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第一章

烙印を押されてる?(改)

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 晩餐での席順は、ランダルがプリシラの隣であった。クリス扮するマリオンがランダルの毒牙からプリシラを守る予定であったが、いざクリスが守ろうとすると、それはそれで楽しそうにしてクリスにちょっかいを出してくる。

 プリシラに無理矢理言い寄られるよりはマシなので、役割は果たせているのだしと深く考えないで適当に流す。グリフィスが仏頂面をしているのが気にはなるが・・・
 
 貴賓(一応ランダル)を迎えているので、食後男性は別室へと移動をした。クリスの隣にランダルが座ろうとしている。察したグリフィスがクリスと自分の席を替わってくれ、今度はランダルが仏頂面になる。
 しかし何だかんだと傍にきて、クリスの隣の席を交換してもらっていた。
政治についてひとしきり白熱した議論が交わされた後に、狩猟の話しに花が咲きお開きとなる。

「マリオン様、貴方の部屋まで政治談議などを楽しみながら、ご一緒いたしましょう」
「いいえ、それは――」
「さっきは全然政治に興味を持っていなかったようだがな」

 グリフィスがクリスを背中に庇う。

「さっきは年配の方々が話の中心だったからだよ。感覚が古くて面白くもない。その点マリオン様と私は若い者同士――きっと楽しい話ができる」

「お前と楽しい話などできなくても構わない。マリオンは将来兄になる俺と話さなければいけない事があるんだ」

「将来兄になるなら、いつでも話せるだろう? 大体うちから借金しているのだから、もう少し身の程をわきまえたらどうだ?」

「さっき従者から聞いた話だが、父王にも見放されつつあるようだな。こちらはきちんと借り入れた金を期日迄に返せるし、お前などもう脅威きょういでも何でもない」

「――ちっ! エリックめ、余計な事を」 

 そこでクリスは遅ればせながら気付く。原因である自分がいなくなればいいのだ。それにしても、何で男を演じている自分が男二人の間で取り合いをされているのだろう。

「プリシラの部屋に用事があるので先に失礼します」
「フィアンセとはいえこんな時間、付き添いが必要だろう。俺も一緒に行く」

 グリフィスが後を付いてきた。ランダルも諦めたようで、ぶつぶつ言いながら自分の部屋へと戻っていく。

「どこに行くんだ?」

 プリシラの部屋に向かっていると、グリフィスに呼び止められた。

「え? プリシラの部屋かと、これから話し合いをするんじゃないんですか?」
「もう遅いし、プリシラもベッドに入っているだろう。マリオンの部屋に行こう」

 マリオンの部屋とは、クリスが滞在している部屋ではない。クリスの部屋は女性用の内装がほどこしてあるので、万が一ランダルが立ち入った時に疑われないよう、別の部屋が用意されている。

「マリオンの部屋に行く必要がありますか? もう遅いしランダルも部屋に戻ったから、問題ないと思うのですが」

 それには答えずグリフィスは長い足でどんどん前を進んでいく。クリスは何か話したい事があるのだろうか、と後を渋々付いていった。
 今日、自分は上手く立ち回ったと思う。プリシラにはなるべく近付かせなかったし、別室で政治談義をしている時もべたべたしつこかったけど我慢をした。あの様子だと美少年でなくてもいいようだ。誰でもいいのか? 気持ちが悪い――
 グリフィスの話しだともう父王にも見放されているみたいだし、明日からは冷たくしても構わないだろう。 

 もう我慢をしなくていい――
 クリスは気持ちが軽くなり、いい気分でマリオンの部屋に入ると、いきなり壁へ押し付けられた。

「グリフィス!?」 
「ランダルにべたべた触られていた」
「しようがないじゃない。私だって嫌だったけど借金があるというから我慢をしていたのよ?」
「随分と楽しそうだったじゃないか」
「べたべた触られて楽しいわけがないじゃない! 貴方の目は節穴なの!?」
「・・・奴が君に触れたのが許せないんだ。上書きをさせてくれ」
「上書きって、なに!?」

 グリフィスがクリスにくちづけようと顔を寄せてきたので、避けるように横を向く。頬にキスを落とすと、今度は顔を隠そうと俯いた。彼は苦笑すると、スッと髪を束ねていた紐に手を伸ばす。

 クリスは俯いているのでよく分からないが、紐が引かれて取り去られるのを感じた。顔の周りに髪がさらさらと落ちてくる。

 グリフィスは指でいてその感触を楽しみ、後ろ髪に片手を絡めて下に引いた。
上向かされた顔が驚きに変わる。

「ずるい――!」
 その言葉ごと唇で封じられた。荒々しくむさぼられて息をする事もできない。

 唇がやっと離れ、荒く息をしていると、クリスの上着のボタンを外し始めた。
「何をしているの?」
「奴が肩に触っていた」
「肩って洋服の上からでしょう!?」

 身体をよじって逃れようとすると、すぐにまた引き戻される。両手をグリフィスの胸につき力を入れて抵抗をしたが、その手は簡単に掴まれてしまい彼の片手で拘束された。上着のボタンを全部外され、一気に両手首まで引き下ろされると、動きを封じるかせとなる。
 喉元に伸びてきた指先が、クリスのシャツのボタンに掛かった。

「やめて!」

 クリスは急に怖くなる。グリフィスは動きを一度止めると、クリスの瞳を見つめて宥めるようにつぶやいた。

「大丈夫キスするだけだから」
「キス・・・どこに?」

 クリスのシャツの肩だけをはだけ、その肩に沿ってくちづけていく。感じやすい首の付け根は念入りにキスをほどこし、クリスが声を上げる箇所は、攻めるように舌先でめ吸い上げた。

「んっ、や・・・あ・・・」

 出した声が恥かしくて思わず黙り込むと、いきなりまたくちづけられた。離れたグリフィスに囁かれる。

「声を我慢しないで――」

 顔は益々紅くなり、唇はそのまま首筋を辿るとある部分できつく吸い上げた。荒い息の下、やっとのことで問いかける。

「何をしているの?」
「印をつけている。俺のものだという印を」
 
 え・・・それはもしかしてキスマーク・・・?
 頭が少し覚醒かくせいし、クリスは身動き取れないながらも暴れだした。

「そんなもの、マリオンが! 王子がつけていたらだめでしょう!」
「じゃあ、プリシラが貴方につけた事にすればいい」
「あのプリシラがつける訳ないじゃない! グリフィス! いつもは冷静な貴方が何をしているの!」

 クリスの凄い剣幕けんまくに、グリフィスはほうけたように暫く見つめていたが、長く息を吐くとクリスの服装を直し始めた。

(分かってくれた――) 溜息ためいきをついて、ほっとしているクリスに向かって・・・

「本当は身体中につけたいけど」

(何で、考えていることが分かる!? それに何を考えている!)

 グリフィスがクリスの首筋に指を当てた。

「ここにキスマークがついている」
「ここなら首の中ほどだから、えりが高い上着を着れば大丈夫」

 グリフィスがチッと舌打ちをする。

「もっと上に付ければ良かった」
「何を言うの・・・!」

 思わず両手で首を隠してにらみつけたが、全然動じていない様子だ。

 クイっとあごをつかまれ上向かされる。

「怒った顔も可愛い――」

 そんな事を言われキスされて、顔が真っ赤になるのが分かった。頭に浮かんだ疑問をすぐ口にする。 

「私達は婚約者ではなく、お見合いをしているのよね?」
「そうだよ」

 そのまま深くくちづけられた。今度のくちづけは情熱的でとても長く、クリスは彼の物だと所有の烙印らくいんを押されているように感じる。キスが終わるとかがんで耳元でささやかれた。

「君が今、頭の中で考えている通りだ――」
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