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一章

1. 少女、村を出る

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 ゲンカンは13歳のやせっぽちな女子である。変な名前だが、これは拾ってくれた絨毯工房の親方がつけてくれたものだ。

 絨毯工房《じゅうたんこうぼう》の織子《おりこ》だったゲンカンが、長い茶色の髪を切り、男子の恰好をして東の果てにあるジュマ村を出たのは3ヵ月前のことだった。
 古い木製の箱を背負っているが、その中には織物とはさみがはいっている。時々、箱から甘い菓子の匂いがするのは、それは飴屋の少年がもっていた箱とはさみなだからなのだった。

 ゲンカンは絨毯の仕事をしていた時も運動は布で作った球を蹴《け》るくらいだったし、出発前は体調を崩していたので、ほぼ歩くことということをしていなかった。だから村を出たすぐには心臓がすぐに悲鳴をあげ、爆発《ばくはつ》そうになった。歩くのがこんなに大変なこととは知らなかった。

 でも、1ヵ月も歩き続けるとしだいに慣れてきて、歩くのが楽しくなった。靴底《くつぞこ》が減るというのは、初めての経験だった。
 工房にいた時には、靴の指のところに穴があいたり、足のサイズが合わなくなったら、新しいのがもらえた。けれど、旅に出ると、履《は》いていた靴は上の部分はまだ破けてもいないのに、底に穴があいた。歩く時に石がはいって痛いからも仕方がないから、市場で新しい靴を買った。

 ゲンカンが初旅で学んだことはほかにもある。
「歩けば、身体が強くなる。でも、靴は減る。腹も空く」
 ということもそうだ。
  
 ゲンカンは夜になると、アーニャのことを思った。アーニャは工房の親方の奥さんで、母さんみたいな人だった。
 工房に戻りたいとは思わないけれど、楽しいことがいくつもあった。アーニャがいつもそばにいてくれたし、友達もいた。手を動かしてものを作るのも、大好きだった。

 ゲンカンは太陽を見て、その沈む方向に歩いて行った。そちらの方角に、友達のジャミルがいるはずなのだ。ゲンカンはジャミルを追って旅に出たのだ。
 どのくらい歩けば、ジャミルのいる西の国に着くのかはわからない。世界というところは、思った以上に広いのだ。
 世界に果てがあるのだろうか。どこが端っこなのだろうか。
 これまでの人生では、そのうちになんとかなるだろうと思って生きてきたけれど、どうにもならないことがでてきた。 
 
 出発の朝にアーニャからはお金をもらったし、自分の貯めたお小遣い、友達からも餞別《せんべつ》をもらったから、金持ちになった気分だったが、ある日、さいふに手をいれたら、小銭《こぜに》が4枚しか残っていなかった。さいふに穴があいていて、落としてしまったのだろうかと思ったけれど、穴はなかった。
 どうもお金というものには羽根がついているらしく、どこかへ飛んでいってしまったようだ。

 ゴーシャン王国の主都に着いた時には、ゲンカンのさいふは空っぽだった。さて、どうしようか。


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