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第一章
陶然たるくちづけ(改)
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グリフィスは避けられていた・・・もちろんクリスにである。せっかく滞在が伸びたのに、これでは全然意味がない・・・まあ、自分が蒔いた種ではあるが・・・それ以外にも問題が山積している。
自分は将来ヘルマプロディトスの国王となる。クリスの国に婿入りする訳だが、その前にアクエリオス国で自分が携わっている仕事を、然るべき誰かに引き継がねばならない。
国王である父と第一王子である兄は、いい統治者ではあるが優しくてしたたかさに欠ける。海千山千の商人やお役人相手に、とても渡り合っていけるとは思えない。一番の適任者は王妃である母上だが、まさか母上に任せるわけにもいかない。レオナルドは若すぎるし・・・
ここまで考えて、グリフィスは椅子の背にもたれて首の後ろで手を組んだ。
本当であるならば、婚約発表までの期間を長くしたほうが良かったのだ――後継者も余裕を持って選べるし、引継ぎもじっくりできる。
しかし、悠長に構えていて、もしクリスが他の誰かに奪われでもしたら・・・
そんな事は耐えられない・・・多分相手の男を殺してしまうだろう。アーネストに`クリスを私室に監禁して ‘ と言ったが、実は半分はそうしたい――いや、100パーセントしたいのだ。
あの瞳に映るのは自分だけでいい、誰にも見せないで閉じ込めておきたい。
ただ・・・一応理性を持ち合わせているし、そんな事をしたらクリスに嫌われるのが分かっているからしないだけだ。
全く・・・クリスに出会うまでは普通の男だったのに・・・
彼女に関してだけは酷く執着する自分がいて、時々戸惑いさえ覚える。そこまで考えたところで、また後継者の件に考えが戻る。
後継者――確か学生時代に優秀な奴が一人いた・・・ふと時計を見上げると、もう三時になっている。
「ちょっと休憩に行ってくる」
「はい、クリス様のところですね」
最近は休憩時間をクリスと一緒に過ごすようにしている。机の上を軽く片付けながら、返事をした。
「ああ、お前も休憩を取れ」
「ありがとうございます」
レオナルドが笑顔でグリフィスを送り出した。
ノックをすると、クリス自らが出迎えてくれた。ずっと避けられていたので少し驚く。
「グリフィスは動かないでね」
そう言われて頬にキスをされ、軽いハグを受けた。
「どういう風の吹き回しだ?」
昨日までは結構な避けられ方をしていたはずだが・・・会話の時、間にプリシラを挟まれたり・・・
「滞在期間を延ばしたとはいっても、時は過ぎていくものだし、慣れないと――と思って」
「それで、これ以上は無理かい?」
クリスは足を止めて振り向いた。
「動かない・・・? 触らない?」
「ああ、背中で腕を組んでいるよ」
クリスは警戒しながらも近付いてくる・・・その様子は好奇心を押さえ切れない猫を想わせた。しなやかな動きでグリフィスの前までくると、肩に手を置いて少し背伸びをする。グリフィスも首を傾げて少し屈み込む。クリスは躊躇いがちに唇を合わせると、その艶やかな紅い唇から舌を出して、彼の唇の合わせ目をゆっくりとなぞった。
(まずい・・・理性が飛びそうだ――)
グリフィスは後ろに組んだ両手を戒めのようにぎゅっと握りなおす。彼が口を開けると、クリスの舌が忍び込んできた。グリフィスの口の中を探索していたそれを、彼は舌で絡み取り、もっと奥まで誘い込む。くちづけが深くなりかけた時にクリスがいきなり唇を離し、くちづけが中断した。
震える手は肩に置いたままに・・・息を乱し戸惑い気味の表情でグリフィスを見上げている。グリフィスは視線を合わせたまま、静かにその身を屈めていく。クリスが嫌がる素振りを見せたらやめようと、注意深く観察していたが再び唇が重なるまで、その様子は見られなかった。
今度のキスはグリフィスが主導権を握った。彼の両手は後ろに組まれたままだが、まるで抱きしめられているような錯覚に陥る。荒波に翻弄される小船のように、彼が与えてくれるくちづけに陶然とし、胸の鼓動を激しくさせて、クリスはグリフィスにしがみついた。
益々深くなっていく二人のくちづけ―― を邪魔するように
「ウオッホン、ゴホゲホ・・・」とわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
グリフィスが顔を上げると、顔を赤くしたアーネストがソファに腰をかけている。
「いたのか・・・?」
「はい、最初から」
クリスが頬を赤らめて`すっかり忘れていた ‘ という顔で、グリフィスの胸に顔を伏せた。その恥かしげな様子が可愛らしく、額にくちづけるグリフィス。
「ゲホゴホ・・・」
「額ぐらい構わないだろう・・・」
クリスの背に手を当てて、ソファまでエスコートしたグリフィスは、何故かクリスがソファの対面の席、アーネストの隣に座り、何かあるなという顔をした。
「あ、あのグリフィス・・・提案があるのだけど・・・」
「なんだい?」
「婚約は三ヵ月後のままにして、結婚を2年後に延ばさない・・・?」
「――冗談を言っているのか?」
グリフィスの顔が険しくなる。
「冗談じゃないわ・・・貴方の為、アクエリオスの為を思って言っているのよ。やっと軌道に乗り始めた事業や街道の整備・・・これらの手綱を取って上手く御していける人なんてそうそういないわ。私だって二年は長くて嫌だけど、一年で貴方に代わる人を見つけて引き継ぐなんて到底無理だと思うの」
「その話を誰から聞かされた? レオナルドか――?」
グリフィスの顔は険しいままだ。
「レオナルドだけじゃないわ――みんな不安で、貴方が話を聞こうとしないから、私の所にくるんじゃない」
「一年三ヶ月で、ちゃんと引き継いで、順調に軌道に乗せてみせる!」
「臣下は貴方に少しでも長く居てほしいのよ! 二年は長いかもしれないけれど、その後はずっと一緒に居られるのよ!?」
臨戦態勢に入った二人の間に、アーネストが割って入った。
「まあまあ、そんな想い会っている者同士でいがみ合うものではありません」
「でもアーネスト、どうすれば・・・・」
クリスは涙目になっている。
「私に一つの考えがあるのですが――」
アーネストがにこやかに微笑みながら提案した。
自分は将来ヘルマプロディトスの国王となる。クリスの国に婿入りする訳だが、その前にアクエリオス国で自分が携わっている仕事を、然るべき誰かに引き継がねばならない。
国王である父と第一王子である兄は、いい統治者ではあるが優しくてしたたかさに欠ける。海千山千の商人やお役人相手に、とても渡り合っていけるとは思えない。一番の適任者は王妃である母上だが、まさか母上に任せるわけにもいかない。レオナルドは若すぎるし・・・
ここまで考えて、グリフィスは椅子の背にもたれて首の後ろで手を組んだ。
本当であるならば、婚約発表までの期間を長くしたほうが良かったのだ――後継者も余裕を持って選べるし、引継ぎもじっくりできる。
しかし、悠長に構えていて、もしクリスが他の誰かに奪われでもしたら・・・
そんな事は耐えられない・・・多分相手の男を殺してしまうだろう。アーネストに`クリスを私室に監禁して ‘ と言ったが、実は半分はそうしたい――いや、100パーセントしたいのだ。
あの瞳に映るのは自分だけでいい、誰にも見せないで閉じ込めておきたい。
ただ・・・一応理性を持ち合わせているし、そんな事をしたらクリスに嫌われるのが分かっているからしないだけだ。
全く・・・クリスに出会うまでは普通の男だったのに・・・
彼女に関してだけは酷く執着する自分がいて、時々戸惑いさえ覚える。そこまで考えたところで、また後継者の件に考えが戻る。
後継者――確か学生時代に優秀な奴が一人いた・・・ふと時計を見上げると、もう三時になっている。
「ちょっと休憩に行ってくる」
「はい、クリス様のところですね」
最近は休憩時間をクリスと一緒に過ごすようにしている。机の上を軽く片付けながら、返事をした。
「ああ、お前も休憩を取れ」
「ありがとうございます」
レオナルドが笑顔でグリフィスを送り出した。
ノックをすると、クリス自らが出迎えてくれた。ずっと避けられていたので少し驚く。
「グリフィスは動かないでね」
そう言われて頬にキスをされ、軽いハグを受けた。
「どういう風の吹き回しだ?」
昨日までは結構な避けられ方をしていたはずだが・・・会話の時、間にプリシラを挟まれたり・・・
「滞在期間を延ばしたとはいっても、時は過ぎていくものだし、慣れないと――と思って」
「それで、これ以上は無理かい?」
クリスは足を止めて振り向いた。
「動かない・・・? 触らない?」
「ああ、背中で腕を組んでいるよ」
クリスは警戒しながらも近付いてくる・・・その様子は好奇心を押さえ切れない猫を想わせた。しなやかな動きでグリフィスの前までくると、肩に手を置いて少し背伸びをする。グリフィスも首を傾げて少し屈み込む。クリスは躊躇いがちに唇を合わせると、その艶やかな紅い唇から舌を出して、彼の唇の合わせ目をゆっくりとなぞった。
(まずい・・・理性が飛びそうだ――)
グリフィスは後ろに組んだ両手を戒めのようにぎゅっと握りなおす。彼が口を開けると、クリスの舌が忍び込んできた。グリフィスの口の中を探索していたそれを、彼は舌で絡み取り、もっと奥まで誘い込む。くちづけが深くなりかけた時にクリスがいきなり唇を離し、くちづけが中断した。
震える手は肩に置いたままに・・・息を乱し戸惑い気味の表情でグリフィスを見上げている。グリフィスは視線を合わせたまま、静かにその身を屈めていく。クリスが嫌がる素振りを見せたらやめようと、注意深く観察していたが再び唇が重なるまで、その様子は見られなかった。
今度のキスはグリフィスが主導権を握った。彼の両手は後ろに組まれたままだが、まるで抱きしめられているような錯覚に陥る。荒波に翻弄される小船のように、彼が与えてくれるくちづけに陶然とし、胸の鼓動を激しくさせて、クリスはグリフィスにしがみついた。
益々深くなっていく二人のくちづけ―― を邪魔するように
「ウオッホン、ゴホゲホ・・・」とわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
グリフィスが顔を上げると、顔を赤くしたアーネストがソファに腰をかけている。
「いたのか・・・?」
「はい、最初から」
クリスが頬を赤らめて`すっかり忘れていた ‘ という顔で、グリフィスの胸に顔を伏せた。その恥かしげな様子が可愛らしく、額にくちづけるグリフィス。
「ゲホゴホ・・・」
「額ぐらい構わないだろう・・・」
クリスの背に手を当てて、ソファまでエスコートしたグリフィスは、何故かクリスがソファの対面の席、アーネストの隣に座り、何かあるなという顔をした。
「あ、あのグリフィス・・・提案があるのだけど・・・」
「なんだい?」
「婚約は三ヵ月後のままにして、結婚を2年後に延ばさない・・・?」
「――冗談を言っているのか?」
グリフィスの顔が険しくなる。
「冗談じゃないわ・・・貴方の為、アクエリオスの為を思って言っているのよ。やっと軌道に乗り始めた事業や街道の整備・・・これらの手綱を取って上手く御していける人なんてそうそういないわ。私だって二年は長くて嫌だけど、一年で貴方に代わる人を見つけて引き継ぐなんて到底無理だと思うの」
「その話を誰から聞かされた? レオナルドか――?」
グリフィスの顔は険しいままだ。
「レオナルドだけじゃないわ――みんな不安で、貴方が話を聞こうとしないから、私の所にくるんじゃない」
「一年三ヶ月で、ちゃんと引き継いで、順調に軌道に乗せてみせる!」
「臣下は貴方に少しでも長く居てほしいのよ! 二年は長いかもしれないけれど、その後はずっと一緒に居られるのよ!?」
臨戦態勢に入った二人の間に、アーネストが割って入った。
「まあまあ、そんな想い会っている者同士でいがみ合うものではありません」
「でもアーネスト、どうすれば・・・・」
クリスは涙目になっている。
「私に一つの考えがあるのですが――」
アーネストがにこやかに微笑みながら提案した。
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