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32. 下賜されるミケ
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数日して、パチドはグリーン総司令から呼び出しを受けた。
フェルニア攻略の功をねぎらい、褒美を与える、という入りは良かったのだが、禄の増額やムーガルでの恩賞を伝えた後も、パチドを下がらせようとしない。
そして、少し困ったような顔をしながら、他に欲しいものはないかと聞くのだ。
もともと物欲の少ないパチドは、
「すでに、身に余る栄誉を賜っております」
と答えて下がろうとした。
「あー、まてまて。おまえ、フェルニアの血も流れておるだろう?この地の男は他者の魔素を取り込んで魔力を強化すると聞くが、おまえはどうなのだ?」
「継ぎはぎですから。他者から魔素をとることもできますが、無くとも・・・」
「そうかぁ!とれるか!」
グリーン総司令はパチドの言葉を遮って、嬉しそうに大声を被せた。
「ええ、まぁ」
「では、そなたの褒美に、あのミケという捕虜を追加しよう。魔素の量が多いそうだぞ!」
「は?」
パチドが胡乱な目でグリーン総司令を見上げると、観念したように上向きのため息を吐いた。
「実は、な、少々扱いに困っておる。魔性とでもいうのかな。あの女の監禁場所に、うちの者が俗物から堅物から入り浸ったあげく、骨から鼻毛から抜かれまくる奴らが続出してな。このままだと軍規が乱れるどころか、あの女の取り合いで内紛だ」
「はぁ。捕虜なのですから、隔離するなり監禁を独房でするなり、最悪何か理由をでっちあげて処刑でも・・」
「それが出来ればおまえにこんな相談などしておらぬわ。我こそは吐かせて見せるので拷問を許可せよだの、ムーガルでも魔素で動く魔道具を作ってみせるのであの女をよこせだの、果ては妻だの奴隷だのにしたいので下賜せよというものまで、あの女の『有用性』をとく上申だけで16件だぞ!」
「十、六?つま?・・何というか、いろいろ増えております、ね」
「その通りだ!妻にすると言ってきた奴は、ミケの親に金まで払っていたぞ。なんだ、あれは。魔素というのはアヘンでも混ざっておるのか!しかも、上申してきた奴らは自分がおかしくなっていることに気づかんのだぞ?放っておけるか!」
アヘン、ではないが、あきらかに不自然な精神作用がはたらいている感覚は否めない。
全面降伏させたはずのフェルニアで、上層部がそろって捕虜の女に狂ったなどと本国に報告するのは、総司令としてはぜひとも避けたいところだろう。
「おつかれ、様です」
「おまえが今回の戦で最も活躍したことはだれの目にも明らかで、褒章に不満は出ぬ。魔素でおまえが強くなれば、軍にも良い。なにより、レンツの拷問とやらを見にいっていまだに正気なのはそなただけだ!」
「厄介なものを・・」
「その通りだ!だが、無事に平定を終えてムーガルまで軍を撤退させたくば、ごちゃごちゃ言わずに引き受けろ。魔素味のメシだと思え!今日中に送り届けるからな!」
確かに、拷問の再開を許可して今更情報が取れても、意見を撤回した追撃推進派の3人とぶつかるだけだ。魔素の扱いになれていない者に魔素特化の兵器を触らせるなど自爆行為だし、話に聞く限り上申した誰かひとりに下賜すれば、私兵同士がぶつかる内戦もどきの争奪戦になりそうだ。
魔素を安全に餌扱いできるパチドに押し付けて、褒美がてら軍の増強を図ったことにしたい気持ちはよくわかる。
問題は、グリーン総司令が思うほどパチドが平静ではないと言うことだが、簡単に弱みをさらせるほどムーガルにパチドの味方は多くない。
「承りました」
パチドは、そう答えたのだ。
フェルニア攻略の功をねぎらい、褒美を与える、という入りは良かったのだが、禄の増額やムーガルでの恩賞を伝えた後も、パチドを下がらせようとしない。
そして、少し困ったような顔をしながら、他に欲しいものはないかと聞くのだ。
もともと物欲の少ないパチドは、
「すでに、身に余る栄誉を賜っております」
と答えて下がろうとした。
「あー、まてまて。おまえ、フェルニアの血も流れておるだろう?この地の男は他者の魔素を取り込んで魔力を強化すると聞くが、おまえはどうなのだ?」
「継ぎはぎですから。他者から魔素をとることもできますが、無くとも・・・」
「そうかぁ!とれるか!」
グリーン総司令はパチドの言葉を遮って、嬉しそうに大声を被せた。
「ええ、まぁ」
「では、そなたの褒美に、あのミケという捕虜を追加しよう。魔素の量が多いそうだぞ!」
「は?」
パチドが胡乱な目でグリーン総司令を見上げると、観念したように上向きのため息を吐いた。
「実は、な、少々扱いに困っておる。魔性とでもいうのかな。あの女の監禁場所に、うちの者が俗物から堅物から入り浸ったあげく、骨から鼻毛から抜かれまくる奴らが続出してな。このままだと軍規が乱れるどころか、あの女の取り合いで内紛だ」
「はぁ。捕虜なのですから、隔離するなり監禁を独房でするなり、最悪何か理由をでっちあげて処刑でも・・」
「それが出来ればおまえにこんな相談などしておらぬわ。我こそは吐かせて見せるので拷問を許可せよだの、ムーガルでも魔素で動く魔道具を作ってみせるのであの女をよこせだの、果ては妻だの奴隷だのにしたいので下賜せよというものまで、あの女の『有用性』をとく上申だけで16件だぞ!」
「十、六?つま?・・何というか、いろいろ増えております、ね」
「その通りだ!妻にすると言ってきた奴は、ミケの親に金まで払っていたぞ。なんだ、あれは。魔素というのはアヘンでも混ざっておるのか!しかも、上申してきた奴らは自分がおかしくなっていることに気づかんのだぞ?放っておけるか!」
アヘン、ではないが、あきらかに不自然な精神作用がはたらいている感覚は否めない。
全面降伏させたはずのフェルニアで、上層部がそろって捕虜の女に狂ったなどと本国に報告するのは、総司令としてはぜひとも避けたいところだろう。
「おつかれ、様です」
「おまえが今回の戦で最も活躍したことはだれの目にも明らかで、褒章に不満は出ぬ。魔素でおまえが強くなれば、軍にも良い。なにより、レンツの拷問とやらを見にいっていまだに正気なのはそなただけだ!」
「厄介なものを・・」
「その通りだ!だが、無事に平定を終えてムーガルまで軍を撤退させたくば、ごちゃごちゃ言わずに引き受けろ。魔素味のメシだと思え!今日中に送り届けるからな!」
確かに、拷問の再開を許可して今更情報が取れても、意見を撤回した追撃推進派の3人とぶつかるだけだ。魔素の扱いになれていない者に魔素特化の兵器を触らせるなど自爆行為だし、話に聞く限り上申した誰かひとりに下賜すれば、私兵同士がぶつかる内戦もどきの争奪戦になりそうだ。
魔素を安全に餌扱いできるパチドに押し付けて、褒美がてら軍の増強を図ったことにしたい気持ちはよくわかる。
問題は、グリーン総司令が思うほどパチドが平静ではないと言うことだが、簡単に弱みをさらせるほどムーガルにパチドの味方は多くない。
「承りました」
パチドは、そう答えたのだ。
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