43 / 131
第3章 ~よう
きめ⑦
しおりを挟む
☆sideシン
ルコの感傷的な空気を察して切り出す。
〔…オレらも禍根を残したくないから、全会一致でことをすすめたい。君の懸念点を教えて欲しい〕
「強く賛成しないだけで反対ではない。ただそれだけ。懸念点を明確にするなら、その……」
ルコは俯く。酷く言いずらそうにしている。沈黙となるが、それは穏やかで聞く姿勢を皆がとっていた。ルコは渋々続きを呟く。
「リン。あなたはね」
サァーー
********************
風が吹いた。感覚が研ぎ澄まされたかのように視界の色が消える。厳密に言えば、白と黒だけの世界を垣間見る。そして、オレは直感的に察する。これは、リンのいつも見る景色だったのだと。ルコは静かに顔を上げると、ケイトの方を見る。重々しく口を開く。
「…お母さんと」
色がつく。殺風景な景色が一変し、太陽のような笑顔や暗く自分を責めるといったケイトの様子がルコの背後にホログラムのように表出する。暖色系と寒色系のそれぞれはケイトの人格を擬似的に形成しているように感じた。
「……お父さんが」
またしても、ルコの背後からソレを感じ取る。冷たい印象を与えるグルバンのホログラムが複数パターン現れた後、リン出産時の家族の顔や自分の勘違いに失望しかけた様子、リンがいた部屋で殿を務める様……。
********************
「身体をくれたんだよ。…だから、その、効率を考えてその身を捨てるのはどうしても引っかかっちゃうだけだよ」
リンはルコに抱き着くように手を広げる。当然霊体に触れることはないのだが、誰が見てもルコが抱き着いたと言える状態だった。
「…温かい」
「リンちゃん?」
ルコは戸惑いながらそう言った。
「心配、嬉しいよ。ありがとぅ」
「……」
この場にいた皆が、鋭い胸の痛みに襲われる。同じことを感じ、思っているはずだ。
<こんなに他者を思い、辛い人生を送ったきた少女がさらに試練を受けねばならないのだろうか?そうせざるを得ない世界もおかしいし、これまでの人生もハッキリ言って恵まれていない。親とはほぼ離れ離れ、体温を感じれるヒトとの関りはないに等しい>
ルコが、ケイトが、霊達が、涙を堪えていた。妖精がルコとリンの周りに集まり、より温かい空間を作り出す。
オレは……。オレは何故か感傷に浸っていた。
<オレは神だったハズだ。そんな過去も、異能も、この子を幸せにできるか断言できない。>
不安になってしまった。
<これら全てが前座で、ただただ絶望に堕とす為の一生なのではと……。オレみたいな中途半端な神じゃなくて、世界を完璧にコントロールできる本物の神がいて、そいつがアピスみたいなクソばっか優遇してるんじゃないかと思ってしまう>
馬鹿げたことを考えてしまうほどに運命というのは……。
「そんなことないよ」
この世界と自分に嫌気が差してきた中で凛とした声が響く。声の主は、リンだ。
「…えっと、どうかしたの?」
リンが急にオレを見つめ始めたので、ルコはオロオロする。
〔オレが軽くネガティブな想像をしてただけだよ〕
「大丈夫」
リンは平坦な声でそう応える。リンと関わったものなら感じ取れる自信がそこにはあった。が、そこにこそ不安があった。
〔…〕
何も言わないオレに重ねてリンは発言する。
「…任せて、信じて」
オレは目を閉じる仕草を取る。リンはいわゆる中二病に近い気質がある。決定的な違いは本当に世界一の能力があるのかないのかだと思う。リンは気づいていない弱点、いや、わざと見過ごしているものがあるとオレは感じ取っていた。が、思考にしては読まれてしまうので、この感情を抽象化した状態でリンには見せる。このこと自体をケイトが経験させたいという目的の妨げとなりかねない。
「……?」
リンも流石に、疑問に思ったようだ。が、表情を和らげる。
「わたしのため…でしょ?」
息を飲んだ。すべて分かっているのではないかと錯覚してしまうほどの重みを感じる。
「なにが起きても、大丈夫だから」
絶句してしまう。
<この齢で、なんて思考をしているんだよ…>
リンの最大の強みはその理性である。
「リンちゃん、始めるよ」
「これが電波塔の図面、そして、大まかにわかっている仕掛けがあってのぅ」
「うん」
ケイトとリン、ルコや他の霊が作戦会議を始める。オレは独り思わずにはいられなかった。
<君の弱点は……>
綿密な作戦会議の後、オレはリンの身体を改造する。特に拒絶反応が出ることなく順調にことが進む。
オレは眼を覚ましたリンを覗き込む。静かに起き上がり、眠たげな様子は一切見せず、呟く。
「行くよ」
静かな闘志を持つこの子をオレは利用してしまうことになる。
〔………〕
後ろめたさからオレは何も言えずにその背中を追いかける。
ルコの感傷的な空気を察して切り出す。
〔…オレらも禍根を残したくないから、全会一致でことをすすめたい。君の懸念点を教えて欲しい〕
「強く賛成しないだけで反対ではない。ただそれだけ。懸念点を明確にするなら、その……」
ルコは俯く。酷く言いずらそうにしている。沈黙となるが、それは穏やかで聞く姿勢を皆がとっていた。ルコは渋々続きを呟く。
「リン。あなたはね」
サァーー
********************
風が吹いた。感覚が研ぎ澄まされたかのように視界の色が消える。厳密に言えば、白と黒だけの世界を垣間見る。そして、オレは直感的に察する。これは、リンのいつも見る景色だったのだと。ルコは静かに顔を上げると、ケイトの方を見る。重々しく口を開く。
「…お母さんと」
色がつく。殺風景な景色が一変し、太陽のような笑顔や暗く自分を責めるといったケイトの様子がルコの背後にホログラムのように表出する。暖色系と寒色系のそれぞれはケイトの人格を擬似的に形成しているように感じた。
「……お父さんが」
またしても、ルコの背後からソレを感じ取る。冷たい印象を与えるグルバンのホログラムが複数パターン現れた後、リン出産時の家族の顔や自分の勘違いに失望しかけた様子、リンがいた部屋で殿を務める様……。
********************
「身体をくれたんだよ。…だから、その、効率を考えてその身を捨てるのはどうしても引っかかっちゃうだけだよ」
リンはルコに抱き着くように手を広げる。当然霊体に触れることはないのだが、誰が見てもルコが抱き着いたと言える状態だった。
「…温かい」
「リンちゃん?」
ルコは戸惑いながらそう言った。
「心配、嬉しいよ。ありがとぅ」
「……」
この場にいた皆が、鋭い胸の痛みに襲われる。同じことを感じ、思っているはずだ。
<こんなに他者を思い、辛い人生を送ったきた少女がさらに試練を受けねばならないのだろうか?そうせざるを得ない世界もおかしいし、これまでの人生もハッキリ言って恵まれていない。親とはほぼ離れ離れ、体温を感じれるヒトとの関りはないに等しい>
ルコが、ケイトが、霊達が、涙を堪えていた。妖精がルコとリンの周りに集まり、より温かい空間を作り出す。
オレは……。オレは何故か感傷に浸っていた。
<オレは神だったハズだ。そんな過去も、異能も、この子を幸せにできるか断言できない。>
不安になってしまった。
<これら全てが前座で、ただただ絶望に堕とす為の一生なのではと……。オレみたいな中途半端な神じゃなくて、世界を完璧にコントロールできる本物の神がいて、そいつがアピスみたいなクソばっか優遇してるんじゃないかと思ってしまう>
馬鹿げたことを考えてしまうほどに運命というのは……。
「そんなことないよ」
この世界と自分に嫌気が差してきた中で凛とした声が響く。声の主は、リンだ。
「…えっと、どうかしたの?」
リンが急にオレを見つめ始めたので、ルコはオロオロする。
〔オレが軽くネガティブな想像をしてただけだよ〕
「大丈夫」
リンは平坦な声でそう応える。リンと関わったものなら感じ取れる自信がそこにはあった。が、そこにこそ不安があった。
〔…〕
何も言わないオレに重ねてリンは発言する。
「…任せて、信じて」
オレは目を閉じる仕草を取る。リンはいわゆる中二病に近い気質がある。決定的な違いは本当に世界一の能力があるのかないのかだと思う。リンは気づいていない弱点、いや、わざと見過ごしているものがあるとオレは感じ取っていた。が、思考にしては読まれてしまうので、この感情を抽象化した状態でリンには見せる。このこと自体をケイトが経験させたいという目的の妨げとなりかねない。
「……?」
リンも流石に、疑問に思ったようだ。が、表情を和らげる。
「わたしのため…でしょ?」
息を飲んだ。すべて分かっているのではないかと錯覚してしまうほどの重みを感じる。
「なにが起きても、大丈夫だから」
絶句してしまう。
<この齢で、なんて思考をしているんだよ…>
リンの最大の強みはその理性である。
「リンちゃん、始めるよ」
「これが電波塔の図面、そして、大まかにわかっている仕掛けがあってのぅ」
「うん」
ケイトとリン、ルコや他の霊が作戦会議を始める。オレは独り思わずにはいられなかった。
<君の弱点は……>
綿密な作戦会議の後、オレはリンの身体を改造する。特に拒絶反応が出ることなく順調にことが進む。
オレは眼を覚ましたリンを覗き込む。静かに起き上がり、眠たげな様子は一切見せず、呟く。
「行くよ」
静かな闘志を持つこの子をオレは利用してしまうことになる。
〔………〕
後ろめたさからオレは何も言えずにその背中を追いかける。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件
霜月雹花
ファンタジー
15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。
どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。
そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。
しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。
「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」
だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。
受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。
アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。
2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?
kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ?
「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」
まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。
旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。
婚約破棄で、自由になったと思ったのに
志位斗 茂家波
恋愛
「ヴィーラ・エクス公爵令嬢!!貴様と婚約破棄をする!!」
会場に響く、あの名前を忘れた馬鹿王子。
彼との婚約破棄を実現させるまでかなりの苦労をしたが、これでようやく解放される。・・・・・・ってあれ?
―――――――
息抜きで書いてみた単発婚約破棄物。
ざまぁも良いけど、たまにはこういう事もやってみたいと思い、勢いでやってしまった。
拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~
ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎
2024年8月6日より配信開始
コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。
⭐︎書籍化決定⭐︎
第1巻:2023年12月〜
第2巻:2024年5月〜
番外編を新たに投稿しております。
そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。
書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。
改稿を入れて読みやすくなっております。
可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。
書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。
いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。
山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。
初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15をつけました
※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。
作品としての変更はございませんが、修正がございます。
ご了承ください。
※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。
依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。
私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる
下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。
ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる