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「うん……?」
意識を取り戻したエリカの目に映ったものは、天蓋に描かれた美しいエリカの花々であった。
彼女は大きなベッドに寝かされていて、父親であるスコット・バートレイ伯爵が、エリカの顔を心配そうに覗き込んでいる。
「目が……覚めたか?」
ゲーム世界に転生してしまったのは、どうやら夢ではなかったらしい。
「すぐに宮廷侍医を呼ぶから、そのまま寝ていなさい」
スコットは椅子から立ち上がり、足早に部屋から出て行くと、侍医を連れて戻ってきた。
「身体は何ともありませんが、精神的ショックが大きかったようですね。暫くはこのまま寝かせて安静にするのが一番かと」
「分かりました」
頷いて礼を言うスコットに、侍医がチラリとエリカを見てから囁く。
「ダニエル様には私からお伝えしておきます」
「………よろしくお願いいたします」
侍医が出ていったあと、父はベッドの脇に立ち、後悔に満ちた目でエリカを見下ろした。
「悪かった。気絶するほど嫌だったとは……」
傍らの椅子に腰掛けてうなだれる。
***
今から半年前、エリカとダニエル王子の間に婚姻話が持ち上がった。
引っ込み思案で大人しい性格であったエリカは、父親に頼み込んだ。
”自分には荷が重いので丁重にお断りして下さい”と。
てっきりそれで終わったと思っていたのだが、婚姻話はまだ消えていなかったようで、エリカには知らされずに城に呼びつけられて――というのがこれまでの流れである。
正にゲームのシナリオと同じだ。
そう、ここは乙女ゲーム”男装王女の婚約の秘密”の世界。
ダニエル・フォン・コンラートは、コンラート王国の王子である。
長く濃いブロンドの髪を一つに纏めて背中に流し、琥珀色をした切れ長の瞳に、顔立ちも端正な美丈夫だ。
しかしこの王子、本当は女性なのであった。
表向きの正式な名前はダニエル。
王妃が密かにつけた女性名はダニエラ。
ダニエラが性別を偽り、王子として生活しているのには訳がある。
かつて国王に見初められた王妃は、強く望まれて小国から嫁いだ。
貧しかった小国は王妃を嫁がせた見返りに資金援助を受け、それは今でも続いている。
しかし、国王と王妃の間に生まれてくる子供は女児ばかりで、跡継ぎとなる王子が生まれなかった。
”側妃を”という声も上がったが、王妃を心から愛している国王は、頑として受け入れなかった。
世継ぎが産めない王妃と陰口を叩かれ、”これで駄目なら側妃を迎えて、資金援助も停止させて頂きます”と釘を刺されての出産。
今までにない逞しく大きな産声に、廊下で待っていた国王や家臣たちは狂喜した。
”これはきっと男児に違いない!”
しかし生まれてきたのは………。
廊下から響いてくる喜びの声に、王妃は決意する。
部屋にいる産婆や侍女たちを一同に集めて、”女児ではなく男児が生まれたと発表します”と告げた。
王妃を慕う者たちは即座に了承し、その日からダニエラはダニエルとして育つことになる。
意識を取り戻したエリカの目に映ったものは、天蓋に描かれた美しいエリカの花々であった。
彼女は大きなベッドに寝かされていて、父親であるスコット・バートレイ伯爵が、エリカの顔を心配そうに覗き込んでいる。
「目が……覚めたか?」
ゲーム世界に転生してしまったのは、どうやら夢ではなかったらしい。
「すぐに宮廷侍医を呼ぶから、そのまま寝ていなさい」
スコットは椅子から立ち上がり、足早に部屋から出て行くと、侍医を連れて戻ってきた。
「身体は何ともありませんが、精神的ショックが大きかったようですね。暫くはこのまま寝かせて安静にするのが一番かと」
「分かりました」
頷いて礼を言うスコットに、侍医がチラリとエリカを見てから囁く。
「ダニエル様には私からお伝えしておきます」
「………よろしくお願いいたします」
侍医が出ていったあと、父はベッドの脇に立ち、後悔に満ちた目でエリカを見下ろした。
「悪かった。気絶するほど嫌だったとは……」
傍らの椅子に腰掛けてうなだれる。
***
今から半年前、エリカとダニエル王子の間に婚姻話が持ち上がった。
引っ込み思案で大人しい性格であったエリカは、父親に頼み込んだ。
”自分には荷が重いので丁重にお断りして下さい”と。
てっきりそれで終わったと思っていたのだが、婚姻話はまだ消えていなかったようで、エリカには知らされずに城に呼びつけられて――というのがこれまでの流れである。
正にゲームのシナリオと同じだ。
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ダニエル・フォン・コンラートは、コンラート王国の王子である。
長く濃いブロンドの髪を一つに纏めて背中に流し、琥珀色をした切れ長の瞳に、顔立ちも端正な美丈夫だ。
しかしこの王子、本当は女性なのであった。
表向きの正式な名前はダニエル。
王妃が密かにつけた女性名はダニエラ。
ダニエラが性別を偽り、王子として生活しているのには訳がある。
かつて国王に見初められた王妃は、強く望まれて小国から嫁いだ。
貧しかった小国は王妃を嫁がせた見返りに資金援助を受け、それは今でも続いている。
しかし、国王と王妃の間に生まれてくる子供は女児ばかりで、跡継ぎとなる王子が生まれなかった。
”側妃を”という声も上がったが、王妃を心から愛している国王は、頑として受け入れなかった。
世継ぎが産めない王妃と陰口を叩かれ、”これで駄目なら側妃を迎えて、資金援助も停止させて頂きます”と釘を刺されての出産。
今までにない逞しく大きな産声に、廊下で待っていた国王や家臣たちは狂喜した。
”これはきっと男児に違いない!”
しかし生まれてきたのは………。
廊下から響いてくる喜びの声に、王妃は決意する。
部屋にいる産婆や侍女たちを一同に集めて、”女児ではなく男児が生まれたと発表します”と告げた。
王妃を慕う者たちは即座に了承し、その日からダニエラはダニエルとして育つことになる。
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