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第一章

長子クリス (改)

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 ヘルマプロディトス王国は四季があり、穀物もよくれ、貿易によって栄えた国は大変豊かである。とある春の日、レネ国王陛下が長子のクリスを執務室に呼びつけた

「クリス。お前は何でここに呼ばれたか分かっているのか?」
「はい、父上。聖職者になる為の心の準備はできております。できれば、なり手がいない地方の小さな村を希望したいのですが・・・」
「違う!! お前はこのヘルマプロディトス国の跡取りになる予定なのに! なぜ男性に変化しない! 優秀で、武芸にもひいでているお前が、なぜ……!? 百歩譲って女性でも構わないから変化しろ!」
「そんな事言われても……男性は阿呆に見えるし、女性はみんな欲のかたまりに見えます」
「お前は~!!!」
「国王陛下、どうか気をお静め下さい」

 血管が切れそうな国王に、宰相のアーネストが声を掛ける。

 ヘルマプロディトス国の王室には秘密がある。赤ん坊が全員、ふたなりとして生まれてくる事だ。男と女、両方の性をあわせ持つのである。
 大抵は思春期の頃に、どちらかに心惹かれて変化をする。タイムリミットは20歳。それを越えてしまうと、ふたなりのままで一生を終える事になる。
 そしてこの事は王室だけの秘密とされていて、城で子供達の世話をする者達も古くから信頼されている者だけに限られていた。

 次子のマリオンは、15才の時に家庭教師の男性に淡い恋心を抱いて、女性に変化した。別に恋までしなくても、惹かれた相手の性に対応して変化するのである。残る二人も、男性に心惹かれて女性へと変化した。

 長子のクリスだけがいつまで経っても変化しない。クリスは前述のとおり頭も良く、運動の才に長けている。
 大胆な行動力と決断力を持っていた為に、周りからはきっと次のヘルマプロディトス国を担う皇太子、男性に変化してくれるだろう、と期待されていた。が、しかし・・・

「何故にお前は変化しない!」
「だからさっきも言ったとおり、男性にも、女性にも魅力を感じないからです」

 切れそうになる国王陛下の前にアーネストが進み出る。

「クリス様は頭が良い上に、人の本質を見抜く能力に長じているのです。男性は皆、自分より下に見えるだろうし、女性は女性で皇太子妃の座を手に入れようとする、欲望の権化ごんげとしてその目に映るのでしょう」

「申し訳ないとは思いますが、アーネストの言う通りです。父上、昔から我が王族でどちらにも変化しなかった者達はみな、聖職者への道を歩んできました。私もその道を希望します」
「許さん!! お前以外はもう嫁ぎ先が決まっているのだ! クリス! お前にこの国の未来が掛かっているのだぞ!? お前はまだ18才だし聖職者にならずとも、あと二年猶予ゆうよがある」

 そこで国王がにやりと笑った。クリスの背中に悪寒が走る。

「我が国を継いで貰えるように、アクエリオス王国のグリフィス第二王子との見合いの席を設けた。一ヶ月ほどあちらに滞在して、グリフィス王子のハートを射止めて、ついでにお前も女性化してこい」
「そんな無茶な!! 第一好きになれるとも限らないのに!」
「王子は聡明で、容姿も整っている。お前が大嫌いな阿呆ではないぞ。ほら、これが王子の姿絵だ」

 国王が渡そうとして出した絵の横に、もう一枚絵が置いてある。

「別に見たくはありません。姿絵って当てにならない事が多いし・・・そちらの絵は?」
「ああ、これは関係ない。妹君のプリシラ王女だ。手違いで一緒に送られてきたらしい」

 差し出された王女の絵を広げて見ると。銀の髪に、翡翠色の瞳、すっと通った鼻は少し上を向いていて、桜の花びらのような可愛い唇をしている。

「へえ、美人・・・笑ったらきっと可愛いのに。この絵が本人に似てたらだけど」
「そう、その王女は滅多に笑わないのだ。あまり人も寄せ付けないし`孤高のプリンセス ‘ と呼ばれている。人に対してとにかく冷たいらしい」
「ふ・・・ん。そんな感じには見えないのに」
「お前に似とるわ」

 クリスはカチンときたが当たらずとも遠からずなので黙っていた。

「とにかく行ってグリフィス王子のハートを掴んで、さっさと女性化してこい! 婚約に漕ぎ着けるまで帰ってくるな!」
 言い出したら聞かない父王の性格を知っているクリスは渋々アクエリオス行きを承諾した。 


 
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