45 / 94
第二章
20話 秘密兵器
しおりを挟む
クリスは愛想よく微笑んだが、内心穏やかではなかった。この男、アレクサンダーには彼に対して恐れを抱いている事を、知られてはいけない気がする。
ジェラルドの存在は本当に助かる。可愛い上に癒されて、その上自分を守ってもくれるのだ。
利用しているようで申し訳ない気持ちにはなるが、暫くはアレクサンダーへの盾となって貰おう。
「じじい~本当に二日で着きやがった~~~」
グロッキー状態の帆船の持ち主エンリケに、アーネストが間違いを正す。
「いや、正しくは二日半だがな――」
「それだって凄いわ!!」
そう、アーネストは上手に飴(袋一杯の金貨)と鞭(殺気と短刀を首筋に突きつけ)を使い分け、見事二日半後の明け方に、アクエリオス港に入港をした。
「いや、お前さん方の船を操る腕がなかったら、この偉業は成し得なかった」
「まあ、確かにそれもあるけどよ、じいさんが手綱を取っていたからこそだ。とてもじいさんとは思えないぜ」
「だから俺はまだ男盛りの46歳! 名前はアーネストと言っているだろうが!!」
「ところで、どこに係留すればいいんだ?」
「お前、人の話を聞いとらんな……一番近い所でいい。話をつけるから」
「大丈夫かよ」
疑い深い目をしたエンリケを尻目に、最初は`もっと端に停めろ ‘ と合図をしていた係留係が、アーネストに目を留めた。
「アーネスト殿!! どうなさったのですか!?」
アーデル川での輸送業や港の運営は王家が担っているので、アーネストがどういった人物であるのかは知られている。
「火急の事態だ!! 至急グリフィス様にお会いしたい!」
「かしこまりました!! 許可しますので、どうぞそこにお停め下さい!」
「え……ここって、大型船用の係留場所じゃねえの?」
「我々が責任を持って、この場所に順ずる相応しい場所に移動させて頂きます! 今はお急ぎでしょうから、そこへお停め下さい!」
「相応しい場所って……じーさん何者だ……?」
エンリケに言われて、アーネストがにやりと笑う。
彼らと船員達は係留作業の後に下船をした。
「アーネスト殿、馬車を用意致しました」
「急ぐから馬に替えてくれ!」
「じじい、凄すぎ――って、疲れてないのかよ……?」
アーネストは金貨が一杯詰まった袋をエンリケに手渡した。
「お陰で助かったよ。お前たちは今日、これからどうするんだ?」
「疲れたから、ホテルでも取って一休みするよ」
「そうか。また機会があったら頼む」
「いや、もう御免こうむりたい」
アーネストは、係留係に何事かを知らせると、新たに用意をされた馬に飛び乗って城を目指した。
「じーさんの面を被った化け物か……」
城門の警護をしていた兵士達は目を剥いた。一週間前に出発をしたアーネストがもう帰ってきたからだ。係留係が気を利かして先触れを出していたが、その先触れと殆ど同時に到着をした。
まだ朝も早いせいで、城も動き出していない。
先触れを任されていた者は城で働いた経験もあった為、勝手知ったる城の中、疲れを見せるアーネストを応接室で待たせると、直ぐにグリフィスの部屋へと走った。
叩くようにノックをして、起きてきたグリフィスにアーネストが応接室で待っている旨を告げる。
すると今度はグリフィスに、クリスの従兄で今では自分の右腕であるデイヴィッドを、起こして応接室に連れてくるよう命じられた。彼はまたすぐに走り出す。
グリフィスは驚くほどに早く、白いシャツに黒いズボンを身に着けた姿で応接室に現れた。髪は寝乱れたままで、急いで駆けつけた様子が伺える。
立ち上がろうとするアーネストを右手で制して、自分も向い側のソファに荒く腰を下ろす。
「それで、一体何があった――?」
「クリス様が攫われました」
瞬間、身体を強張らせ、瞳も心痛の色を宿したが`今は自制を保たなければ ‘ と瞼を閉じて深く深呼吸をした。続いてデイヴィッドが紙とペンを持って現れ、グリフィスの隣に腰をかける。
「話を聞こう」
アーネストが要領良く説明をしていき、要点をデイヴィッドが書き止めていく。時々グリフィスも大事なところでメモを取った。
「クロノスのアレクサンダーか……噂は聞いている。彼は俺と似たタイプだ」
「そうですね。頭の回転が速く、策士であり、大胆不敵さも併せ持ちます。先程も言いました通り、優秀な騎士三人に後を追わせているので、詳しい情報を手にするでしょう」
「アレクサンダーが強引に既成事実を迫らないか心配だ」
「そのお気持ちは分かります。しかしアレクサンダーはクリス様のお心も欲しているようなので、そうそう手出しはしないかと思われます。無理矢理キスをされた時も泣いて嫌がっておりましたし、嫌われるようなことは極力避けるかと……」
「なんだと?」
グリフィスの不穏な声に、アーネストは自分が口を滑らせた事に気付いた。普段だったらしないであろう失態に、自分が相当疲れている事を自覚する。
彼がペンを持ったままグググと拳を握り締めた。
「グリフィス、待て!! そのペンは高いんだ、折るなよ!」
ボキッと鈍い音が響くと共に、怒りを押し殺した声で尋ねる。『ブラーマーのペンがあ――!』と叫んでいるデイヴィッドは無視であった。
「無理矢理キスを……?」
「はい」
ただでさえ、クリスを奪われて怒り心頭のグリフィスに、油を注いでしまう結果となり後悔をしたが、口から出てしまったものはもう仕様がない。
「……という訳で、最後には殴って逃げ出してきたようです。酒を相手にぶちまけて瓶を投げつけたとも言っていらっしゃいました」
クリスらしい……と、グリフィスの口角が一瞬上がった。
「ただ、グリフィス様以外の男性に唇を奪われたのは、相当ショックだったようです」
「クリスは直ぐに取り返す――」
「何か手だてはありますか?」
「まだ漠然としているが、すぐに考えを形にするつもりだ」
「分かりました。然らば仮眠を取らせて頂いてもよろしいでしょうか? この3日殆ど寝ていないのです」
「ああ、前と同じ部屋を使ってくれ。それにしても、こんなに早くよく戻ってこれたな」
「それについては秘密兵器が……」
「秘密兵器?」
アーネストから話を聞いて、早速グリフィスは指示を出した。
ジェラルドの存在は本当に助かる。可愛い上に癒されて、その上自分を守ってもくれるのだ。
利用しているようで申し訳ない気持ちにはなるが、暫くはアレクサンダーへの盾となって貰おう。
「じじい~本当に二日で着きやがった~~~」
グロッキー状態の帆船の持ち主エンリケに、アーネストが間違いを正す。
「いや、正しくは二日半だがな――」
「それだって凄いわ!!」
そう、アーネストは上手に飴(袋一杯の金貨)と鞭(殺気と短刀を首筋に突きつけ)を使い分け、見事二日半後の明け方に、アクエリオス港に入港をした。
「いや、お前さん方の船を操る腕がなかったら、この偉業は成し得なかった」
「まあ、確かにそれもあるけどよ、じいさんが手綱を取っていたからこそだ。とてもじいさんとは思えないぜ」
「だから俺はまだ男盛りの46歳! 名前はアーネストと言っているだろうが!!」
「ところで、どこに係留すればいいんだ?」
「お前、人の話を聞いとらんな……一番近い所でいい。話をつけるから」
「大丈夫かよ」
疑い深い目をしたエンリケを尻目に、最初は`もっと端に停めろ ‘ と合図をしていた係留係が、アーネストに目を留めた。
「アーネスト殿!! どうなさったのですか!?」
アーデル川での輸送業や港の運営は王家が担っているので、アーネストがどういった人物であるのかは知られている。
「火急の事態だ!! 至急グリフィス様にお会いしたい!」
「かしこまりました!! 許可しますので、どうぞそこにお停め下さい!」
「え……ここって、大型船用の係留場所じゃねえの?」
「我々が責任を持って、この場所に順ずる相応しい場所に移動させて頂きます! 今はお急ぎでしょうから、そこへお停め下さい!」
「相応しい場所って……じーさん何者だ……?」
エンリケに言われて、アーネストがにやりと笑う。
彼らと船員達は係留作業の後に下船をした。
「アーネスト殿、馬車を用意致しました」
「急ぐから馬に替えてくれ!」
「じじい、凄すぎ――って、疲れてないのかよ……?」
アーネストは金貨が一杯詰まった袋をエンリケに手渡した。
「お陰で助かったよ。お前たちは今日、これからどうするんだ?」
「疲れたから、ホテルでも取って一休みするよ」
「そうか。また機会があったら頼む」
「いや、もう御免こうむりたい」
アーネストは、係留係に何事かを知らせると、新たに用意をされた馬に飛び乗って城を目指した。
「じーさんの面を被った化け物か……」
城門の警護をしていた兵士達は目を剥いた。一週間前に出発をしたアーネストがもう帰ってきたからだ。係留係が気を利かして先触れを出していたが、その先触れと殆ど同時に到着をした。
まだ朝も早いせいで、城も動き出していない。
先触れを任されていた者は城で働いた経験もあった為、勝手知ったる城の中、疲れを見せるアーネストを応接室で待たせると、直ぐにグリフィスの部屋へと走った。
叩くようにノックをして、起きてきたグリフィスにアーネストが応接室で待っている旨を告げる。
すると今度はグリフィスに、クリスの従兄で今では自分の右腕であるデイヴィッドを、起こして応接室に連れてくるよう命じられた。彼はまたすぐに走り出す。
グリフィスは驚くほどに早く、白いシャツに黒いズボンを身に着けた姿で応接室に現れた。髪は寝乱れたままで、急いで駆けつけた様子が伺える。
立ち上がろうとするアーネストを右手で制して、自分も向い側のソファに荒く腰を下ろす。
「それで、一体何があった――?」
「クリス様が攫われました」
瞬間、身体を強張らせ、瞳も心痛の色を宿したが`今は自制を保たなければ ‘ と瞼を閉じて深く深呼吸をした。続いてデイヴィッドが紙とペンを持って現れ、グリフィスの隣に腰をかける。
「話を聞こう」
アーネストが要領良く説明をしていき、要点をデイヴィッドが書き止めていく。時々グリフィスも大事なところでメモを取った。
「クロノスのアレクサンダーか……噂は聞いている。彼は俺と似たタイプだ」
「そうですね。頭の回転が速く、策士であり、大胆不敵さも併せ持ちます。先程も言いました通り、優秀な騎士三人に後を追わせているので、詳しい情報を手にするでしょう」
「アレクサンダーが強引に既成事実を迫らないか心配だ」
「そのお気持ちは分かります。しかしアレクサンダーはクリス様のお心も欲しているようなので、そうそう手出しはしないかと思われます。無理矢理キスをされた時も泣いて嫌がっておりましたし、嫌われるようなことは極力避けるかと……」
「なんだと?」
グリフィスの不穏な声に、アーネストは自分が口を滑らせた事に気付いた。普段だったらしないであろう失態に、自分が相当疲れている事を自覚する。
彼がペンを持ったままグググと拳を握り締めた。
「グリフィス、待て!! そのペンは高いんだ、折るなよ!」
ボキッと鈍い音が響くと共に、怒りを押し殺した声で尋ねる。『ブラーマーのペンがあ――!』と叫んでいるデイヴィッドは無視であった。
「無理矢理キスを……?」
「はい」
ただでさえ、クリスを奪われて怒り心頭のグリフィスに、油を注いでしまう結果となり後悔をしたが、口から出てしまったものはもう仕様がない。
「……という訳で、最後には殴って逃げ出してきたようです。酒を相手にぶちまけて瓶を投げつけたとも言っていらっしゃいました」
クリスらしい……と、グリフィスの口角が一瞬上がった。
「ただ、グリフィス様以外の男性に唇を奪われたのは、相当ショックだったようです」
「クリスは直ぐに取り返す――」
「何か手だてはありますか?」
「まだ漠然としているが、すぐに考えを形にするつもりだ」
「分かりました。然らば仮眠を取らせて頂いてもよろしいでしょうか? この3日殆ど寝ていないのです」
「ああ、前と同じ部屋を使ってくれ。それにしても、こんなに早くよく戻ってこれたな」
「それについては秘密兵器が……」
「秘密兵器?」
アーネストから話を聞いて、早速グリフィスは指示を出した。
0
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
【R18】ハイスペDKと年上喪女 〜君の初チューを奪ったことは謝るから、もう逃がしてください〜
茅野ガク
恋愛
ハイスペックなイケメン男子高校生に執着され『色々』お世話される年上ズボラ女の話。
※他サイトにも投稿しています
令嬢は大公に溺愛され過ぎている。
ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。
我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。
侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。
そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。
「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。
古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。
まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。
ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。
ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。
良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
転生トカゲは見届ける。~俺はライゼの足なのです~
イノナかノかワズ
ファンタジー
俺が戦えないトカゲに転生して七十年近く。ずっと森と平原を歩いてようやくとある町に着いた。
そして俺は出会ったんだ。この長い長い旅の中で、煌くひと時を共に過ごし、家族となった子鬼人の男の子に。魔法の才能を持たない魔法使いを目指す最弱種族の子鬼人に。
これは俺の人生、いや、トカゲ生の中の一瞬にも近い物語。
少年と仲間との旅路。いずれ、世界を驚かせる伝説の旅路。
ただ、本格的な旅まで少しだけ時間がかかります。
また、チートはありません。トカゲは本当にトカゲです。戦う事もできません。
子鬼人の少年も色々と努力していますが、それでも強くはありません。
【R18】幼馴染たち(※全員美形)に婚カツを邪魔されるので困っています
茅野ガク
恋愛
【番外編と後日談を不定期で更新中】
幼なじみの美形三兄弟に溺愛され執着された主人公が、合コンに行って三人に『おしおき』される話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
表紙は保科さんに描いていただきました
三人の中で誰が一番お好みか教えていただけると嬉しいです♪
タイムスリップしたら新撰組に拾われました
ERICA
恋愛
家族以外誰も要らない。
友達も恋人も…学校なんて必要ない。
なのに、どうして私はここにいるの?
高校最後の夏休み、いつもの様に父と朝練をして、朝食に行こうとしてたのに突然の大地震が私たち――私を襲う。
目が覚めた時、私がいたのは京都!!?
しかも幕末の京都にタイムスリップしていた。
同じ名前の人と間違われた事で壬生浪士組の屯所で女中として置いて貰える事に。
両親を捜しながら働く内に、私の考えは少しずつ変えられていくーー?
夏休みのひと時、桜が体験した経験。
この出来事に意味はあるのか。
幕末の時代で桜はどうしていくのか、そして現代に帰れるのかーー。
歴史恋愛ファンタジー開幕!!
中イキできないって悲観してたら触手が現れた
AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?
粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる