダニエルは大変気に入り、今では毎日手作り弁当を持参している。
手間はかかるし大変だが、正解だったとエリカは思う。
現代の知識があるエリカは、栄養のバランスを考えて作ることができた。
やがてダニエルから頼まれて、夜用の軽食も作って持っていくようになる。彼の右手が薄い傷だけを残し、短期間で完治したのも、バランスの良い食事のお陰かもしれない。
「エリカ様がいらっしゃる日は、ダニエル様がきちんと昼食をとってくれるので助かります」
エリカが用事で行けない日は、ダニエルがランチ抜きで仕事をしたり、剣の鍛錬をしてしまうとヨハンがぼやいた。
”やはり毎日行かないと”とせっせと通ったところ、困ったことになった。
”殿下のためにお弁当を作って毎日城に通う、婚約者の鑑のようなエリカ嬢”と世間で評判になり、一段と注目を浴びてしまったのである。
これではダニエルが男性と結ばれて、婚約を解消する時が心配だ。
”ダニエル王子ったら女性だったのに、男性と偽ってエリカ嬢と婚約したんですって。世間の目を欺いてまで、王座に就きたかったのかしら?”とか、”エリカ嬢の心を踏みにじった人でなし!”とか、色々と叩かれそうで怖い。
「人目につかないように通っているのになぜかしら?」
「何だ、まだ気づいてないのか?」
朝の食卓でふと漏らしたところ、兄が新聞から顔を上げて呆れた様子でエリカを見た。
「お兄さま、何か知っているの?」
エリカは兄が手にしている新聞の一面にギョッとする。
速攻で奪い取り、顔を突っ込んで隅々まで目を通した。
”武闘大会優勝のため、ダニエル王子に愛のスタミナ弁当を差し入れるエリカ嬢!”
”ダニエル王子、エリカ嬢の愛情弁当で議席数の法案成立!”……って、原因はこれかい!
無理やり美談に持っていくのは、恥ずかしいからやめてほしい。法案成立と弁当も関係ないし。
ワナワナ震えるエリカに、フィリップが言う。
「お前、馬車に乗っている時、外を見てないだろう?」
「”窓を閉めて、顔を出さないように”と言われてるの」
「殿下にか。まぁ、正解だな。顔を出したら記者の質問攻めにあっているところだ。外を見てないから分からないだろうけど、門の前で記者たちが張ってるぞ」
「えっ、城門の?」
「城門もそうだけど、うちの門前でもだ。もう気づいてるかと思った」
「知らないわ! 何で誰も教えてくれなかったの?」
「お前に教えたら、”私のせいで皆に迷惑がかかる。やっぱり婚約を解消するわ”とか言い出しそうだから、誰も言わなかったんじゃないか?」
確かに婚約に乗り気じゃなかった自分が言い出しそうなセリフだ。
「兄さんもそれで言わなかったの?」
「俺はもう知ってるだろうと思っていたから、敢えて口にしなかった」
「庶民が乗っていそうな地味な馬車をダニエル様が用意して下さったのに、私が乗っているってなぜ分かったのかしら?」
「近衛の精鋭が護衛に張り付いている馬車なんて地味でも……いや、却って地味な馬車に近衛の精鋭が張り付いていたから目立ったんじゃないか?」
「……………確かに」
毎日お昼を食べに行くだけでは芸がないと、ある日お弁当を作って持って行く。
正直なところ、宮廷で出される料理はしつこい上に飽きる味なのだ。
エリカの弁当をダニエルは大変気に入り、今では毎日手作り弁当を持参している。
手間はかかるし大変だが、正解だったとエリカは思う。
現代の知識があるエリカは、栄養のバランスを考えて作ることができた。
やがてダニエルから頼まれて、夜用の軽食も作って持っていくようになる。彼の右手が薄い傷だけを残し、短期間で完治したのも、バランスの良い食事のお陰かもしれない。
「エリカ様がいらっしゃる日は、ダニエル様がきちんと昼食をとってくれるので助かります」
エリカが用事で行けない日は、ダニエルがランチ抜きで仕事をしたり、剣の鍛錬をしてしまうとヨハンがぼやいた。
”やはり毎日行かないと”とせっせと通ったところ、困ったことになった。
”殿下のためにお弁当を作って毎日城に通う、婚約者の鑑のようなエリカ嬢”と世間で評判になり、一段と注目を浴びてしまったのである。
これではダニエルが男性と結ばれて、婚約を解消する時が心配だ。
”ダニエル王子ったら女性だったのに、男性と偽ってエリカ嬢と婚約したんですって。世間の目を欺いてまで、王座に就きたかったのかしら?”とか、”エリカ嬢の心を踏みにじった人でなし!”とか、色々と叩かれそうで怖い。
「人目につかないように通っているのになぜかしら?」
「何だ、まだ気づいてないのか?」
朝の食卓でふと漏らしたところ、兄が新聞から顔を上げて呆れた様子でエリカを見た。
「お兄さま、何か知っているの?」
エリカは兄が手にしている新聞の一面にギョッとする。
速攻で奪い取り、顔を突っ込んで隅々まで目を通した。
”武闘大会優勝のため、ダニエル王子に愛のスタミナ弁当を差し入れるエリカ嬢!”
”ダニエル王子、エリカ嬢の愛情弁当で議席数の法案成立!”……って、原因はこれかい!
無理やり美談に持っていくのは、恥ずかしいからやめてほしい。法案成立と弁当も関係ないし。
ワナワナ震えるエリカに、フィリップが言う。
「お前、馬車に乗っている時、外を見てないだろう?」
「”窓を閉めて、顔を出さないように”と言われてるの」
「殿下にか。まぁ、正解だな。顔を出したら記者の質問攻めにあっているところだ。外を見てないから分からないだろうけど、門の前で記者たちが張ってるぞ」
「えっ、城門の?」
「城門もそうだけど、うちの門前でもだ。もう気づいてるかと思った」
「知らないわ! 何で誰も教えてくれなかったの?」
「お前に教えたら、”私のせいで皆に迷惑がかかる。やっぱり婚約を解消するわ”とか言い出しそうだから、誰も言わなかったんじゃないか?」
確かに婚約に乗り気じゃなかった自分が言い出しそうなセリフだ。
「兄さんもそれで言わなかったの?」
「俺はもう知ってるだろうと思っていたから、敢えて口にしなかった」
「庶民が乗っていそうな地味な馬車をダニエル様が用意して下さったのに、私が乗っているってなぜ分かったのかしら?」
「近衛の精鋭が護衛に張り付いている馬車なんて地味でも……いや、却って地味な馬車に近衛の精鋭が張り付いていたから目立ったんじゃないか?」
「……………確かに」
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