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第二章
22話 銀髪の騎士
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「ヘルマンどうしたボーっとして!」
「先輩――いえ、何でもありません……」
「俺は分かるぞ――クリス様だろう!」
「…………」
「こいつ、図星だな!」
「美しかったよな~、こうすらっとしてて`掃き溜めに鶴 ‘ って、このことだって思ったよ」
「俺達`掃き溜め ‘ かよ!」
「それに、ヘルマンを庇ったあの女っぷり! アレクサンダー様に逆らったんだぜ、俺達なんて目を合わすのさえ恐ろしい`泣く子も黙るクロノスのアレクサンダー ‘ に」
「ダリウス様以外で意見したのって、クリス様が初めてじゃね?」
「そうそう! それにアレクサンダー様が折れたところも、初めて見たよ」
「今までの女性がそんなことしたら、すぐにお払い箱だろうに」
「今までの女性だったら、庇ったりしないさ」
「それにあの熱愛ぶり。俺達牽制されてたよな? しなくていいのに。怖くて絶対に手を出さないって」
「ヘルマン、お前色男だしクリス様に気に入られたみたいだから気をつけろよ。クビならまだいいけど、下手したらその場で切り捨てられるぞ」
「大丈夫です……俺が誰かに似てただけですから」
「誰にだよ?」
「それは分かりませんけど」
ヘルマンは溜息をついた。先程からあの銀灰色の瞳が目の前にちらついて離れない。縋るような表情に零れ落ちる涙――庇護欲をかきたてられ、腕の中に抱き留めた時のあのたおやかな感触も忘れられない。
先輩騎士達はヘルマンの様子を見て心配げに目配せをした。
「おら、飲みに行くぞ! お前も付き合え!」
「え……? いや、俺いいっすよ、ちょっ――!」
「今日は皆で繰り出すぞ!」
無理矢理首根っこを掴まれて連行されるように連れて行かれた。ヘルマンの物思いは一旦そこで途切れることになる。
アクエリオスにあるホテルのダイニングルームからあまりこの場に相応しくない、がたいのいいむさい男達が姿を現した。
「お頭、このホテル最高っすね」
「おう、アーネスト殿が用意してくれたんだ。費用も全部あっち持ちだぜ」
「スゲー!! 太っ腹!」
「一眠りして昼食も済んだことだし、金もたんまりある・・・公娼(公に営業を許された娼婦)でも買いたいところだが、こんな昼間だとまだ路地に立っていないだろうしなあ」
その時ばらばらと数名の騎士や兵士に周りを取り囲まれた。
「エンリケとその配下の者達だな!」
「そうだが……」
「ここだ! 見つけたぞ――!! 捕えろ!!」
「わーーー!! 一体何事だ!?」
エンリケ達は捕獲され、縄をぐるぐると掛けられて港まで連行された。桟橋では昨日と同じ場所に船が繋がれ、その前に若い長身の二人の男と、アーネストが立っていた。
縄を掛けられたまま、その前に引き出される。
「お前がエンリケか?」
「じじぃーーー!! お前の仕業か!?」
「そうですグリフィス様、この男がエンリケです。エンリケ、グリフィス様の質問にきちんとお答えしろ! この方はアクエリオスの第二王子だぞ」
「え……? やべ、はい、俺がエンリケです」
「お前、二日半でクロノスからこのアクエリオスまで辿り着いたそうだな」
「はい、もう死ぬ思いで辿り着きました」
「二日でメルセナリオまで頼む。料金は倍払おう」
グリフィスが合図をすると金貨の詰まった袋が2袋、目の前に並べられた。エンリケがごくりと喉を鳴らす。
「お頭~」
「分かってる。任せろ!」
エンリケはグリフィスへ向き直ると、きっと睨むように視線を合わせた。
「俺達は死ぬ思いでやっと辿り着いたんだ。もう金では動かねぇ!」
「メルセナリオはこちらから行くとクロノスの一つ手前だし、川も流れが下りになる。二日なんて楽なもんだろう?」
「今回は奇跡的にいい風が吹いたから二日半で着いたんだ! しかしまた吹くとは限らないし運もある」
「この川の航行の権利を終生お前に与えよう。全ての港の使用料も、無料とする」
「引き受けた」
「お頭ーーー!!」
結局は手下の者達も条件も金もいいので、すぐに説得をされてしまい、早速出航の準備に取り掛かった。
「しかし、このメンバーだけで大丈夫ですか? 先触れも出していないし……まあ、出してもこちらがそれよりも先に着いてしまうわけですが」
「一国の王というよりは、ビジネスに重きを置いている人物だし、大丈夫だろう。我が国の大型帆船を航行させるに当たって、メルセナリオの港の改築や使用料について、交渉をした時にそう感じた」
「まあ、グリフィス様がそう仰るのなら大丈夫なのでしょうが……」
「それに相手に知らせずいきなりの方が交渉ごとは有利に運ぶものだ。優秀な騎士も二人連れていく。メルセナリオの港でも、警備をしているアクエリオスの兵士がいるし合わせたらどうにかなるさ」
「豪胆ですな」
「出航するぞ~~~!!」
エンリケの声と共に船に乗り込みメルセナリオを目指す。交渉のテーブルで有利に事を運べるように、提示する条件を整理するグリフィスであった。
ジェラルドのお昼寝の時間、クリスはせがまれて絵本を読み、彼が気持ち良さそうに瞼を閉じたところで、部屋をこっそりと抜け出した。エリーゼには、一緒に昼寝をするから邪魔をしないようにと伝えてあるし、ジェラルドが起きるまでに帰ってくれば問題はない。
クリスは昨日の兵士にまた会ってみたかった。
(彼を見たら何かを思い出せるかもしれない……いえ、思い出したい……!)
ジェラルドと昨日城内を散策して、人が通らない通路などは大体把握している。壁に身を寄せながら、曲がり角では先を窺ってからと慎重に進み、庭に出て城壁へと上がる薄暗い階段口まで辿り着くことができた。
上まで上がってしまったら、昨日のようにアレクサンダーに見つかってしまう。執務室から城壁は見渡せてしまうのだ。`さて、どうしたものかしら ‘ と考え込んでいると、交替の二人の騎士が下りて来た。
「貴方達、昨日の銀髪の騎士をここに呼んで来てもらいたいのだけど」
「え……わっ、クリス様! どうしてこんなところに……!?」
2人のうちの1人が冷静に受け答えをする。
「それはもしかしてヘルマンの事ですか? 昨日クリス様が解雇からお救いになった男ですよね?」」
「あの騎士はヘルマンというのね……ええ、そうよ」
その騎士は考えた。
昨日の様子からクリス様はヘルマンを気に入られたようだ。行く行くは愛人にされる気かもしれない――そんな事をしたら、あいつは陛下に殺されてしまう、どうにか手を打たなければ……そうだ! ヘルマンを妻帯者にしてしまえば……!
へルマンを庇ったあの態度。人格者であるようだし、妻のいる男に手を出すような真似はしない筈だ。
「え~と、実はヘルマンは妻帯者で、とても可愛い奥さんがいるんです」
クリスは首を傾げる。呼んできてと言ったのに、何で今その話しになるのだろう? でも、妻帯者なら都合がいい。
「丁度良かったわ。奥様がいるのなら、私が声を掛けてもあらぬ誤解をしないわよね?」
「へ……」
「時間がないの、急いで呼んで来て!」
「あ、はい! 分かりました!」
何か考えに行き違いがあったようだ……と考えても後の祭り――
その先輩騎士は、急いでヘルマンを呼びに階段を上った。するとすぐに階段を駆け下りてくる靴音が響いてきた。一緒に待っていた騎士と顔を見合わせると、ヘルマンがあっという間に目の前に現れた。
「クリス様……!」
相好を崩したその顔は、どう見ても恋人を待ち侘びたそれだ。
クリスが`あれ、何か変 ‘ とまた首を傾げるとヘルマンが跪いて右手を取り、その手の甲に恭しくくちづけた。
「先輩――いえ、何でもありません……」
「俺は分かるぞ――クリス様だろう!」
「…………」
「こいつ、図星だな!」
「美しかったよな~、こうすらっとしてて`掃き溜めに鶴 ‘ って、このことだって思ったよ」
「俺達`掃き溜め ‘ かよ!」
「それに、ヘルマンを庇ったあの女っぷり! アレクサンダー様に逆らったんだぜ、俺達なんて目を合わすのさえ恐ろしい`泣く子も黙るクロノスのアレクサンダー ‘ に」
「ダリウス様以外で意見したのって、クリス様が初めてじゃね?」
「そうそう! それにアレクサンダー様が折れたところも、初めて見たよ」
「今までの女性がそんなことしたら、すぐにお払い箱だろうに」
「今までの女性だったら、庇ったりしないさ」
「それにあの熱愛ぶり。俺達牽制されてたよな? しなくていいのに。怖くて絶対に手を出さないって」
「ヘルマン、お前色男だしクリス様に気に入られたみたいだから気をつけろよ。クビならまだいいけど、下手したらその場で切り捨てられるぞ」
「大丈夫です……俺が誰かに似てただけですから」
「誰にだよ?」
「それは分かりませんけど」
ヘルマンは溜息をついた。先程からあの銀灰色の瞳が目の前にちらついて離れない。縋るような表情に零れ落ちる涙――庇護欲をかきたてられ、腕の中に抱き留めた時のあのたおやかな感触も忘れられない。
先輩騎士達はヘルマンの様子を見て心配げに目配せをした。
「おら、飲みに行くぞ! お前も付き合え!」
「え……? いや、俺いいっすよ、ちょっ――!」
「今日は皆で繰り出すぞ!」
無理矢理首根っこを掴まれて連行されるように連れて行かれた。ヘルマンの物思いは一旦そこで途切れることになる。
アクエリオスにあるホテルのダイニングルームからあまりこの場に相応しくない、がたいのいいむさい男達が姿を現した。
「お頭、このホテル最高っすね」
「おう、アーネスト殿が用意してくれたんだ。費用も全部あっち持ちだぜ」
「スゲー!! 太っ腹!」
「一眠りして昼食も済んだことだし、金もたんまりある・・・公娼(公に営業を許された娼婦)でも買いたいところだが、こんな昼間だとまだ路地に立っていないだろうしなあ」
その時ばらばらと数名の騎士や兵士に周りを取り囲まれた。
「エンリケとその配下の者達だな!」
「そうだが……」
「ここだ! 見つけたぞ――!! 捕えろ!!」
「わーーー!! 一体何事だ!?」
エンリケ達は捕獲され、縄をぐるぐると掛けられて港まで連行された。桟橋では昨日と同じ場所に船が繋がれ、その前に若い長身の二人の男と、アーネストが立っていた。
縄を掛けられたまま、その前に引き出される。
「お前がエンリケか?」
「じじぃーーー!! お前の仕業か!?」
「そうですグリフィス様、この男がエンリケです。エンリケ、グリフィス様の質問にきちんとお答えしろ! この方はアクエリオスの第二王子だぞ」
「え……? やべ、はい、俺がエンリケです」
「お前、二日半でクロノスからこのアクエリオスまで辿り着いたそうだな」
「はい、もう死ぬ思いで辿り着きました」
「二日でメルセナリオまで頼む。料金は倍払おう」
グリフィスが合図をすると金貨の詰まった袋が2袋、目の前に並べられた。エンリケがごくりと喉を鳴らす。
「お頭~」
「分かってる。任せろ!」
エンリケはグリフィスへ向き直ると、きっと睨むように視線を合わせた。
「俺達は死ぬ思いでやっと辿り着いたんだ。もう金では動かねぇ!」
「メルセナリオはこちらから行くとクロノスの一つ手前だし、川も流れが下りになる。二日なんて楽なもんだろう?」
「今回は奇跡的にいい風が吹いたから二日半で着いたんだ! しかしまた吹くとは限らないし運もある」
「この川の航行の権利を終生お前に与えよう。全ての港の使用料も、無料とする」
「引き受けた」
「お頭ーーー!!」
結局は手下の者達も条件も金もいいので、すぐに説得をされてしまい、早速出航の準備に取り掛かった。
「しかし、このメンバーだけで大丈夫ですか? 先触れも出していないし……まあ、出してもこちらがそれよりも先に着いてしまうわけですが」
「一国の王というよりは、ビジネスに重きを置いている人物だし、大丈夫だろう。我が国の大型帆船を航行させるに当たって、メルセナリオの港の改築や使用料について、交渉をした時にそう感じた」
「まあ、グリフィス様がそう仰るのなら大丈夫なのでしょうが……」
「それに相手に知らせずいきなりの方が交渉ごとは有利に運ぶものだ。優秀な騎士も二人連れていく。メルセナリオの港でも、警備をしているアクエリオスの兵士がいるし合わせたらどうにかなるさ」
「豪胆ですな」
「出航するぞ~~~!!」
エンリケの声と共に船に乗り込みメルセナリオを目指す。交渉のテーブルで有利に事を運べるように、提示する条件を整理するグリフィスであった。
ジェラルドのお昼寝の時間、クリスはせがまれて絵本を読み、彼が気持ち良さそうに瞼を閉じたところで、部屋をこっそりと抜け出した。エリーゼには、一緒に昼寝をするから邪魔をしないようにと伝えてあるし、ジェラルドが起きるまでに帰ってくれば問題はない。
クリスは昨日の兵士にまた会ってみたかった。
(彼を見たら何かを思い出せるかもしれない……いえ、思い出したい……!)
ジェラルドと昨日城内を散策して、人が通らない通路などは大体把握している。壁に身を寄せながら、曲がり角では先を窺ってからと慎重に進み、庭に出て城壁へと上がる薄暗い階段口まで辿り着くことができた。
上まで上がってしまったら、昨日のようにアレクサンダーに見つかってしまう。執務室から城壁は見渡せてしまうのだ。`さて、どうしたものかしら ‘ と考え込んでいると、交替の二人の騎士が下りて来た。
「貴方達、昨日の銀髪の騎士をここに呼んで来てもらいたいのだけど」
「え……わっ、クリス様! どうしてこんなところに……!?」
2人のうちの1人が冷静に受け答えをする。
「それはもしかしてヘルマンの事ですか? 昨日クリス様が解雇からお救いになった男ですよね?」」
「あの騎士はヘルマンというのね……ええ、そうよ」
その騎士は考えた。
昨日の様子からクリス様はヘルマンを気に入られたようだ。行く行くは愛人にされる気かもしれない――そんな事をしたら、あいつは陛下に殺されてしまう、どうにか手を打たなければ……そうだ! ヘルマンを妻帯者にしてしまえば……!
へルマンを庇ったあの態度。人格者であるようだし、妻のいる男に手を出すような真似はしない筈だ。
「え~と、実はヘルマンは妻帯者で、とても可愛い奥さんがいるんです」
クリスは首を傾げる。呼んできてと言ったのに、何で今その話しになるのだろう? でも、妻帯者なら都合がいい。
「丁度良かったわ。奥様がいるのなら、私が声を掛けてもあらぬ誤解をしないわよね?」
「へ……」
「時間がないの、急いで呼んで来て!」
「あ、はい! 分かりました!」
何か考えに行き違いがあったようだ……と考えても後の祭り――
その先輩騎士は、急いでヘルマンを呼びに階段を上った。するとすぐに階段を駆け下りてくる靴音が響いてきた。一緒に待っていた騎士と顔を見合わせると、ヘルマンがあっという間に目の前に現れた。
「クリス様……!」
相好を崩したその顔は、どう見ても恋人を待ち侘びたそれだ。
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