空城にて、空賊を待つ。

うさぎ荘

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プロローグⅥ

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ライネとネーグが戦闘を繰り広げていた最中、リアン達が王城へと向かって飛び立った後、現場の全てを任された副隊長のギニスは全機にグノー機の殲滅を発令し、三機を一組として敵一機を挟むか囲み込み撃墜させる作戦をとった。

だが、相手の船の操縦技術はかなり高く統率力も高い。

序盤はグノー空船軍が圧倒的に優勢となり、ヴェノス側は振り回される情勢であった。

しかし、複数機で一機を狙い、グノー軍の船同士間に狂信的な部下の操縦士を無理矢理突っ込ませ分断させるという強引な戦法が徐々に効力を発揮し、中盤には形成を逆転させグノー側は逃げの姿勢を取り始めた。

そして終盤、逃げる船へは徹底的に追いかけ回し、撃墜させようとしていた。

それは、ヴェノス兵がグノー軍の船一機をいつものように見逃そうとした時だった。

突然に無線機から声が割れる程の怒鳴り声が聞こえてきた。

「貴様!何をしている!?早く追いかけて撃ち落とせ!」

「え…、いえその…でも副隊長、指令部からはあくまで威嚇以上の事はするなと…。」

「それは前回までの話だ!今回は両国ともに報復戦だ!どっかの老いぼれジジイがグノーのモヤシ野郎を半殺しにしちまったからなぁ。」

「えぇ。ですが…。」

ここでギニスは一旦無線を切り、再度全操縦士へ向けて無線を発信した。

「ヴェノス国に命を捧げる勇敢な全戦士に告げる!いいか、よく聞け!この戦いは聖戦といっても過言じゃねぇ。なぜなら俺達は正義だからだ。あいつらはただ俺達から搾取してきた。俺達の国の奴らが懸命に育ててきた作物も…善良な人間も…俺が小さい時、若かった頃の母親とまだ赤ん坊だった弟が殺された。農作業から帰ってきたら殺されてたんだ。あれから数年…俺も親父も苦しんだんだ。あんなきつい思いは他の誰にも味わってほしくねぇ、だから俺は戦うって決めたんだ。」

このギニスの身の上話は部下達が百回近くは聞いている話である。

しかし、何度聞いても部下達はグノーへの怒りと憎しみで奮い立ち、自分の恋人、妻、家族を守るために常に全力でグノーへと向かう原動力となっていたのだった。

「だが、それよりも悪人なのはお国の連中だ。奴らはこの国が何をされても報復なんて絶対にしねぇんだ。

なぜなら俺達労働者や農民がどんなに酷い事をされても痛くねぇからなぁ。善民を見捨てるような奴らは正義か?俺達が今立ち上がらねぇとこの国は益々駄目になっちまう。だから俺達が正義で俺達のやる事も正義なんだ!何を迷う事がある!今こそ俺達がこの国を変える時が来た。よって、この戦いは敵を殲滅させた方の勝利だ!だからお前らは何も気にせず、自分の信じる正義を貫き通せ!徹底的に全機撃ち落とすんだ!」


ここまで話し終わる頃には部下達は全ての迷いを消してグノー機に対して体当たりしてでも撃墜せんとする勢いで敵に向かって速度を上げた。

次第に追い詰められる船が増えてゆき、そのうち一機、二機と後部から煙を出して墜落していった。

墜落を続ける船の中から、機体が燃えて脱出を試みた操縦士がいた。

船から飛び降り、落下傘を開いて白旗をヴェノス機に向けてこちらが気付けるように大きく振っていた。

「副隊長、墜落機から脱出した者がおりますが…。」

「よし、せめてもの情けだ。傘だけを狙え。」

「はっ?降伏籏を振ってますので…。」

「いいか?俺達の目標はあくまで敵の殲滅である。籏を狙うんだ!」

ゆっくりと落下していく操縦士に対して一機の船が近付いていく。

落下を続けるそのグノー兵はこれから何が起こるのかを察知したのか、大きく体を振り、青白い顔をしながら何かを叫んでいるようだったが近付いている船の操縦士には何も聞こえていないようであった。

次の瞬間には傘の布地に無数の風穴が空き、操縦士は誰にも聞こえない悲鳴を上げながら速度を上げて堕ちていった。

  自軍の船が五機撃墜された時点でライネはかなり焦っていた。

ライネは軍司令長のお気に入りである。

女であり若くして最年少にして最速で小隊長に取り立てられ、剣の腕前は国で勝てる者はいなくなり、また頭も常に冷静で視野も広く、どんな強者にも臆さない精神の強さも兼ね備えている。

多少の厄介事を起こしても揉み消して目を瞑り、水に流して普段通りに接されていた。

さすがの恩の薄いライネもこの司令長にだけは逆らわなかった。

それだけに、今回は非常にまずい。

相手がまさか全軍でかかってくるとは想定外であったし、五機も撃墜されては自分どころか隊長の処遇にさえ響いてしまうかもしれない。

それだけは避けたいところであった。

だからここでせめて手土産を持っていかねばならない。

当時、この国最強と言われたこの男の首なら何とか許してもらえるだろう。

現役を退いたと言ってもまぁ現状もこいつより強い奴はいないのだからこいつがこの国最強と言っても過言ではない。

「仕方ねぇ。もう少し楽しみたかったけど、ちゃちゃっと片付けるか。」

既に息が上がっていて、体力もほとんど残っていないネーグはさすがに恐怖した。

何とか腕を上げて戦闘の体勢を整えてみせた。

だが、彼にとってはこの体勢を保つのがやっとであり、あと剣を数回振れば倒れてしまう程であった。

それでもネーグは自国の姫を守ろうと必死に戦い続けた。

今も何とか戦闘体勢を保ったまま、ライネの次の一手に備えていた。

しかし、ライネの行動はネーグを面食らわせた。

一番緊張感の高まる一対一での戦闘時に、こんな事をする者など、見た事はない。

彼女はまず、大きく息を吸った。

次に大きく息を吐いた。

そして全身の力を抜き、完全無防備状態となった。

ネーグはあまりの驚きで口を開けたまま、その場で固まっていた。

次にライネは再度大きく息を吸った。

そしてまた大きく息を吐く。

ライネの行動に魅入られてしまったからか、周りの音が聞こえなくなり、静寂に包まれているかのようにさえ感じていた。

今度は先程よりも更に脱力し、腕はもはや肩からぶら下がっている状態であった。


そしてまた更に深い呼吸をした。

剣ですら持っているというよりも指に引っかかっているようにさえ見えた。

ネーグはあまりの驚きで戦闘体勢を解くところであった。

思考の方は予想外の展開にしばらく止まったままであった。

止まったままであったから、いつもなら気付く繊細な変化を見逃してしまった。

見逃してしまったがために相手の攻撃にさえ対応出来なかった。

はっと我に返った時にはライネは自分の目の前にいて、顔の周りが真っ赤になるくらい血が吹き出していた。

初めはどちらからの血しぶきなのかわからなかったが、傷の痛みと剣を振り下ろしているライネの姿を見て、自分が斬られた事にようやく気付くと、ネーグは痛みをこらえながらよろけ、片膝をついた。

ティアが近付こうと自分の名前を叫ぶ声が聞こえた気がした。

だが、こんな事で終わるネーグではない。

ネーグはティアの方へ手をかざしてこちらに来ないよう制止させた。

まだやれる。

この女にだけは負けてはいけない。

女に負ける訳にはいかないという自分の誇りもあるにはある。

だが、それ以上にこの女がこの場所にいるのは危険すぎる。

何をするのか、何を考えているのか全く読み取る事が出来ない。

こんな敵は今までに出会った事がない。

だからネーグはここで決意をした。

絶対に負けずに、しかも女を殺す事を。

ネーグは自分の腹を見た。

胸と腹に合計三箇所も傷が出来ていた。

あの瞬間に一体どうやって複数の傷を作れたのだろう。

相手の事を考えれば考える程恐怖心が増してしまいそうだったので、考えず、ひたすら相手にどう切り込むかを考えた。

そして覚悟を決めた。

ネーグは再び立ち上がり、剣をよろめきながら中段に構えた。

しかし、構えた瞬間には既にライネはネーグネーグの懐へ入り、更なる傷を作った。

「おい、おっさん。お前もしかして…。」

ネーグの体からは新たな傷が増え、血しぶきが上がった。

今度はさっきよりも更に大量の血が胸元から吹き出していた。

ライネの方には傷が一つも付いていなかった。

「何、刺し違えようとしてんだよ?あんたとっくに体力なくしてんだから俺の速さに付いてこれる訳ねぇだろ?」

出血をしてもなお近付き、一矢報いようとしているネーグを蹴り飛ばしネーグはそのまま地面に仰向けのまま倒れ起き上がる事すら出来ずにいた。

ライネは煙の上がっている方へ振り向くと益々顔をしかめていった。
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