解放

かひけつ

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第3章 ~よう

心がか③

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☆sideシン
熊が二匹いた。見上げるほどデカい…。

 筋肉隆々で7mほどだろうか?

後ろ足だけでたっての威嚇は、威圧感を超えて破壊の権化を体現しているようだ。その風貌で、人語に近いものを発していた。野生で見たら、UMAを真っ先に疑われる生命体である。

 <一匹は寝ているが…階段を塞いでいるな……>

 「リン様…さすがに、これは…」

危険ですよと思ったのだろう。リンは飛び出す。

ビュン!!

肩辺りに届きそうな角度で飛ぶが、すでに左の前足でルピカ諸共払おうとしていた。

ドガァアア!!!

【流円】と激しくかち合う。熊は体勢を変えて、飛んできたリンを噛もうと迎えに行く。

ガチン!

 「リン様!!」

リンが噛まれるかに見えたが、鋭い歯は【流弾】に阻まれる。リンは最低限の左手と両足だけ【流弾】運動エネルギーを纏う。

 「ごめんね」

 「??!」

熊は現状がすこし呑み込めていないようだが、抵抗する。

 「GAぁ@あ&*!!」

咆哮。ルピカの意識が飛びそうな破壊的な大声は、

 「…キかないけど…うるさい」

ガチィン!

リンは空中で後退し、熊は歯を嚙合わせる。そして、再度接近し、熊の鼻に触れ【波紋】を起こす。

 「…?!」

 〔…どうした…?〕

【波紋】によって、『霊体』が飛び出す。リンが目を見開くのが珍しく、声をかける。

 「……」

 「ガァゥン!!」

ガチィグィン!!

オレも霊体が飛び出たのを目視したにも拘わらず、熊は即座にリンを噛み千切ろうとする。リンは【流円】の出力を変え、熊をのけぞらせる。が、熊の復帰は速い。

 「…ココカラ…Saれ」

 「…」

 「しゃべった…!?」

リンは熊の心臓辺りに手を添える。【波紋】だ。熊も反応し、前足を持ってくる。人が胸板に付いた蚊を叩く動作に酷似している。

バァン!!

 「リン様!」

リンは落ちる。おそらく自由落下。熊のお腹に手を伸ばして僅かに触れながら落下している。が、それも数秒。

…トントト!シュン!

 「ただいま」

熊から離れてルピカがのいるところまで下がる。熊は身動きが取れず痙攣している。

 〔成功か…?〕

 「ん」

 「えっと…なにがあったんですか?」

 「俺も気になるなぁ~」

 「傍で寝てる熊と『霊体』が入れ替わってた」

 「??」

オレと『エンターテイナー』は理解する。体のコントロールをする『精神』の入れ替わり、操縦者のチェンジだ。

 「確か『霊体』って『意識』みたいなもんなんだったよな?」

 「そう…『神経伝達系』を狙ったけど、『霊体』に邪魔されて…【干渉波】使った」

二つともに持続的なダメージが見込める【干渉波】は、通じない相手がかなり少ない。過信は怖いが…。

 「ほぅ…するってっと」

 「どっちも使えなくて、機能不全…」

ドッドド!!

熊は膝をついてそのまま倒れ込みそうだ。意識もない、筋肉を動かせない。ただ【流弾】で受け止めるだけだ。そういう流れだった。リンがいち早く異変に気付く。

 「異分子…」

 「…アピスか…」

 <アピスだ。熊の意思に関係なく、暴走させている……>

熊の前足が動き出す。巨体であることや怪我していることから攻撃の到達は遅いが、それを差し引いても恐ろしい。

 「行ってくる」

 「…き、気を付けて下さい!」

それをあっけなく止めて、熊の鼻の上を走るリンもまた、末恐ろしい。

 「大人しく…して!」

 「…コ…ろ…」

【流弾】で熊の力の暴走を押さえる。熊の眉間にリンは手を置くと、浮きだっていた血管も落ち着き、沈静化に成功する。

 意外にもあっさりと収束する。

そのまま熊を横にする。

 「お疲れ様です!リン様」

 「K0..l。.s..!」

 「コロ…さなi…Ðぇ」

弱っていてボロボロの熊が強気で、階段付近にいた無傷の熊は弱気だった。リンは無傷の熊を一瞥して呟きながら熊の毛並みに沿って撫でる。

 「…治す」

と言っても、簡単に他者に異能は使えないし、【波紋】のダメージは打ち消せても、基本的に治療するものではない。最後の熊の攻撃は神経を無理矢理再建させる荒業。体がボロボロになって当然の行為だ。撫でているのは、敵意がないと伝えている。気を許した仲間間であれば、異能は容易に使えるからだ。

 「b_!!」

 「シン…じヨぅ」

 「....」

 「……」

リンが神経を繋ぎ直し、筋繊維の修復を行った。熊たちは、階段まですんなりと通してくれる。阻む者はもういない。

 「もう進んでいいでしょ?」

 「…あぁもちろん、突破おめでとう」

 「そう」

 「私が先頭行きますね!?」

 「ありがと」

早く行こうと言わんばかりの塩対応。どこか釈然としない会話だったが、誰も突っ込まずに階段まで進む。この短時間で何か変わったような気がしたが、異能なしで心は読めない。リンに委ねることにして先のことを考える。

カツンカツンカツンカツン…

 「……あの…最後の熊の暴走って何が原因だったんですか?」

 「【防音】するね…」

 「…アピスの小型脳味噌CPUみたいなのが神経を再建したり、暴走させた…」

 「…『エンターテイナー』…?」

声色が変わった『エンターテイナー』にルピカですら気づき、足を止める。階段は電気の配置が丁寧でリンとルピカの位置からだと『エンターテイナー』は丁度、逆光になって表情が見えない。

 「トドメは【深侵砕打】…そのCPUさえ破壊できて勝ちだ」

 「…そうだね」

 「なぁ……教えてくれ」

階段はどうしても不穏さを覚えさせる。なんてないはずなのに、もどかしさと食わず嫌いが入り混じる。

 「は喋っていたか??」

オレの理解の超えることがここではよく起こる……。
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